OSSプロジェクトとベンダの関係に変化の兆し:OSS界のちょっと気になる話(5)(2/2 ページ)
敵対するか、あるいはオープンソースライセンスでソースコードを提供するだけの関係だったOSSプロジェクトとベンダの関係が、より深く、積極的に絡み合うものへと変わりつつある。(編集部)
ベンダサミットの効果——情報交換の促進
「マイクロソフトがHyper-VのサポートゲストOSとしてFreeBSDの追加を検討している」という話は、2011年11月に米サニーベールで開催されたFreeBSDベンダサミットですでに明らかにされていた。結果、NetAppおよびシトリックスと協力する形で、半年後にはFreeBSDへのドライバの移植に成功している。
FreeBSDプロジェクトおよびFreeBSDファウンデーション(FreeBSD Foundation)はここ数年、FreeBSDを活用しているベンダやFreeBSDの活用を検討しているベンダとの情報交換を促進する取り組みを進めている。ベンダサミットはその活動の1つで、ベンダからの要望の抽出や、FreeBSDへの機能のバックポートなどが実施されている。
ベンダが独自に開発を継続することの「困難さ」
FreeBSDを活用したアプライアンスの開発やエンタープライズクラスサービスの提供などはさまざまなシーンで行われているが、「独自開発とメインストリームとの同期」という問題が常に存在している。価値を高めるために独自開発をした部分をベンダ単体でメンテナンスし続けることは、それなりのリスクを持っている。
FreeBSDを活用するベンダとしては、特にその事業を展開するに当たって核となる技術だけを保有し、それ以外の機能についてはFreeBSDのメインストリームにマージして、プロジェクト側で開発・保守をしてもらう方が都合がよいことが多い。隠ぺいする必要がない場合には、それこそすべてFreeBSDに取り込んでもらった方が、何かと都合がいいことになる。
変わり続けるFreeBSDメインストリームに対応するように、独自で追従し続けるという作業は、それなりの開発コストをかけ続けなければならないことを意味している。
OSSプロジェクトとベンダが協力するスタイル
FreeBSDに機能をマージする方法、または開発まで含めて機能を実装してマージするために取られる方法は主に2つある。
まずはスポンサーシップという形式での取り組みだ。必要とする機能や要望を提示し、これに対して支援を実施する。FreeBSDファウンデーションやプロジェクト経由で開発者に開発を実施してもらい、最後にマージする。この方法はFreeBSD開発者を抱えていないベンダが実施しやすいスタイルといえる。
もう1つは、FreeBSDコミッタを雇用して、雇用したコミッタ経由で機能の実装やメインストリームへのマージを実施する方法。お抱えの開発者をFreeBSDコミッタにしてもらうという方法もある。この方法は開発が迅速で、かなり早い段階でメインストリームにマージできるという特徴がある。
FreeBSDプロジェクトはOSSプロジェクトとしてはかなり大規模な方に分類されるが、それでも、もっと大きなOSSプロジェクトから比べれば小ぶりであり、プロジェクトの見通しがよい状態にある。このようにベンダに対してもフラットな立場であり、ベンダが参加しやすい土壌ができあがっている。最近FreeBSDをアプライアンスなどに活用する企業が増えているのは、こうした、ベンダからの参加のしやすさがあるという事実もある。
別のケース——Netflixにおける協力関係
もっと最近のニュースであれば、例えばNetflixが発表した「Open Connect Content Delivery Network」も面白い。動画配信に特化したCDNソリューションだが、同社はこのプロダクトにFreeBSDとNginxを採用している。
Netflixは、OSにFreeBSDを採用した理由として安定性と機能のバランスを挙げている。またNginxを採用したのは安定性と性能が理由だとしている。
FreeBSD+Nginxは、いま最も注目されている組み合わせであり、NginxはFreeBSD上で開発されていることもあって相性がいい。Netflixは、このソリューションを開発するに当たって施した変更を、同チームのFreeBSDコミッタを経由して、メインストリームへバックポートするとしている。
より深く協力するというスタイルへ
こうした事例から読み取れることは、OSSプロジェクトとベンダとの関係が、ソースコードをオープンソースライセンスの基で提供するというだけの関係から、お互いがより積極的に絡み合う時代になってきている点にある。
OSSの活動は、情熱だけで10年ならばこなせるかもしれない。しかし20年、30年というスパンになってきたとき、多くのOSS活動家はさまざまな困難に直面する。活動資金がなければ生きていけないのは当然だ。
一方企業は、OSSを欠かすことができない技術と認識しており、OSSプロジェクトとのかかわりは企業活動の一環として重要なものになりつつある。こうした両者の利害が一致することで、お互いに利益のある関係を模索する動きが広まっている。
だいぶ前からこうした関係が構築されていたOSSプロジェクトもあれば、今後こうした取り組みを積極的に進めていくことになるOSSプロジェクトもあるだろう。前回の記事では、OSSプロジェクトで採用されるライセンスに変化が現れていることを取り上げたが、こうした動きも合わせて考えると、OSSプロジェクトとベンダとの関係が徐々に変わりつつあることが見えてくる。
図1 マイクロソフトの公式ブログに、FreeBSDのロゴが掲載される時代になった
著者紹介
オングス代表取締役。
後藤大地
@ITへの寄稿、MYCOMジャーナルにおけるニュース執筆のほか、アプリケーション開発やシステム構築、『改訂第二版 FreeBSDビギナーズバイブル』『D言語パーフェクトガイド』『UNIX本格マスター 基礎編〜Linux&FreeBSDを使いこなすための第一歩〜』など著書多数。
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