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第155回 半歩先行くオヤジギャグがIntelを救う?頭脳放談

「インテル入ってる」とか「セントリーノ」とか、インテルのキャッチ・フレーズには「オヤジ風テイスト」の隠し味が効いたものが多い。でも、これには半歩先行くところがあった。最近のインテルは……。

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 日本のインテル(以下、インテルKK)の宣伝広告担当の趣味(?)なのか、使っている広告代理店の流儀なのかは知らないが、インテルKKのキャッチ・フレーズには「オヤジ風テイスト」の隠し味が効いたものが多い。「インテル入ってる」とか「セントリーノ」とかである。無闇とオヤジギャグを否定するつもりもない。私もオヤジの端くれである。それどころか、「そこには世間をリードする思想が込められていた」とまで書くと持ち上げすぎだろうか?

 「インテル入ってる」と言い出したころは、パソコン市場が狭い範囲の企業ユースやマニアのものから、誰にでも必要なお道具へと変化するころであり、戸惑う大衆に向けて本流のパソコンはこちらだと灯台の明かりか、はたまたハーメルンの笛吹きのごとくに導く効果があった。ちなみに世界中で使われている「Intel Inside」のキャッチ・フレーズは、インテルKKの「インテル入ってる」を英訳したもの。

 また、「セントリーノ」は、多分「LANケーブル(線)を取りーの」なのだと思うが、オフィスや自宅の机に縛り付けられていたパソコンを解放し、いまに至るサラリーマンが電車の車中でノートPCを開いてキーを叩くようなカルチャへと導くセイレーンの声のごとくであった。ウォッチャーやアーリアクセプタが「そんなことすでに分かっている」とは思っているころであっても、大多数が踏み出すちょうどよいタイミングで、ひと声掛けるというのはなかなか難度の高い技だと思う。過去のIntelは、それが出来ていたのだなぁ。掛け声かけて、みんなが走り出した先には、自社の製品が置いてある、当然のごとく大量に。ときどき、掛け声だけかけた後で、自社製品が間に合わなかったようなヘマなベンダさんもあるのだが、今回はそれらを列挙するようなことはすまい。ともかくインテルKKの場合はオヤジギャクかましていても、ちゃんと実体があったのだから偉い。

IDF2013に見る普通になってしまったIntel

 さて、そんなIntelが、4月のIDF(Intel Developer Forum) 2013 Beijing(北京開催)でどういうメッセージを発したのか? 公式のプレスリリースにインテルKK風のオヤジ・テイストが混入する恐れは皆無だろうが、何か時代をリードすることを言う、いや言わざるを得ないに違いない。和文のプレスリリースのインテルKKの翻訳したものであろうタイトルをそのまま引用させてもらうと『インテルコーポレーション、デバイス中心のコンピューティング体験からクラウド中心の体験への移行を確信』である。元の英文が想像できるようなIT系特有のカタイ翻訳(まさか機械翻訳などしておるまい)は横においても、「これはなんだかなぁ〜」と思ってしまった。ちゃんとタイムスタンプが2013年の日付で打たれているから、この原稿書いている時点から2週間も経っていないプレスリリースである。多分、5年前の日付でも違和感はない。10年前なら流石だと納得したかもしれない。

 実は裏で世間の認識とは異なる凄い展開を考えているが、言葉の使い方が「普通すぎて」騙されているのではないか、とも思って、プレスリリース文を端から端まで読んでみたが、極めて普通。裏はなさそうである。はっきり言って世間一般、中高生から、最もコンサバな中年オヤジにいたるまで、「クラウド中心の体験」への移行は済んでいる。たぶん、昨今「デバイス中心」でやっているのは、もともとネット接続できないか不要な一部の組み込みシステムくらいなものだろう。

 開発者は自分の仕事ばかりに集中しているから、そういうことをわざわざインテルKKが言ってやらないと気付かないのだろうか? たぶん、その可能性は低い。そんなことは背景として、自然に理解している世界で、次の一手を考えているのだ。そんなこと言われて今頃気付くような開発者がいたら相当なマヌケである。

 そうしてみると、今回のこの発表タイトルには、かつてのIntelが色濃く持っていたよく言えば「人々を導く」、悪く言えば「鼻づらをつかんで引き回す」という機能が絶無であることが分かる。ただただ「確信」しているのはIntel本社である。その確信に基づいて何をするのかと言えば、「対応策」を打つということである。収益の低下に危惧を抱いている投資家や証券会社などへのメッセージとしては絶対に必要なものだろう。しかし、そこには昔のIntelが強烈に発していた「お前らを新たな市場に引きずっていくぞ!」という意志も、「Intelを使うのが正しい設計の選択だ、なぜならば」という、やたらなお節介もありはしない。ただただ普通、それどころか日本的な低迷につながりかねない受け身な姿まで想像されてしまう。いくら横綱といっても受けて立っているばかりであったらマズイだろう。

 今一度、世間の半歩先くらいを「オヤジギャグ」かまして歩けるのか、それとも失うものが多すぎるといった感じで、既存ビジネスを大事に守りに入ってしまうのか、考え時かもしれないな。「そういうお前は?」と言われると……。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス・マルチコア・プロセッサを中心とした開発を行っている。


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