技術力だけでなくコミュ力も問われる大学対抗のセキュリティコンテスト:競い、育てる「第10回情報危機管理コンテスト」リポート(2/2 ページ)
「サイバー犯罪に関する白浜シンポジウム」と併催される「情報危機管理コンテスト」は、インシデントやぜい弱性報告への対処力を大学対抗戦の形で競うものだ。実社会さながらの対応が求められるその内容とは?
競技を通じて未来のエンジニアが育つ
もう一つ、同コンテストで特筆すべき点は、コンテストを通じた人材育成だ。
「本コンテストは、競技であると同時に教育の場でもあると考えている。だから、進みが遅いチームには劇団員がヒントを与えることもある」(川橋氏)
知らないことであっても、ヒントを手掛かりに独力で調べれば、身となり力となる。電話応対や上司へのエスカレーションなど、実務さながらのルールも含め、未来の研究者やエンジニアを育てる工夫がそこかしこに見られた。
もっとも、人材を育てているのは運営側ばかりではない。
「昨年は17校、今年は21校が第1次予選に応募するなど、年々参加校が増え、特に今年は激戦だった」と話す和歌山大学の吉廣卓哉氏は、そんな中でも常連校が確実に勝ち残ってくると述べる。実際、信州大学は第17回の優勝者で、岡山大学は第18回の優勝者、同志社大学は4回優勝の経験を持つ。
同志社大学では、コンテスト対策ページを作成して歴代の先輩のノウハウを共有、次の出場者のために情報を残している。ネットワーク関連のゼミメンバーで構成され、将来はネットワークをやりながらセキュリティの知識を生かせる仕事に就きたいと話すメンバーは、「セキュリティはスペシャリストというイメージが強いが、それ以外の職務でも持っておくべき知識だと思う。セキュリティの知識を無意識に業務へ取り込める、そんなエンジニアになりたい」と熱く語る。
第1回からの常連校である関西大学も、人材育成を大切にする参加チームの一つだ。「優勝を目指すだけなら、出場経験者を出せばいい。しかし、同大学では経験者は大学院生の1人のみで、あとは初参加含む学部生が3人というチーム構成で挑んでくる。後輩に現場を体験させて育て、次へとつなげる。それを10年間続けているところがすごい」(審査員)
初参加で緊張したという学部生のメンバーは、先輩による勉強会で多くを学び、コンテストではとても役立ったと話す。「今後の課題は、終盤で焦ってくると暴走する『伝統』を改善すること」と笑いながら、今後も出場し続けるために人材育成の伝統を守っていきたいと述べた。
運営側に来年の第11回について質問したところ、「例えば電話ではなく直接経営層の部屋に行って報告、プレゼンするというのはどうか」「情報危機管理コンテスト優勝者とSECCON CTF優勝者は双方のシード権を獲得できるようにしたら面白い」など、さまざまなアイデアが検討されている模様。運営側のシナリオ作りも、出場を目指す大学のチーム強化も、すでに始まっている。来年も面白くなることは間違いない。
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