API公開からビジネス創出まで包括的にサポートする「APIマネジメント」とは:非IT企業がエコシステムを築くために効果的な方法
日本の非IT企業も欧米企業と戦うためにはエコシステムを築く必要がある。そのための効果的な方法がAPI公開からビジネス創出まで包括的にサポートする「APIマネジメント」だ。本稿では、APIマネジメントの市場をリードするIBMに欧米で非IT企業がAPIを公開する理由と事例、APIを公開する際の課題、製品の優位点などを伺った。
欧米で非IT企業がAPIを公開する理由と事例
さまざまなモノがネットワークを介して接続される「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」への動きが加速する中、企業が持っているビジネス情報を「API(Application Programming Interface)」として社外に公開し、新たなビジネス創出を目指すアプローチが注目を集めている。
すでに欧米では、金融・証券から保険、小売り、旅行・運輸、製造、ヘルスケア、医療、公共、自動車、政府、テレコムなどまで、さまざまな産業でAPIが公開され、ビジネスへの活用も進みつつあるという。非IT企業でも、いわゆる「ホームページ」「企業サイト」を持つのはもちろん、自社の持つデータをAPIとして公開することも一般的になってきているのだ。
一方、日本の状況を見ると、政府や自治体が中心となって「オープンデータ」を推進しており、各地で「ハッカソン」が行われているものの、あくまでプログラマーが技術とアイデアを競うイベントとしての「ハッカソン」であり、実際のビジネスにはつながっていないのが実状だ。
では、欧米におけるAPI公開のアプローチはどこまで進んでいるのだろうか。「欧米では、政府・自治体だけではなく、あらゆる産業の企業が積極的にAPIを公開し、ビジネスにつなげていこうという意識が高まっている。例えば、パートナーに向けてAPIを公開し、アプリケーションの開発だけではなく、新たなビジネスアイデアまで考えてもらうというアプローチがある。また、ダミーのAPIデータを一般公開してハッカソンを行い、優秀なアプリケーションを企業が買い取るというアプローチも出てきている」と、欧米のAPI公開状況を説明するのは、米IBMのAlan Glickenhouse氏。
具体的な事例として、Glickenhouse氏は、カナダのLCC(格安航空会社)である「ウエストジェット航空」のケースを紹介。「ウエストジェット航空では、API公開によって格安チケット販売のアプリケーションを開発した。同社は、それまでWebサイトでチケットの販売を行っていたが、いち早く格安チケットを確保しようとする業者からのリロードアクセスが集中し、WebサーバーのCPU使用率が常に100%になってしまっていた。そこで、チケット販売システムをAPI公開し、チケット購入のアクセスをアプリケーションのAPIで処理することで、Webサーバーの負荷を大幅に軽減することに成功した」という。
また、カナダの銀行「INGバンク」では、モバイルをキーワードに、新たなビジネスを模索するためにAPI公開を実施。APIを使って標準化されたビジネスやサービスをパートナーに提供し、自社だけでは実現できない業種をまたいだモバイルアプリケーションの開発と新規ビジネスの創出に取り組んでいるという。
この他にも、英国の小売業「Asda」では、自社の持っているデータを一般にAPI公開し、ハッカソンによってモバイルアプリケーションを開発。これは、自社でモバイルアプリケーションを開発するよりも、ハッカソンの方が、データ活用の新たな可能性が広がり、優れたモバイルアプリケーションを迅速に開発できると見込んでの判断だ。
APIを公開する際のいくつかの課題とは
このように、欧米の企業にとって、APIを公開することは、さらなるビジネス成長に向けて、欠かせない取り組みになりつつあるようだ。「ただし、API公開を行うに当たっては、いくつかの課題をクリアする必要がある」とGlickenhouse氏は指摘する。
「まず、最も重要な課題がセキュリティだ。API公開は、今まで社内のみで運用していた基幹システムに、外部から直接アクセスさせるようなもの。企業のコアとなるビジネス競争力が不正アクセスから狙われないためにも、セキュリティは必要不可欠になる。一方で、セキュリティを強固にし過ぎると、APIの活用が制限されてしまい、公開する意味がなくなってしまう。そのため、API公開のセキュリティでは、APIの保護と使いやすさを両立することが求められる」と、API公開におけるセキュリティの難しさを訴える。
さらに、セキュリティに加えて、パフォーマンスの確保もAPI公開の大きな課題になるという。従来の社内システムでは、データへのアクセス頻度はそれほど多くないが、API公開を行った場合、外部からのAPIへのアクセスは数百万に膨らむこともあり、開発したアプリケーションが機能しなくなってしまう可能性があるからだ。
欧米の事例が裏付ける「IBM API Management」の優位点
こうした課題を解決するためのソリューションとして、今、注目されているのが「IBM API Management」だ。先にGlickenhouse氏が紹介したAPI公開の事例も、この「IBM API Management」を活用することで実現したものだという。では、「IBM API Management」は、どのような点で優れているのだろうか。
「IBM API Management」の特徴について、日本IBM ソフトウェア事業 WebSphere テクニカル・セールス&ソリューションズ ICP-エグゼクティブITSの鈴木徹氏は、「『IBM API Management』は、単にAPIを管理するだけではなく、APIの設計から保護、共有、管理までを単一のソリューションで包括的にサポートする。特に、API公開における最大の課題であるセキュリティに対しては、世界中で2000以上の顧客に1万台以上の導入実績があるセキュリティアプライアンス『IBM DataPower』を、APIアクセスのゲートウェイとして採用している。これにより、公開したAPIのデータ保護とパフォーマンスを両立したセキュリティを実現するソリューションも用意している」と説明している。
一般的なAPIマネジメントのほとんどはIAサーバーをベースにしたものが多い。このため、Linux OSやJavaScriptの脆弱性を狙われる危険性があり、万全なセキュリティとはいえなかった。「『IBM DataPower』では、専用のOSを搭載し、任意のソフトウェアの導入や実行はできない仕様となっているため、不正アクセスを完全に防御できる。セキュリティレベルとしては、連邦機関が要求する条件を満たしている。パフォーマンスについても、APIに集中する膨大なアクセスをアプライアンス側で高速に処理することが可能となっている」(鈴木氏)という。
もちろん、APIの設計・公開・管理を行うソフトウェアの機能も充実している。企業がAPI公開を行う際には、ビジネス戦略を考える「ビジネスオーナー」、APIを運用・管理する「API運用責任者」、APIを開発する「APIデベロッパー」、そして公開されたAPIを活用してアプリケーションを開発する「アプリケーションデベロッパー」の4者の役割が存在する。「IBM API Management」には、これら4者のニーズを満たす機能が実装されているのである。
例えば、「ビジネスオーナー」に対しては、アナリティクスの機能を提供することで、API公開の投資対効果を分析・評価し、より戦略的なAPI公開を可能にする。「API運用責任者」は、モニタリング機能を活用することで、APIへのアクセス状況を把握し、安定した運用・管理を行える。「APIデベロッパー」に向けては、効果的なAPIポータルを設計できる機能を提供するなど、ビジネスにつながるAPI開発を支援する。そして、「アプリケーションデベロッパー」は、このAPIポータルを通じて、どのようなAPIが公開されていて、どう活用すればよいのかが的確に理解できるため、アプリケーション開発を迅速に進めることが可能となる。
ここまで、「IBM API Management」のAPI管理・運用・セキュリティに関わる機能について見てきたが、「APIを外部に公開して、アプリケーションを開発してもらうだけでは不十分。真の目的は、それを新しいビジネスにつなげていくことである。そのため当社では、『IBM API Management』をコネクティビティ製品群の一つとして位置付け、社内のバックエンドシステムとのデータ連携まで考えたインテグレーション提案を行っている」と、導入企業の新規ビジネス創出までカバーする包括的なソリューションを提供していると鈴木氏は力を込める。
「IBM API Management」の提供形態は、「IBM DataPower」を活用するオンプレミス版に加え、「IBM DataPower」を仮想環境で提供するバーチャル版、全ての機能をSaaSとして提供するクラウド版の3つのプランを用意している。それぞれの企業の目的や予算に合わせて、最適なプランを選択できるのも「IBM API Management」の特徴といえるだろう。まずは、クラウド版からスタートし、バーチャル版、オンプレミス版とステップアップして導入することも可能だという。
日本の企業もエコシステムを築かないと欧米企業と戦えない
このように、欧米では「IBM API Management」を活用した、API公開への動きが加速しているのに対し、日本の動きは遅れていると言わざるを得ない。その背景について鈴木氏は、「日本では、政府や自治体が『オープンデータ』を推進している一方で、企業はAPI公開への意識がまだまだ低いのが現状。その中でも、新しいアイデアでビジネスを立ち上げようとするスタートアップ/ベンチャー企業は、API公開のマインドが高まりつつあるが、やはり大企業は自社システムをAPI公開することをためらっている」と指摘する。
「日本の企業は、失敗することを怖がる傾向にあるのも、API公開が進まない大きな要因だ。API公開は、従来のように3年先まで使えるシステムを構築するのとは全く違う、アジャイルアプローチであることを理解してほしい。例えば、API公開によって開発されたアプリケーションが半年後に成果が出なくても、それを踏まえてAPIを改修し、また新たなチャレンジを行う。このサイクルを繰り返すことで、APIの品質が向上するとともに、アプリケーションを開発するパートナーとのエコシステムも洗練され、新たなビジネスにつながっていくはずだ」(鈴木氏)と、大企業こそ失敗を恐れずAPI公開に積極的に取り組むべきであると提言した。
さまざまな業種の企業がAPIを公開することで、それらを組み合わせて、新たな社会システムが生まれる可能性もある。企業のビジネス成長だけではなく、より暮らしやすい社会システムを作っていくためにもAPIを公開する意義は大きいといえるだろう。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2015年3月3日