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ESPN:ディズニーを支える「無敵のスポーツチャネル」三国大洋の箸休め(6)

ESPNは、スポーツ放送チャネル最大手として世界で広く知られている。同チャネルの強みは一体どこにあるのだろうか。

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 今回はスポーツ関連のメディアビジネスについての話題を1つ取り上げる。

 米国にネイト・シルバーという著名な統計の専門家(statistician)がいることは、以前の記事(関連記事:「土壇場の力」を科学する - NBAとデータ分析)で少し触れた通りだが、そのシルバーが現在契約中のThe New York Timesを離れ、この秋からスポーツ放送チャネル最大手のESPNに移籍することが決まったようだ。下記の通り、The New York Timesの他、メディアビジネス、スポーツ、政治、そしてテクノロジ系のニュース媒体でも、この移籍の話が取り上げられていた。

 老舗ながら落ち目の紙媒体(総合紙)から、この世の春を謳歌するスポーツチャネルへの移籍というのが、よく世相を反映しているようで興味深い。そこで今回はこの「無敵のスポーツチャネル」について簡単に紹介する。

ESPN's Use of Analytics in Storytelling(MIT Sloan School主催のSports Analytics Conference 2013でのセッション)

ウォルト・ディズニーの屋台骨

 Businessweekの最新号では、21世紀フォックス(旧ニューズコープの映画・テレビ部門)が8月半ばに開始するサービス「Fox Sports 1(FS1)」の特集記事が掲載されている。その冒頭、フォックスがFS1で戦いを挑むESPNのこれまでの独占的な状況について、「ペプシがいないコーク(コカコーラ)、バーガーキングがいないマクドナルド、ボストン・レッドソックスがいないニューヨーク・ヤンキースみたいな存在」などといったたとえが挙げられている。

 この記事では、ESPNの業績について、メディア関連調査会社のSNLキーガンのデータを引用し、「今年の売上予想は90億ドル(年間視聴料収入60億ドル、広告料収入30億ドル)。全米約1億世帯に配信、月額5.54ドルの料金をケーブルテレビや衛星テレビから徴収しており、この料金はダントツ」などと分析している(同記事では比較対象として、NBCスポーツの月額料金が1世帯当たり33セントという数字を引用。またFS1の初年度の月額料金は、1世帯当たり1ドルに至らないだろう、などとも記している)。昨年8月末のBusinessweek記事には、「ケーブルテレビ局全体の収入の4分の1をESPNが稼いでいる」といった記述もある。

 その一方で、昨年11月に掲載されたForbesの記事では、ウォルト・ディズニーの当時の時価総額840億ドルのうち、ESPNの推定評価額が400億ドルを占める(ただしディズニーの持ち分は80%)とある。またこの記事では、同グループのディズニーチャネルの推定評価額が100億ドル、そしてThe New York Timesの市場価値は13億ドルに過ぎない、という記述も見られる。

膨大なコストを掛けての放映権獲得

 ESPNがこれだけの価値を持つ理由は、同社が大金をはたいて獲得する放映権にある。Business Insiderによると、ESPNは下記のような放映権を手にしているという。

  • NFLマンデーナイト・フットボール(2012〜2021年までの10年間で総額152億ドルの支払い)
  • 大学フットボールのプレイオフ(2014〜2025年までの12年間で総額73億ドル)
  • MLB(2014〜2021年までの8年間で総額56億ドル)

 このほか、NBA、ゴルフ、テニス、サッカー、自動車レース(Nascar)など多くの試合がESPNで放映されている。

 このようにESPNは否が応でも目立つ存在であるせいか、ときには攻撃の矢面に立たされることもある。今年5月には米連邦議会上院の重鎮、ジョン・マケイン議員がケーブルテレビチャネルの“バンドル”(人気のあるチャネルとそうでないチャネルを抱き合わせで提供する商慣習)の禁止を狙いとした法案を提出した際、「スポーツ番組を観もしない老婦人から月々10ドル近くも取るなどけしからん」とESPNを名指しで批難していた(ESPNは、ケーブルテレビチャネルの基本パッケージに含まれている(バンドルされている)場合がほとんど、ということだろう)。

 ただし、実際には「週に1度はESPNを観ている世帯が3860万軒」といったデータ(昨年10〜12月中)もあり、他のチャネルよりかなり割高に見えても、消費者の満足度はそれほど低くない、といった見方もあるようだ。

 米国では6月に、Apple TVでも「WatchESPN」が観られるようになったという話がちょっとした話題になっていたが、この背景にはこうしたESPNの存在感の大きさがある。

三国大洋 プロフィール

オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。


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