リバーベッドが志向する「ロケーション・インディペンデント・コンピューティング」とは?:“Steel”を冠する「Riverbed Application Performance Platform」発表の意図
WANだけでなく、アプリケーションやデータがどこにあっても最適な状態を維持するためのテクノロジとしてラインアップを刷新、Steelを冠にいただく製品群のねらいを取材した。
トップシェア企業がラインアップを刷新する理由は“市場ニーズの変化”
米リバーベッドテクノロジー(以降、リバーベッド)といえば、WAN高速化ソリューションのトップベンダーとしてネットワーク業界では広く知られていたが、一般のITユーザーにとってはどちらかといえば「知る人ぞ知る」存在だったかもしれない。しかし同社の代表的な製品であるWAN高速化装置「Riverbed SteelHead」は、日本国内のWAN高速化市場において、実に74.1%ものシェアを占めるデファクトスタンダード製品なのである(富士キメラ総研 2013コミュニケーション関連マーケティング調査総覧より)。
そんなリバーベッドが2014年5月、製品ブランドの再編を行った。同社はSteelHeadを含め、大きく分けて5つの製品をラインアップしているが、それらを全て「Riverbed Application Performance Platform」という単一の製品体系にまとめ上げた。また各製品の名前も、SteelHeadと同様に全て頭に「Steel」が付く製品名へとあらためられた。
実に大胆なリブランディング施策だが、これを今このタイミングで行った背景やそのねらいは一体どこにあるのだろうか? 同社日本法人でマーケティングマネージャーを務める正木さや佳氏は、これを読み解くポイントとして、同社が近年提唱しているビジョン「ロケーション・インディペンデント・コンピューティング」を挙げる。
「日本語に訳すと『場所を問わないコンピューティング』という意味だが、今日ではテクノロジの進化とワークスタイルの変化によって、いつどこからでも、そしてどんなデバイスからでもデータへアクセスできることが求められるようになっている。しかし実際には多くの企業では、技術的な制約に縛られて、これをなかなか実現できていない。そこで弊社では、場所や距離の制約を前提にコンピューティングを考えるのではなく、まずはビジネス目標ありきのコンピューティング、つまり場所や距離に制約されないことをアドバンテージにできるようなコンピューティング環境の提供を目指している」
また、同社 シニアテクニカルコンサルタントの寺前滋人氏は、一言で「場所や距離に制約されない」といっても、その意味合いは時代とともに変遷していると指摘する。
「これまで弊社が提供してきたWAN高速化ソリューションは、主に企業のオフィスとデータセンターの間、もしくは拠点間のWANを介したトラフィックの高速化に主眼を置いてきた。これ自体も場所や距離の制約を越えるためのソリューションではあったが、これに加えて今日では、クラウド環境上に構築した業務システムにインターネット越しでアクセスする際のパフォーマンス最適化や、モバイル機器からインターネットを通じてシステムにアクセスする際のパフォーマンスが問われるようになってきた。ロケーション・インディペンデント・コンピューティングは、こうした今日の技術動向を踏まえた新たなコンピューティングの形を表している」
WAN高速化製品ベンダーから「プラットフォーム・プロバイダー」へと脱皮を遂げたリバーベッド
このロケーション・インディペンデント・コンピューティングの実現を目指し、現在リバーベッドでは各製品間の連携を強め、包括的なプラットフォームソリューションとして提供している。2014年5月に発表された「Riverbed Application Performance Platform」という製品体系は、まさにこのことを指している。
「これまではリバーベッドのことを、WAN高速化製品のベンダーだと見る向きも強かったが、現在では単一製品のベンダーというよりは、『プラットフォーム・プロバイダー』としての色を強くしている」(正木氏)
このことをより正確に表すよう、同社ではRiverbed SteelHeadを除く全ての製品の名称も一斉に改めている。管理系の製品「OPNET」「Cascade」「NEOP」などはまとめて「Riverbed SteelCentral」という名称に、ADC(Application Delivery Controller)製品「Stingray」は「Riverbed SteelApp」に、ストレージ集約化ソリューション「Granite」は「Riverbed SteelFusion」に、そしてクラウドストレージゲートウェイ製品「Whitewater」は「Riverbed SteelStore」へと製品名があらためられた。
これを見て分かる通り、全ての製品がSteelHeadと同じく、頭に「Steel」が付く「Steelシリーズ」に製品名が統一されたことになる。正木氏によれば、この製品名変更には「多くの社会インフラの基礎を支える素材であるSteel(鋼)の『強い』『信頼性が高い』というイメージを打ち出したかった」のだという。
では、これら個々の製品がどのような役割を果たし、そして互いがどのように連携することでApplication Performance Platformを構成するのだろうか。これを理解するために、以降ではそれぞれの製品ごとの特徴や機能を簡単に紹介していこう。
全体可視化・コントロール管理ソリューション「SteelCentral」
もともとリバーベッドが持っていた製品ポートフォリオの中には、ネットワークのパフォーマンスモニタリングを行う製品やアプリケーションモニタリング製品、SteelHeadの管理コンソール製品など、各製品の制御を中央から行うための管理系の機能や、各製品から収集してきた情報を可視化するためのモニタリング・リポーティングの機能を実装した複数の製品が含まれていた。
それらが今回、SteelCentralという単一の製品ブランドの下に統合されることとなった。機能レベルでの連携や統合も着々と進められており、すでにアプリケーションモニタリング製品以外の機能はおおよそ統合を果たしている他、必要とする管理機能だけを個別に導入することも可能になっている。
シェアNo.1*のWAN最適化ソリューション「SteelHead」
SteelHeadはいまさら紹介するまでもない、WAN高速化アプライアンス製品の代表格であると同時に、リバーベッドの旗艦製品でもある。今回同製品がApplication Performance Platformに組み入れられたことにより、他製品との連携、特にSteelCentralとの連携がより密接になった。
その一例を挙げると、SteelHeadが備えるDPI(Deep Packet Inspection)機能によって解析したパケットの詳細な情報をSteelCentralに渡し、見やすい形で可視化することによって、その時点でのネットワーク帯域の利用状況やアプリケーションパフォーマンス、トラフィック全体の状況をより詳しく把握できるようになる。
*富士キメラ総研「2013コミュニケーション関連マーケティング調査総覧」による
ADC機能を仮想アプライアンスとして提供する「SteelApp」
SteelAppはレイヤ7 ADCとして動作するソフトウェア(仮想アプライアンス)だ。
L7ロードバランサーやSSLオフロードといった機能を仮想アプライアンスとして提供するため、都度ハードウェアを設置する必要がない。一般的なハードウェアアプライアンス型のADC製品と比べた場合のメリットについて、寺前氏は次のように説明する。
「仮想アプライアンス型であれば比較的柔軟に、さまざまな場所にADCを設置してシステムの負荷分散を図れるようになる。オンプレミスのサービスとクラウドのサービスが混在しているような環境では、社内ネットワークのゲートウェイにADCのアプライアンスを1台設置するだけでは、もはやユーザーのニーズを満たすことができず、クラウド環境での利用を前提としたライセンス体系を持つ仮想アプライアンス型ADCが必然的に注目を集めつつある」
拠点集約化インフラストラクチャ製品「SteelFusion」
SteelFusionは一言で言うと、ローカル拠点におけるストレージやディスクの管理タスクをデータセンターにオフロードしつつ、データへのアクセス性能も担保するためのソリューションだ。このソリューションでは、データそのものは全てデータセンター上のストレージに集約しつつ、各拠点にはそれぞれデータのキャッシュだけを保有した装置を置き、ユーザーはこのローカルキャッシュに対して直接アクセスを行う。また、このキャッシュとデータセンターとの間では、リバーベッドがWAN高速化装置で培った高効率な重複排除技術が駆使され、効率的なデータ同期が行われる。
ユニークなソリューションだが、多数の拠点を抱える大企業やグローバル企業を中心に、ストレージ運用管理コストの削減やデータ保護の強化などの目的で導入が進んでいるという。
クラウドストレージアプライアンス「SteelStore」
SteelStoreは、ユーザーから見ると仮想テープライブラリのバックアップ装置として見える。事実、既存のバックアップソフトウェアとシームレスに連携して、一般的なバックアップ装置と同じように扱えるのだが、実はその裏では、バックアップデータをローカルディスクではなく、AWSやMicrosoft Azureといったクラウドストレージに保管する。いわば、クラウドストレージへのゲートウェイとでもいうべき機能を提供する。
寺前氏によれば、現在日本国内においてこの手のソリューションが急速に注目を集めているという。
「これまで日本では、エンタープライズ用途で使えるクラウドストレージサービスが極めて少なかったこともあり、ビジネスニーズではあまり注目されることはなかった。しかしここに来て、利用できるクラウドストレージサービスが増え、ビジネスユーザーの見方も変わってきたことによって、SteelStoreのようなソリューションに対する注目も高まってきている」
広範なシステム連携を可能にするオープンAPI「SteelScript」
以上で紹介してきた5つの製品が互いに連携し合い、さらに場合によってはサードパーティ製品ともシステム連携することによって、LANやWAN、インターネットを含めた広範なネットワーク環境、そしてオンプレミスのアプリケーションからクラウド環境上のSaaSアプリケーションに至るまで、さまざまなロケーションに配置されたアプリケーションのパフォーマンスや稼働状況を、包括的に管理できるようになるのだ。
そして、そうしたシステム連携を可能にするのが、SteelScriptというPythonベースのスクリプトとAPIだ。これを使えば、デフォルトの製品仕様ではカバーされないユーザー独自の製品連携、例えば各製品からAPI経由で独自に情報を収集し、Webのコンソール画面で可視化したり、自動的にレポートにまとめたりするような仕組みを構築することも可能だ。
同社Application Performance Platform製品群それぞれの機能と適応領域。「Steel」を冠に持つ各製品群はプライベート/パブリッククラウドやオンプレミスの各領域をまたいで展開でき、一括してアプリケーションパフォーマンスを管理できる
クラウドアプリケーションのパフォーマンス最適化のためのユニークな取り組み
以上で紹介したようなさまざまな製品に加え、リバーベッドでは近年、クラウドサービスのパフォーマンス最適化のためのユニークなソリューションも提供している。それが、「Riverbed SteelHead SaaS」と呼ばれるモデルだ。これは、アカマイ・テクノロジーズが提供するAkamai Intelligent Platform上にSteelHeadを配置することで、ユーザーのロケーションとクラウドサービスとの間を「インターネット最適化+WAN最適化」の高速ネットワークで結ぶというソリューションだ。
現在では、salesforce.comとMicrosoft Ofice365のサービスがサポート対象となっているが、すでにこれを導入してクラウドサービスのパフォーマンスの大幅改善に成功した例も多く、すでに100万以上のOffice365シートのパフォーマンス最適化の実績がある。とある企業ではアジア地区から米国のOffice365のデータセンターにあるデータにアクセスする際のパフォーマンスが約50倍にアップしたという。
こうしたサービスと、先に紹介した各製品を組み合わせることで、クラウドとオンプレミスのアプリケーションの状況を一元的に把握できる環境が整う。これこそが、リバーベッドが目指すアプリケーション・パフォーマンス・プラットフォームの理想的な姿なのだという。
「これまで日本の多くの企業では、ネットワークやアプリケーションの監視をベンダーやSIerに丸投げするケースが多かったが、社内システムにクラウドサービスが入り込んでくると、もうそれでは通用しない。クラウドのパフォーマンスの監視や問題の切り分けは、自分たちでやる他ないからだ。その点Riverbed Application Performance Platformは、単にオンプレミスとクラウドのアプリケーションパフォーマンスを包括的に可視化できるだけでなく、問題の予兆検知や、パフォーマンス問題を素早く、かつ深く診断・分析できる機能を備えているので、距離や場所に制限されないコンピューティングを実現するためのプラットフォームとして最適だと自負している」(寺前氏)
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提供:リバーベッドテクノロジー株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2014年9月17日