SDN Conference 2014で語られたテレビ朝日の「SDN革命」:広がる! SDNの世界探訪(4)(1/2 ページ)
2014年2月18日に東京、2月21日に大阪で開催された「SDN Conference 2014」では、SDNを取り巻くさまざまな疑問に対する具体的な回答が紹介された。その中から、テレビ朝日のSDN構築事例と、ブロガーの小川晃通氏によるSDNというキーワードをめぐるセッションを紹介する。
ユーザーやベンダー、インテグレーターなどあらゆるプレーヤーが大きな期待を寄せているSDN(Software-Defined Network)。さまざまな技術や製品、先進ユーザーの事例が出始めている。
そんな中、2014年2月18日に東京、2月21日に大阪で「SDN Conference 2014」が開催された。「ユーザーが抱える課題が解決できるのか?」「その他の技術・手法と何が異なるのか?」「コストや運用でのメリットは?」といった、さまざまな疑問に対して具体的な回答を提供する24(東京・大阪合計)のセッションが開かれ、のべ4330名の聴講者が集まった。
本稿では、その中で2つのテーマに絞って、セッションの詳細をお届けする。
1つ目はユーザー事例として、テレビ朝日 技術局システム推進部の阪田浩司氏が、同社が新しい施設で構築した仮想ネットワーク基盤について、構築や運用のポイントを紹介したものである。もう1つは少し視点を変えて、ブログ「Geekなぺーじ」を運営するインターネット評論家の小川晃通氏が、SDNというキーワード/トレンドについて解説したセッションだ。
複数のネットワークを運用し、力技で配線変更するのが日常
テレビ朝日の阪田氏は、「Construct Once, Connect Anywhere 〜 SDNで作る仮想ネットワーク基盤 〜」と題した講演を行った。同氏はテレビ朝日の技術局で、情報系/放送系ネットワークから物理/仮想サーバー、VDI基盤、PKI認証基盤、クライアントインフラなど、幅広く社内向けITインフラの開発・運用を担当している。
同社は2013年、西麻布に多目的複合施設「ゴーちゃん。スクエア」を完成させた。この施設では、オフィスやシアター、映像制作など、さまざまな用途に利用するネットワーク基盤を実現するため、そのアーキテクチャとしてOpenFlowベースのSDNを採用した。データセンターでの活用が語られることが多い中、キャンパスネットワークにおけるSDNの活用という点で、貴重な事例紹介といえる。
テレビ朝日では、業務の特性上、複数のネットワークが混在しているという特徴がある。
1つは、一般企業でも利用されている「情報系ネットワーク」だ。インターネットやファイルサーバー、メール、業務システムなどを利用するためのもので、場所ごとにセグメントを分割しており、全体最適化を目指して設計・運用されている。
もう1つは「放送系ネットワーク」である。放送機器同士をつなぐものであるため、非常にミッションクリティカルな基幹ネットワークといえる。システムやユーザーごとに120以上ものVLANを提供しており、個別最適化を目指して設計・運用している。
情報系ネットワークの監視・障害対応・構成変更といった業務はアウトソーシングしているが、放送系ネットワークは24時間365日、常駐スタッフが管理を行っているという。
この他にも、全国の系列局を結ぶネットワークや関連会社を結ぶネットワーク、映像信号を送る同軸ケーブル、音声信号などを送る独立通信網などが存在しており、各インフラは独立している。
「このように、異なるポリシーのネットワークが多数存在しているという特徴があります。また、特番などで会議室が突如スタッフルームになるなど、頻繁にレイアウト変更が発生します。映像や音声の伝送ニーズが多数存在しており、配線や取り回しで“力技”で対応しているのが日常です」(阪田氏)
求められるのは「どこでも何でもできるネットワーク」
新しい「ゴーちゃん。スクエア」は、17階建てのオフィスの地下に多目的ホールが入った「EX TOWER」と、リハーサルスタジオや映像編集などを行うポストプロダクションスタジオが入った「EX TOWER PLUS」という2つのビルで構成される。テレビ朝日の“degital5ビジョン”における戦略拠点、リアルタイムなイベント連動を中心とした情報発信基地として位置付けられている。
「ゴーちゃん。スクエア」に構築されるネットワークには、情報系/放送系/関連会社ネットワークを整備するだけでなく、新しい映像コンテンツ流通・配信に対応できる「コンテンツインフラ」や外部ユーザーが利用できるネットワークも必要とされた。このため、ポリシーの異なるネットワークが多数存在することになる点が大きな課題であった。
「用途に応じて自由に取り回しできるフレキシビリティと、4K放送にも耐え得る大容量性が必要です。同じ場所でも目的が変われば全く異なるネットワークが求められますし、外部のユーザーが利用するケースもありますから、論理的には完全に独立したネットワークが構築できなければなりません。ありていにいえば、“どこでも何でもできるネットワーク”が必要なのですが、設定の変更作業は可能な限り避けたいというニーズもありました」(阪田氏)
またテレビ朝日本社にも各種のネットワークが配備されているため、これと「ゴーちゃん。スクエア」のネットワークを双方向かつ透過的に利用できるようにしたかったという。こちらも、設定変更や再設計などの手間はできるだけ省き、帯域を有効活用できる冗長化を図られた回線を構築したいというニーズがあった。
「幾つかの課題はIP化によって解決できました。しかし、複数のWAN回線を張らなければならず、VLANやアドレスルーティングなどの技術的な問題が発生することは分かっていました。またビルの建築スケジュール上、サービスインしてから論理設計を変更・追加しなければなりませんでした。こうした問題を解決する方法が“SDN”だったのです」(阪田氏)
実際のスケジュールにおいても、物理的な展開期間は2週間しかなかったが、SDNを採用したおかげで、稼働後も論理設計を詰めていくことが可能であった。阪田氏も、稼働後の自由度がSDNのメリットの1つであると評価している。
多数の論理ネットワークをフレキシブルに構築・変更
まず六本木本社と「ゴーちゃん。スクエア」との拠点間接続について、レガシーネットワークで構成した場合には写真1のようになるところが、SDNで構築した論理構成は写真2のようになるという。
ポイントは、場所に関係なくレイヤー2、レイヤー3のネットワークを論理的に設計できるところだ。
物理的には、情報系とその他で2系統の10Gbps回線に分散させており、障害時には相互バックアップする。波のある通信と定量的な通信を振り分けており、現時点ではQoSを設定していないという。「サービス追加や回線効率などの運用性を重視した設計にしました」(阪田氏)
また阪田氏は、OpenFlowの概念にも触れ、OpenFlowプロトコルをやりとりする「管理系ネットワーク」の耐障害性も重要な要素の1つだと述べた。実際テレビ朝日においても、サービス系のネットワークとは別に、コントローラーとSDNスイッチを結ぶネットワークを冗長構成にしている。
新しいネットワークでは、インターフェースマッピング、MACマッピング、VLANマッピングなどを組み合わせて、画面上でL2/L3ネットワークを作成できるようになった。現在のところ同社では、認証系、情報系2本、DMZ、伝送系3本、ゲスト用、イベント用、関連会社用という10種類の論理ネットワークが稼働中である。
「ポイントは、こうして作成した仮想ネットワークを複数重ねることができる点です。VLANなどの分割技術とは大きく異なる、3次元的なネットワーク構築が可能となりました。大小さまざまなネットワークをGUI上でフレキシブルに作成できるのは、SDNの大きな特徴ですね」
また、キャンパスネットワークへのSDNの拡張については、管理上煩雑になり過ぎることを考慮し、エッジスイッチを用いてリングネットワークを構築し、ポート数を増やしているという。
「キャンパス向けのエッジスイッチは、その用途向けの機能が豊富で、コストメリットも高いため、有効活用しています。MACアドレス認証機能を用いて連携することで、仮想ネットワークを拡張しています。エンドユーザーまでSDNにすることも可能ですが、いちいちGUIで設定するのは面倒なため、つないだら既存のネットワークへ自動的に接続されるという環境を実現しました」
「ゴーちゃん。スクエア」内には、この他にも独自に高速インターネット回線を引いたり、複数の無線LANを構築したりと、社内外を接続する要件の異なるネットワークが数多く存在している。問題は、こうしたネットワークのセキュリティをどのように担保するかという点だ。
「SDNによって、場所に依存しない論理ネットワークを構築できるようになったのと同様に、ポリシーの異なる複数のファイアウォールを設置することができます。データセンターのマルチテナントサービスとほとんど変わらない構成といえるでしょう」
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