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NICTが「かっこいいセキュリティ技術」にこだわる理由NICTオープンハウスレポート(2/2 ページ)

独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)は11月30日、12月1日の2日間にわたり「NICTオープンハウス」を開催した。その講演の一部をレポートしよう。

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通信速度に限界はあるのか? 「限界への挑戦! 未来を拓く量子情報通信」

 次にレポートするのは、量子ICT研究室の佐々木雅英氏による「量子情報通信」だ。現在、光ファイバを使った光通信においても、1本の光ファイバの中に複数のコアを入れ伝送容量を向上させる「300テラビット超級マルチコアファイバ伝送システム」が研究されている。しかし、量子情報通信は根本的にルールが異なるため、まったく違ったアプローチが行われている。

 電子や光子などの世界を支配する量子力学には、2つの基本原理がある。「不確定性原理」と「重ね合わせの原理」だ。

 佐々木氏はこれを野球に例えて説明した。粒子の位置と速度を同時に正確に決定することはできないという不確定性原理は「スピードガンでボール(電子)の速度を測ると、ストライクかどうか分からなくなってしまう」(佐々木氏)。そして複数の状態が同時並行で存在しうる重ね合わせの原理は「打ったボールがヒットでもあり、ファウルでもある。飛んできた方向は取った瞬間に決まる」(佐々木氏)という、実に奇妙な状況だとしている。

不確定性理論と重ね合わせの定理を野球にたとえて説明
不確定性理論と重ね合わせの定理を野球にたとえて説明(提供:情報通信研究機構(NICT)KARC FRONT Vol.21より引用)

 しかし、この状況を通信に置き換えると都合がいい。例えば、重ね合わせの原理を使う「量子計算」では、従来ならば数千年掛かっていた計算が数分で終わるといい、不確定性原理を使う「量子暗号」は盗聴や改ざんを完全に見破れるものになるという。そして、重ね合わせの原理を使った「量子通信」は、シャノン限界を打破できる鍵になる。

 シャノンの定理は、通信の容量の上限を表すものだ。通信容量は周波数の範囲やノイズ量などから限界があり、この定理から上限である帯域幅、シャノン限界が計算できる。

 光通信ではレーザー光を伝送路に使っているが、現在はそれを光の束として受信している。量子通信では光を束としてではなく1つ1つの「光子」まで分解し、それぞれを情報として取り出すことで従来よりも多くの情報量を得る。しかし、光子にまで分解したときに不確定性原理によりランダムなノイズが発生するため、この量子雑音をいかに制御するかが研究されている。

 佐々木氏による研究では、シャノン限界を突破するためには「受信側に課題がある」ことを導いた。送信側は通常のレーザー光で十分で、復号の過程で量子の重ね合わせを用い「量子デコーダ」を作ることで超加法的符号化利得が得られることを、2003年の実験で実証した。先ほどの野球の例えでいうと「受信した5個の光子ボールから、5本のヒットと5本のファウルを同時に生成し、打球を同時に観測する」(佐々木氏)という。

シャノンの定理を超えた究極の伝送容量は

 この理論を使うとどのようなことが起きるのだろうか。佐々木氏は1つのグラフを用いて、未来を予測した。現在の光通信から量子通信に移行することで、現在の1万倍以上の低電力で、、シャノン限界の2倍を超える大容量の通信が行えるというものだ。

低電力・大容量光通信の性能予測
低電力・大容量光通信の性能予測(提供:情報通信研究機構)

 しかし、どんなに技術が進歩したとしても、光の離散性による量子雑音のため、どこかで必ず絶対に超えられない限界がやってくる、と佐々木氏は述べる。そのため「(伝送容量という)資源は有限であるため、生活スタイルをいずれ見直さなくてはいけない時代が来る……そんなことが、このグラフから読み取れる」(佐々木氏)。

 現在はまだ実験段階であるため、通信装置も大変大きなものが必要だが、将来的にはツメの先よりも小さなサイズに集約できるという。現在は試験運用システム「Tokyo QKD Network」を構築し、動画転送が行えるほどの成果を挙げ、2017年ごろにはこの技術を専用線で適用することを目標としている。

 まだ見ぬ大容量通信のその先にある限界までも見据えた講演内容に、多くの来場者が熱心に耳を傾けていたのが印象的な講演であった。

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