本当のアノニマスが知りたいの・2:セキュリティ・ダークナイト(16)(2/2 ページ)
危うく脅迫された筆者に助け船を出してくれた1人のアノニマスは、以前、筆者の取材を直接受けてくれた人物だった。当時から2年以上経った今、何が変わり、何が変わらないのか―― 再びその声を直接聞く機会に恵まれた。
日本でも問題意識を共有し、増えているアノニマス
辻:初めてインタビューさせていただいた頃から2年以上が経ちました。日本にもアノニマスが増えたように思いますが、どうでしょうか?
A:若い人が多いように思いますね。日本で活動しているアノニマスのほとんどは、さまざまな問題意識に立って、TweetStormや掃除のように、ハッキングなどではなく合法的な形で抗議をしていることは嬉しいですね。また、海外のアノニマスとコミュニケーションを取って色々な人の意見を聞き、問題意識を共有しようとしていることはとても良いポイントだと思います。
辻:日本独自の特徴はありますか?
A:やはり掃除のオフ会ですね。とてもユニークだと思います。
辻:掃除の発端は、#OpJapanのときにIRC(インターネット・リレー・チャットの略で多くのチャットルームが用意されている)に自然発生的に人が集まってきて、日本人が抗議方法として考案したことでしたね。
A:そうですね。あのときは4chan発のアノニマスと、2chの人たちなどの日本人が同じところに集まって、揉め事にでもなるのではないかと思いました。けれどまったくそういうことはなく、あのようなユニークな動きが生まれ、驚くとともに嬉しかったです。
海外のアノニマスの中には、掃除オフを見て「何をしているんだ?」と反応することもありますが、「デモは許可が必要だけど、オフ会は必要なく、また、街を綺麗にするといういい行動だ」といったことを説明すると、ほとんどのアノニマスはそれを理解し、「面白くて、よい考えだね!」と反応してくれます。
「言葉の壁」を超えた新たな動きの胎動
辻:また新たな動きを感じますか? 個人的な印象ですが、少し前までは、情報の自由を筆頭に、環境問題や人権問題などが大義として掲げられていました。しかし、アノニマスが注目され、人が増えるにつれて、「気に入らないことがあれば、とりあえずアノニマスの名前で何かすればいい」という動きもあるように思えます。#OpKillingBayなど、よく分からない動きも増えているように感じるのですが、その点についてはいかがでしょうか。
A:アノニマスの強みでもあり弱みでもあるのは、誰でも参加でき、自分がそうだと思えばアノニマスだ、ということです。誰でも参加できる(ことが弱みでもあるが)、でも、誰でも参加できる(ことが強みでもある)といったところでしょうか。
しかし#OpKillingBayについていうと、「イルカを救いたい」という気持ちはまだ理解できる範囲だとは思いますが、Devoxについてはいただけないと思いました。結局、その根拠についての情報も出さず、嘘と思われても仕方のないものでした。あのような根拠のない情報を持ち出すのではなく、抗議をするならきちんと根拠を示して抗議をすればいいと思います。あのような方法で抗議されると、残念ですが、私は1人のアノニマスとして「アレはフェイクだ」といわざるを得ないと思いました。
人が増えれば小さなオペレーション、よく分からないオペレーションも増えてくることは仕方の無いことだと思います。しかし、そのオペレーションが多くの人が受け入れるようなものでなければできては消えていくだけだと思います。
辻:今後、何かしらの新しい動きとしてどのようなものが考えられますか。
A:何か新しい動きがあればいいなとは思っていますが、今のところ特にはその兆候は見られないですね。
ただ、1つ懸念しているのは、平和的なデモを蔑ろにしてしまうような風潮が生まれつつあることですね。平和的な抗議が蔑ろにされ、無意味と感じてしまうと、そのデモに参加した人たちが次にどんな手を使おうとするかを考えると心配です。
私自身、新しい動きとして行っていきたいことは、プライバシー保護・自衛のための暗号・匿名技術を広めることですね。TorやTrueCryptなどの使い方を日本語で多くの人に広めたいと思っています。大規模な盗聴、情報収集をされても自分自身のプライバシーを守れるように、メールやメッセージングについて保護できる方法を多くの人に知ってほしいと思っています。
辻:国境関係なく行われるオペレーションがある中、日本ではそういった動きはあまり見られないように見えるのですが。
A:そうですね。それがなぜかははっきりと分かりませんが、考えられる理由の1つに「言語の壁」があると思います。そもそも、アジアのオペレーションが少ないですね。
日本だけではなく韓国でアノニマスが増えているように感じますが、韓国は韓国の中だけでの活動のようです。インドにもアノニマスは多く、活動の範囲は国外に及んでいます。それは、インドで特にIT系の方は、英語ができる方が多いからだと思います。また、アジアはその他の国々から見て、言語や文化の壁もあり、別の世界に見えているのかもしれませんね。
他の国のアノニマスとももっとつながれるようにその壁をブレイクダウンできれば、お互いの問題意識を共有することができれば、お互いのオペレーションに参加することが現実的になってくると思います。
また、世界的にスタンダードとなっているものと別のものが日本にはあります。例えば、「Youtube」は「ニコニコ動画」、「Facebook」は「mixi」。しかし、Twitterだけは共通しています。ですので、キーとなるのはTwitterでつながることかもしれません。いずれにせよ、ネットでつながっても、言葉でつながらなければならないことには変わりはないのですが。
だから、私たちのことを知ってください
辻:先ほどからおっしゃっているように「名乗れば、自分が思えばアノニマス」ですが、デモなどの中には、突然脈絡もなくガイ・フォークスのマスクが出てくるものがあります。あのような動きについて、どのように思われますか?
A:素直に嬉しいです。ミームのように、ネタのように増えていることが嬉しいです。それは、マスクを見た人が「あれは何?」と思い、調べることで、アノニマスを知ってもらえるかもしれないからです。そして、問題を問題であるととらえてくれるかもしれません。
もちろん、違法なことに私は反対です。けれど、マスクは、今アノニマスである人だけのものではありません。みんなのマスクです。利用は自由なものです。
辻:この記事を読んでくださっている方にメッセージをどうぞ。
A:多くの人は、「アノニマスはサイバーテロリスト、犯罪者だ」と思っているかもしれません。もちろん、そういう人も中にはいます。それは認めます。しかし、人を助けたい、権利を守りたいという意思で参加し、合法的に活動している人もたくさんいます。
また、ある人々は、アノニマスはどのような政治的派閥に属するのかということを決めたがります。しかし、実は我々は政治に関わりません。しばしば、ある政治家や政党の意見に同意し、支持することはありますが、それは単に共同の利害なのです。アノニマスは政治家や政党ではなく、表現の自由の原則に対して忠実です。
どのような派閥に属するのかといった理念にかかわらず、自分自身の力について考えてほしいのです。自分の人生を良くしたいと考えるのなら、一握りの人たちに任せるのではいけません。みんなと協力して良くしていかなければならないのだと思います。
だから、私たちのことを怖がらないでください。知ってください。
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