平均31歳、プラハに300人の若手メインフレーム部隊を養成、CA Technologies:「メインフレームならCA」と言われる会社になりたい
COBOLやアセンブリ言語、メインフレームといった技術に詳しい若いエンジニアは探してもいない。ならばと、CA Technologiesは、プラハに300人規模の部隊を作ったという。メインフレームシステムの課題とは何か。米本社上級副社長と、日本法人社長に聞いた
1996年に最後のメインフレームの電源が落とされるだろう――。オープン系サーバの台頭で、かつて何度も絶滅が予言されたメインフレームだが、1990年代半ばからは、むしろ逆のことが起こった。
大規模なトランザクションを行う基幹システムが既存メインフレームのまま運用されたというばかりでなく、ハードウェア、ソフトウェアともに追加投資が行われ続け、今も銀行や生保、航空業界、政府機関など多くの大企業のITシステムのバックボーンを支えている。2000年代にはインターネットの普及、2010年代はモバイル端末の普及によって、トランザクションは増加の一途。メインフレームは稼働台数では微減傾向にあるものの、大規模な運用をしている企業では規模がますます増加するという状況にある。
平均年齢31歳、約300人のメインフレーム開発者の大部隊をプラハに育てたと胸を張るCA Technologiesに、メインフレームを運用する企業が抱える課題を聞いた。
スマフォは単なるUI、データはメインフレームにある
CA Technologiesは1976年創業、37年の歴史を持つ老舗IT企業だ。Forbes Global 2000によればソフトウェア専業として、マイクロソフト、オラクル、SAP、シマンテック、ヴイエムウェアなどに続き、世界第6位の規模を誇る。2012年の年間売上高は約4920億円で前年比9パーセント増。収益の半分強をメインフレーム関連事業が、約3割をエンタープライズ・ソリューションが占める。
「CAは創業後、メインフレームの運用管理のソフトウェアを開発、提供してきました。35年前には、ITシステムはメインフレームの中に存在しているものでした。これはCAの歴史の一部であると同時に、多くのグローバル企業のIT基盤の歴史でもあります。こうした企業の基幹システムは、今もメインフレームで動いています。スマートフォンを使って銀行にログインし、残高を確認し、振込処理をするとき、あるいはECサイトで決済をするとき、そうしたトランザクションというのはメインフレームで起こっているのです。飛行機で旅行したりといったことをするとき、背後にメインフレームがあります。電話自体はメインフレームのデータにアクセスするための単なるUIに過ぎず、データはメインフレームにあるのです」。
こう語るのは、CA Technologiesでメインフレーム事業を担当する上級副社長のアダム・エルスター氏だ。しかしなぜ、オープン系に置き換わらないのか? UNIXやx86のコモディティサーバ、クラウドは使えないのか?
「われわれにも驚きだったのですが、ここ数年でメインフレームのシステムで起こっていることは、トランザクションの増加です。例えば、シティバンクでは去年、メインフレーム上のトランザクションが35%も増加しているのです。モバイル端末の普及が理由の1つでしょう。メインフレームに投資してきた企業というのは、いまも継続的に投資を続けています。メインフレームから分散システムに置き換わっているのは小規模なシステムだけです。メインフレームを使う企業が求めているのは、従来通りの信頼性のまま、コストを抑えつつ新しい技術を取り入れていくことです」
コモディティ化した製品は価格性能比が高まり、いずれ機能、性能とも高価格製品を駆逐するのが世の常。なぜ今もメインフレームなのか?
「私がよく使うアナロジーはキッチンのリフォームです。キッチンをリフォームするとして、何をするでしょうか? たぶんタイルやキッチンの器具などを選ぶでしょう。仕上げのための素材なんかも選ぶかもしれません。でも、床の木材をひっぺがしてその下にある水道管などの配管までやり直すというのは考えづらいでしょう? むしろ、どうやって新しい蛇口を設置するのかを考えたほうが良いでしょう」
エルスター氏が指摘するのは、例えばCA Technologiesが買収したLayer 7 Technologiesの技術だ。バックエンドにあるメインフレームに対して、MQで接続してRESTfulなJSON APIを生成するようなことができる。既存データやシステムはそのままに、モバイル対応をするようなケースで有用だ。
メインフレームの置き換えは非現実的であるだけでなく、むしろ運用効率や安定性を考えると使い続けるほうが良いケースもあるという。
「InstagramやFacebook、YouTubeなどの例を挙げて、スケールは可能だという指摘もあります。しかし、ネット企業のスケーラビリティというのはトランザクションではなく、ストレージやリクエスト処理の面だけなのです。トランザクションを行うという点では、分散システムではメインフレームにかなわないのが現実です。ハードウェア稼働率にしても、分散システムでは60%も出せません。一方、メインフレームで85%の稼働率を切ったら大問題です。アップタイムも桁が違います。本当に大規模なところはメインフレームを捨てるという選択は合理的ではないのです。そうすべき理由もありません」
「名前は出せませんが、2年前にシンガポールで新たに銀行を立ち上げるというので、銀行システムをメインフレームで組んだという例があります。ニューヨークの銀行でITを担当していた人物が担当していました。彼はメインフレーム上で銀行システムを運用した経験もあり、それがいちばん安心だったのです。もし彼が25歳だったら違うものを作ったのかもしれません」
「もちろん、もし今日新しい会社を始めるというのなら、私もアマゾンのクラウドに行くかもしれません。サーバを買うことはあっても、メインフレームは買わないでしょう。次世代の銀行ならアマゾン上でHadoopを使うかもしれません。それはそれでいいのです。しかし現実には老舗の大手銀行があって、彼らのシステムはメインフレーム上にあり、トランザクションの規模は大きくなっているわけです。そして新しい技術トレンドに対応していななければいけない。それが、われわれCAの課題でもあるのです。銀行がメインフレームをやめる動機があるとしたら、それは新しい技術トレンドに対応できなくなったときでしょう」
次世代メインフレーム技術者の若手を400人規模で育成
メインフレームシステムの抱える課題は、人材の確保という問題と切っても切れない関係にある。技術を選び、使うのは人間で、世代によって慣れ親しんだプラットフォームが異なるからだ。
40代、50代のメインフレーム育ちのコボラーの後は誰が継ぐのか? 人材確保の問題はないのか?
「われわれが取り組んでいる製品群の中に、CA Mainframe Chorusというのもがあります。これは現在良くあるタイプのGUIアプリに見えますが、実際には背後にはメインフレームがあります。Chorusは、これまで一度もメインフレームを触ったことがない技術者でも使えます。緑色のターミナル画面を見なくても、iPadやiPhoneから使えます。22歳の大卒の若者にでも使えるものです」
「これがわれわれの言う“クロスプラットフォーム”です。メインフレームも分散システム、クラウドまでをカバーするような、そういうクロスプラットフォームの製品を、ネットワーク管理、ワークフロー自動化、データベース管理、テスティングツール、ワークロード管理といった分野でわれわれCAは持っています。メインフレームかオープン系かを問わず、企業にとって同じやり方でシステムを維持・開発していけるのか、という課題に取り組んでいるのです」
「22歳でアセンブリ言語やCOBOLを知っている技術者を探しましょうといっても、見つかりません。それはユニコーンのようなもので、そもそも存在していないのです。絶対見つかりません。どうすればいいか分かりますか? そういう人たちを育てるのです」
「CAでは、過去5年にわたって次世代のメインフレーム技術者として若手人材を育成しています。アソシエイト・メインフレーム・ソフトウェア開発者とわれわれは呼んでいます。いま一番大きなメインフレームの部隊はプラハにあって、300人の開発者がいます。平均年齢は31歳です」
「現在、CAのメインフレーム系の技術者は30歳以下が全部で400人。50歳以上という技術者が1000人です。世代ギャップを解決するのが、われわれの課題です」
若者たちはメインフレームの技術を嬉々として学ぶのだろろうか? 幸せなのだろうか? 技術者にとって、ある技術に取り組むというのは、その技術に賭けるという面があるのではないか?
「いいえ、彼らが賭けているのは技術なんかではありません。彼らは技術やプラットフォームではなく、ビジネスに賭けているのです。私も当初、プラハでの離職率は高くなるかと思ったのですが、過去2年で退職者はわずか3人だけでした。考えてもみてください、次バージョンのAngryBirdsの人気はあっという間に衰えるかもしれませんが、メインフレームというのは、それとは比較にならないぐらい長期間にわたって残るのですよ」
「それに、エンジニアは複雑な問題を解くのが好きなんです。メインフレームやエンタープライズは非常に複雑なシステムで、課題も多い。エンジニアはチャレンジが好きなのです。彼らはメインフレームのシステムに驚き、そして仕事として取り組むことに非常に満足していますよ」
「個人的にはプラハのオフィスに行くのが好きですね。ポニーテールやヒゲ、Tシャツ、ジーンズ、サンダル……、みんな、そんな姿で働いています。彼らが仕事をしている画面を見なければ、グーグルのオフィスと同じだと思うかもしれません。朝はヨガ教室が開かれていたりする。そんな若い彼らがメインフレームの革新を牽引しているのです。1つ例を挙げましょう。あるシステムから別のシステムへファイルを移動するとします。2つのウィンドウを開いてドラッグする。シンプルですよね? でも、メインフレームではそれができませんでした。とても複雑な手順が必要なのです。あるとき、24歳のエンジニアが、どうしてこんな簡単なことができないのか理解できないといって、ファイルをドラッグできるプログラムを書いたのです。簡単なことと思うかもしれませんが、これは、今まで誰も考えたことがなかったことで、メインフレームの世界では信じられないイノベーションなんですよ」
「メインフレームと言えばCA」と言われるよう会社になりたい
日本国内では現在も約1万台のメインフレームが稼働していると言われている。レガシーシステムの象徴、後進性の現われだろうか? 昨年末、CA Technologies日本法人の日本CAの代表取締役社長に就任した内藤眞氏は、こう述べる。
「日本は遅れてるという意見もありますが、アメリカでもメインフレームは残ると見ています。むしろ、オープン系に移行しようとして失敗した結果、またメインフレームに戻すところもあるぐらいです。ホストコンピュータというのは残ると思います」
メインフレームのシステムを抱えている企業の課題は、むしろ追加開発だという。それにはメインフレーム独特の問題があるという。
「IT投資の中でも、ハードウェアの投資より、運用と開発維持が大変。例えば、銀行業の企業が新たに生保市場に参入したいとか、オンラインバンキングをもっと強化したいというケース。基幹システムの人たちは、メインフレームからアプリまでやっていますが、基幹システムは止められないのです。これは開発がつらい。例えば、開発してもテストができるのは1週間後、ということがあります」
「先日メジャーバージョンアップを発表したCA LISAは、テスト環境を仮想環境で提供するものです。これのおかげで半年で100回のテストも可能です。すると、アプリの品質が非常に良くなります。本番に投入したときに、バグなどで“あれっ!?”ということがありません。すでにCA LISAは、米国の大手銀行で利用実績があって、かなりのコスト削減効果が出ています」
「いま、基幹システムやエンタープライズのシステムにもインターネットがどんどん入ってきて複雑になってきています。CIOの方々が経営を引っ張るぐらいにならないといけない。そういうCIOの方々を支え、社会を支える道具立てをCAでは、買収などを通して揃えています」
「これまではファイアウォール+VPNだったけど、モバイルでクラウドとなってくると本人認証が大切ですから、認証やセキュリティに注力し、AuthMinderやRiskMinderと、いろんな会社を買収して製品ポートフォリオに組み入れています。7 Layersの技術でMQでつなぐというお話をさせて頂きましたが、CAならメインフレームからクラウドまでできる。そういうソフトウェアの縁の下の力持ちとして、メインフレームからオープン系までITの困っているところを助けたい。“メインフレームと言えばCAしかない”。そう言われるような会社になりたいですね」
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