インターネットの歴史的名(迷)言集5選:村井純教授が語る
「TechLION vol.10」のゲストに、「日本のインターネットの父」とも呼ばれる慶應義塾大学環境情報学部長の村井純教授が登場。いくつかの名言(迷言)を紹介しながらインターネットの歴史を振り返った。
11月16日、技術の草原で百獣の王を目指すエンジニアたちが集う、というコンセプトのイベント「TechLION vol.10」が開催された。今回のゲストは、「日本のインターネットの父」とも呼ばれる慶應義塾大学環境情報学部長の村井純教授。村井教授は、いくつかの名言(あるいは「迷言」)を紹介しながらインターネットの歴史を振り返った。
この「電話」という技術は真剣なコミュニケーションの手段として利用するには欠点が多過ぎる。この技術はわれわれにとって本質的な価値は何もない ―ウエスタンユニオン(1876年)―
この言葉は、1876年、金融および通信事業を手掛けていたウエスタンユニオン(Western Union)の資料に記載された言葉である。「今となっては電話はインフラであり、コミュニケーション手段としてとても重要な役割を担っている。しかし、いつの時代も新しいテクノロジーの導入は大きな抵抗に遭った」と村井教授はいう。
この無線オルゴールから商業価値が生まれる可能性はない。相手を特定しないメッセージに金を払う人がいるはずがない ―デビッド・サーノフ(1920年代)―
これは、ラジオやテレビを普及させたデビッド・サーノフ(David Sarnoff)氏の言葉である。ラジオ産業への投資を呼びかけられた際の返答として、記録されている。
今では、テレビもラジオもインターネットも、無料のコンテンツが当たり前である。しかし、「広告を打つ」というアイデアがなかった時代、無料でコンテンツを流すことに対する理解はほぼ皆無であった。村井教授は「『コンテンツを無料で提供し、間に広告を挟むことで収入を得る』というビジネスモデルそのものが容易に認められる時代ではなかった」と話す。
640KBはすべての人にとって未来永劫(えいごう)充分なメモリだ ―ビル・ゲイツ(1981年)―
インターネットのアドレス空間は32ビットで充分だ ―ヴィントン・サーフ(1977年)―
「640KBはすべての人にとって未来永劫(えいごう)充分なメモリだ」という言葉は、ご存じの方も多いのではないだろうか。マイクロソフトの共同創業者であり、会長のビル・ゲイツ(Bill Gates)氏の言葉だ。一方、「インターネットのアドレス空間は32ビットで充分だ」と述べたのは、インターネットとTCP/IPプロトコルの創生に大きな役割を担ったヴィントン・サーフ(Vinton Cerf)氏。ほんの30〜40年前はこれで十分なスケールだと思われていた。大きな功績を残した彼らをしても、これほどのスピードでコンピューティング能力とインターネットが拡大するとは予想できなかった。
電子メールよさようなら、FAXよこんにちは ―後藤英一(1986年)―
東京大学名誉教授であった後藤英一氏の名言である。一生懸命電子メールの研究を進めていた同氏がFAXを目にして、「手で書いたものがそのまま送れる!」と驚いたときに発した言葉だという。
村井教授は、これらの歴史的名言を示し、インターネットの未来を語った。「私はコンピュータが嫌いだ。なぜなら、機械のくせに生意気だから。コンピュータは本来、人の周りにあるべきもの。つまり、いくら良いものや速いものを作っても、人に受け入れられなければ駄目。コンピュータサイエンスは、社会と人が物差しなのだ」
現在のあらゆる「常識」の始まりは、「常識」ではないことがほとんどだった。その「非常識」が人々に受け入れられるようになり、いつの間にか「常識」へと変化していったのかもしれない。「今までがそうであったように、これからのインターネットも社会と人が物差しとなって作られていくだろう」(村井教授)。
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