HPのEucalyptus買収、AWSとの関係は?:マーテン・ミッコス氏が語らなかったこと
9月11日の米HPによる米Eucalyptus買収発表から5日後の9月16日、米EucalyptusのCEO、マーテン・ミッコス氏はOpenStackのイベントで基調講演を行った。同氏が語らなかったことの中には、Amazon Web Servicesとの関係があるのではないか。
米EucalyptusのCEO、マーテン・ミッコス(Marten Mickos)氏は9月16日(米国時間)、イベント「OpenStack Silicon Valley」で米HPのマーティン・フィンク(Martin Fink)氏とともに基調講演に立った。
EucalyptusはOpenStackのライバル的なクラウド管理プラットフォーム。そしてミッコス氏は、歯に衣を着せないOpenStack批判で知られてきた。だが、8月に突如「Why Is Eucalyptus Keynoting At An OpenStack Conference?」というブログポストを書き、関係者を驚かせた。
このブログポストで、ミッコス氏はOpenStack Slilicon Valleyで基調講演を行う予定であることを明かし、次のように書いている。「私はOpenStackに成功してほしい。そうなったときには、Eucalyptusも成功できると考えている。OpenStackは(私のつたない意見としては)巨大な現象を意味している。Eucalyptusはユニークな用途に役立つ、明確に焦点の当てられたソフトウェアを意味している。私は お互いの利益になることを見つけ、追求していくつもりだ」。
ミッコス氏の突然の「変心」の背景は、9月11日(米国時間)に、HPによるEucalyptusの買収が発表されたことで明らかになった。だが、今度はHPがなぜEucalyptusを買収したのか、これによって何を実現しようとしているのかにつき、さまざまな憶測が飛び交うことになった。HPは2014年に入って強力にOpenStackを推進し始めている。なぜEucalyptusが必要なのか。Eucalyptusは、Amazon Web Services(AWS)とのライセンス契約に基づき、AWS APIとの高い互換性を実現している。HPはこれが欲しかっただけなのではないか。だとすると、何らかの形で自社のOpenStackディストリビューションにこれを移植、Eucalyptusは捨てるのではないか、あるいはミッコス氏が欲しかったのではないか(このGIGAOMの記事には、上記のような議論が集約されている)といった解釈が見られる。
ミッコス氏が語ったこと、語らなかったこと
ミッコス氏はOpenStack Silicon Valleyの基調講演で、買収プロセスが完了したわけではないとし、あまり具体的なことは語らなかった。だが、Ceph、RiakCS、MidonetのようなOpenStackと実質的に深い関係を持つ隣接プロジェクトとして、Eucalyptusを発展させていきたいと話した。「私たちはOpenStackを売るし、Eucalyptusも売る。この2つは併用できる」。同氏は講演の最後に、「ともにオープンソースの勝利を目指そう。LAMPスタックでできたことを、クラウドの世界で実現しよう」と訴えた。
これだけでは明確なことは分からないが、今のところHPは、EucalyptusとOpenStackをあくまでも別のプロジェクトとして進めていく(つまり統合は当面考えていない)ことは十分推測できる。
HPはユーザー企業のニーズに応じて、OpenStackとEucalyptusを積極的に売り分けていくことが考えられる。たしかにHPはOpenStackを、パブリッククラウドの事業者に対してだけでなく、企業が社内に構築するプライベートクラウドの基盤としても推進している。だからといって、プライベートクラウド市場でこの2つが足を引っ張り合うということにはならない。AWSに高い関心を抱き、あるいはすでにAWSを利用している企業が、ハイブリッドクラウドを考えるとき、その企業はAWSと高い互換性を持つクラウド基盤を、社内に導入したいと思うだろうからだ。つまり、「AWSありき」のユーザー企業のための「cloud on-ramp(クラウドサービス利用の「踏み台」)」にはEucalyptus、そうでない企業にはOpenStack、という売り分けになるのではないか。一方で、OpenStackとEucalyptusの連携が進めば、OpenStackユーザーも、間接的にAWS APIを活用できるようになる。
とはいえ、Eucalyptusが結んだAPIライセンス契約を、HPが引き継げるのかという問題が指摘されている。これを踏まえた筆者の推測は、HPが自社ブランドを用い、HPとしての付加価値をつけた、AWSの本格的リセールを検討しているのではないかということだ。ちょうど、NASDAQ OMXが提供していた「NASDAQ FinQloud」のような形態だ(同サービスは現在停止している)。HPブランドによるAWSリセールサービスがあれば、HPの営業はユーザー企業にEucalyptusを売りやすくなる。
一方AWSは、エンタープライズIT市場にさらに食い込むため、インパクトのある次の手を考えているはずだ。EucalyptusがAWSのためのcloud on-rampとして適しているとしても、小規模な開発元が推進しているだけでは、スケールしない。それが営業力を備え、インテグレーションを含めたサポート力を持つ大企業であるHPの手に移り、さらにHPが自社ブランドのリセールという形で、売り上げの向上に直接貢献してくれるのであれば、HPとAPIライセンス契約を結ぶ十分な理由になるのではないか。
HPは、Eucalyptusの販売とHPブランドによるAWSリセールサービスで、今クラウドサービス利用に踏み出すユーザー企業をつかむことができる。AWSばかりを利することにはならない。AWSユーザーの中には、そのうちプライベートクラウドへの回帰や他のクラウドサービスの検討をするところが出てくると考えられるからだ。
上記は単なる推測で、HPブランドによるAWSリセールサービスが実現するかは分からない。ただ、AWSとHP双方が実を取れるという点で、説得力のある選択肢だといえる。
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