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単なる運用管理ツールではない! Software-Defined Storageを使う意味とメリットとは?

最近注目を浴びているSoftware-Defined Storage(ソフトウェアで定義するストレージ)とは、どのようなものなのか、また、運用者や利用者にとってどんなメリットがあるのか。EMCが2014年7月に販売開始した「EMC ViPR(ヴァイパー) 2.0」を通じて、これを探る。

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 EMCのViPRは、2013年から販売されている。国内ユーザーからの関心は非常に高い。だが、この製品については、単に「複数ストレージ機種に対応したストレージの運用管理ツール」なのではないか、という印象を抱きがちだ。

 EMCジャパン システムズエンジニアリング本部 アドバイザリーシステムズエンジニアの平原一雄氏は、「単なる運用管理ツールではない」と強調する。

 「現在、『第3のプラットフォーム』とも呼ばれる、IT全体の大きな変革が起こりつつありますが、ViPRはこの変革の後に求められる世界への移行を、データの観点から統合支援するツールです」(平原氏)。

新旧プラットフォーム共存環境の課題


EMCジャパン システムズエンジニアリング本部 アドバイザリーシステムズエンジニアの平原一雄氏

 ITの世界では10〜20年ごとにプラットフォームの変化が起きるといわれており、調査会社の米IDCは「現在、第3のプラットフォームの時代が始まった」としている。新たな時代への動きをけん引するのは「モバイル」「ソーシャル」「ビッグデータ」「クラウド」の4つだ。これらを生かした新世代のアプリケーションは、多様なデータを臨機応変に引き出し、処理し、組み合わせて提供する必要がある。「ここに新たな課題が生まれようとしている」と平原氏は言う。

 具体的な例を、損保会社のモバイルアプリで考えてみよう。自動車事故を起こした契約者が、損保会社に連絡するためのモバイルアプリである。そのアプリのIDには契約者の顧客情報がひも付けられており、契約状況やそれまでの履歴が参照できるようになっている。アプリのデータとして、スマートフォンから送られる事故現場の位置情報や状況写真を保存する他、電話連絡の音声も保管する。事故報告書は、従来通りの文書データである。その他、事故により代車の手配が必要な時は、それまでの行動履歴や位置情報から契約者が好みそうな車種をレコメンドするようなサービスも考えられる。

 このようなアプリケーションを実現するために必要な情報と、それを格納するためのストレージインフラは、以下のようなものになる。


新世代モバイルアプリの使うデータ例

 表を見て分かるように、新しいタイプのアプリケーションだからといって、第3のプラットフォームだけで実現されるわけではない。顧客情報や契約状況といったアカウント情報は企業が持つ基幹システムのデータベースに含まれる情報を活用する。一方、レコメンデーションに使われるのはビッグデータだ。事故レポートは文書なので既存のファイルストレージシステムに保管されるし、写真や音声の保管にはオブジェクトストレージを活用する。つまり、第2のプラットフォームと第3のプラットフォームの両方のデータを有機的に活用するアプリになっている。

 このような新しいビジネスのためのインフラ要件は、以下のようなものになる。

  • 基幹業務中心からWebやモバイルが標準となる、アプリケーション変化への対応
  • 場所やデバイスを選ばない、モバイルインターネットを含むグローバルアクセス
  • 爆発的に増大する非構造化データへの対応

 アプリケーションは第2のプラットフォームの領域と第3のプラットフォームの領域に二極化されており、それぞれに求められるストレージの要件は異なる。基幹業務にはレスポンスが必要で、性能重視だが、膨大な非構造化データを保管するには低コストで大容量であることが重要となる。そのため1種類のストレージで全てをまかなうことはできず、多様なタイプのストレージを適材適所で組み合わせて使う必要がある。

 そこで課題となるのは、管理や運用の煩雑さだ。多様なストレージにはそれぞれ個別の管理ツールとコマンド体系があり、その運用コストが新たな第3のプラットフォームへの投資を増やせない原因ともなっている。それを解決するのがViPRだ。

コストとリードタイムの課題をViPRで解決

 第2のプラットフォームと第3のプラットフォームが共存する環境での課題は、大別すれば管理の煩雑さによるコストと、それに伴うリードタイムの長さの2つだ。それぞれ、ViPRがどのように解決するかまとめておこう。

課題1:多様なストレージに固有の管理体系があって管理が煩雑

 前述の通り、ストレージ製品にはそれぞれ固有の管理体系がある。適材適所で多様なストレージを組み合わせて使おうとしても、管理が煩雑になり、運用コストが増大する。ViPRは、こうした管理体系の差異を吸収できる。つまり、ViPRの管理画面から全てのストレージの運用を同一の操作で行えるようになる。米国EMCのジェレミー・バートン氏は、これを「ストレージ管理におけるユニバーサルリモコンを目指した製品」と表現する。

 また、同一機種でもストレージ筐体ごとに利用・管理しなければならないようでは、管理が煩雑だし効率が悪い。しかしViPRでは、ストレージの筐体をまたいで、ディスクの特性によって横串でデータ領域をプール化できる。つまり、プロビジョニングのためには、アプリケーションが求める要件をポリシーとして指定するだけでよくなる。

【ViPRによるメリット】

  • ユニバーサルリモコンによる一元管理で、ストレージ運用の負担が減る
  • 筐体間をまたいだリソースプール化により、リソースを容易に有効活用できる

課題2:ストレージ拡張は専門家にしかできないのでリードタイムが長い

多様なストレージを管理するには高度なスキルが必要となり、ストレージの専門家でなければ運用できない状態が続いてきた。これが、ビジネスの変化に応じたシステムの配備や拡張における足かせの一つになっていた。仮想化によりサーバーの増設は簡単にできるようになったものの、それに合わせたストレージの拡張はストレージ担当者に依頼してやってもらわなければならなかったためだ。

 ストレージの違いを意識せずに容易に運用できるViPRを使えば、ストレージの配備や拡張の作業をサーバー担当者に委譲できる。その結果、ビジネスやアプリケーションの要求に応じて、必要なタイミングで拡張できる俊敏性が実現する。これまで、ストレージ管理をシステムインテグレーターやベンダーに委託してきた組織では、配備や拡張の都度、時間とコストを掛けて作業を依頼しなくてはならなかった。しかし、ViPRを使えば、一度システムインテグレーターあるいはベンダーにポリシーを設定してもらうだけでよくなり、その部分でのコスト削減も可能となる。

【ViPRによるメリット】

  • サーバー管理者や業務担当者自身でストレージの拡張が可能になり、サービスのリードタイムを短縮できる
  • ストレージ運用のためのアウトソースコストが減らせる

ストレージ管理を効率化するViPR Controller

 ViPRは、プロビジョニングやレポーティングなどのさまざまなストレージアレイの機能を一元管理する「ViPR Controller(コントローラー)」と、付加的なデータサービス機能を提供する「ViPR Services(サービス)」の2つの機能で構成される。ViPR Servicesでは、コントローラー配下のNASストレージおよびコモディティーサーバーに対して、オブジェクトおよびHDFSアクセス機能を提供し、将来的にはバックアップやレプリケーション(データ複製)などのストレージサービス機能も、コントローラー配下のストレージに対して共通に適用できるようになる。

 ストレージ管理を効率化するViPR Controllerには、2つの重要な概念がある。1つは管理の抽象化で、ストレージ管理をシンプルにするために重要な機能だ。それぞれのストレージ製品に固有のコマンド操作のAPIをViPRソフトウェアのレイヤーで集約し、どの機種に対してもViPRで提供されるコンソールやコマンドラインから共通の操作で運用できるようになる。

 もう1つが、仮想アレイと仮想プールだ。従来のストレージ管理では、筐体内にドライブ種別ごとのストレージプールが構成されるため、プロビジョニングのためにはどの筐体であるかを常に意識しなければならない。しかしViPRでは、複数筐体のディスクを、「高速のフラッシュのプール」「中速のファイバチャネルドライブのプール」「容量重視(低速)のニアラインSASのプール」というように特性に基づいて仮想プール化できる。実際にストレージを利用したい場合には、こうした仮想プールから適切なものを選べばよい。リソースは、容量が各筐体間で平準化されるように、ViPRが自動的に選んでプロビジョニングを行う。このため、アプリケーションごとに個別設計される環境よりも、ITインフラを共通基盤化した環境でメリットが大きく、共通基盤化を推進する製品といえる。

 プロビジョニングのために必要な構成情報などはViPRが自動で収集するが、EMC製品に限らずマルチベンダー環境にも対応する。リソース配分は現状では容量ベースの平準化が行われるが、今後は性能ベースでの配分ロジックも組み込まれる予定がある。また、既存のボリュームをViPRの管理下に持ち込む機能も、今年後半以降に実装される予定だ。

サーバー管理者自身でストレージのプロビジョニング

 プロビジョニングのステップは以下の通りだ。

管理者(あるいは納入ベンダーやSIer)側の操作

 まず、物理ストレージやファイバチャネルSAN、NASのIPなどの登録やプロビジョニング先のサーバーの登録を行っておく。次に、ディスクを特性に基づいて仮想プール化する。また、EMC VMAX/VNXシリーズのFAST VP(自動階層化管理機能)のポリシーと仮想プールをひも付けることもできる。

ユーザー側の操作

 ViPRのサービスカタログからプロビジョニングを行う。Active DirectoryやLDAPと連係してサービスカタログの公開範囲をユーザーの役割ごとに変えることができ、サーバー担当者にはボリューム追加のメニューだけを見せるような設定ができる。


社内でアプリケーションを運用するユーザーは、サービスカタログから目的に即したストレージの作成ができる

ユーザーはGUIを通じ、アプリケーションに適したサービスレベルのボリュームを、その場で自ら作成できる

 ボリュームの作成は、プロビジョニング先、ストレージのロケーション、仮想プールの種別などをプルダウンメニューで設定していく。「Project」は、作成したボリュームの課金先を管理する項目だ。その他、ボリュームのサイズやファイルシステムタイプなどの項目を設定して「Order」のボタンを押すと、数分でプロビジョニングが完了する。サーバーとストレージの接続、ゾーニング、マスキングまで自動で行い、マウントはバックエンドでSSHログインによるコマンド発行を行っている。よく、「16進数のワールドワイドネームで設定するゾーニングはハードルが高い」といわれるが、これも含めて自動化される。このためだけにストレージベンダーのプロフェッショナルサービスを頼む必要はなくなる。

サーバー管理者が慣れた画面でストレージを追加

 サーバー仮想化環境として多くの企業でVMwareが導入されているが、最近ではコストの面からオープンソース系のOpenStackやマイクロソフトのHyper-Vとのマルチクラウド環境を構築するケースも増えている。EMCは、ViPR Controllerとこれらの環境を連係するプラグインソフトウェアを提供している。これにより、サーバー仮想化環境の管理画面からViPRをコントロールすることができる。また、自社で作った独自ポータルを利用している場合、その画面からViPRをコントロールできるようにするためのAPIも提供している。

 例えばVMware環境との連係では、vCloud Automaton CenterまたはvCenter vSphere Web ClientからViPRを操作でき、ViPRについて知らなくても使い慣れた画面からストレージを追加できる。画面では、vCloud Automaton Centerのサービスカタログに「Provision Storage Tiers」のメニューが追加されている。また、vCloud Automaton Centerのビジネスグループ名とViPRのプロジェクト名を連動させ、ボリュームリソース管理の整合性をツール間で持たせることが可能である。


vCloud Automation Center(vCAC)上でのサービスカタログ画面。ViPRのワークフローをvCACに呼び出すことが可能である。画面はテナントごとにカスタマイズできるため、ここではITmediaのロゴが入っている

vCloud Automation Center上でのViPRストレージ操作画面。ストレージ特性のパラメータとしてViPR仮想プール名が参照できるようになっている

 ストレージプロビジョニングのデモは、EMCのサイトで動画を見ることができる。

ViPRの導入ですぐにメリットが得られる組織とは?

 ViPRの導入に適したビジネスのタイプとしては、自社のサービスが収集したデータを迅速に分析するなど、第3のプラットフォームを活用したビジネスを検討している企業ということになる。これまでオブジェクトストレージはオフプレミスに置くのが一般的だったが、プライバシーやコンプライアンスの観点から、オンプレミスの環境でセキュアにデータを管理したいというケースで効果があるだろう。また、オンプレミスにオブジェクトストレージを置くことで、分析のたびに発生するデータ転送の従量課金の問題もクリアできる。もちろん、第3のプラットフォームの導入がこれからでも、情報子会社がグループ企業に対してストレージリソースを提供するような大企業では、ストレージ管理一元化による運用コスト低減、ひいてはエンドユーザーに対する低廉なストレージサービスの実現、またプロビジョニングの自動化およびセルフサービス化による俊敏性の向上は、すぐにメリットとなりそうだ。

 ViPRは、新しいプラットフォームに向けたインフラ整備を支援するツールだ。既存インフラの管理を効率化し容易にすることで、運用コストを大幅に下げ、そこから生み出された原資を新しいプラットフォームの投資に充てられる。今後、ビジネスを新しいプラットフォームの時代にいち早く対応させられるか否かは、その企業の将来の浮沈に大きく関わってくる。ViPRは単なる運用自動化ツールというだけでなく、企業ビジネスの変革をITインフラストラクチャの側面から強力に支援するところにこそ、大きなメリットがあると言える。

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提供:EMCジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2014年9月17日

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