Kilo、Liberty、そして“Mitaka”。OpenStackはどうなる? コアデベロッパーによる開発プロジェクトの動向まとめ:「OpenStack Summitの歩き方」リポート(3)(2/2 ページ)
OpenStackプロジェクトの開発メンバーによる、プロジェクト全体のアップデート解説。今秋、方針が固まるMリリース「Mitaka(三鷹)」の予想も。
次期リリース「Liberty」の注目ポイントとは?
Kiloの次のリリースである“Lリリース”はコードネーム「Liberty」だ(2015年10月リリース予定)。
Libertyでの大きな変更点としては、各コンポーネントのバージョニングの変更が挙げられる。これまでは西暦、リリース回数、マイナーアップデートをピリオドでつなげた「2015.2.X」といった形式だったが、Libertyからは、コンポーネントごとにバージョン番号が付くようになる。例えば、Novaは「12.0.0」、Glanceは「11.0.0」、Neutronは「7.0.0」となる予定だ。「個別のプロジェクトに任せて、もっと頻繁にリリースしたい場合を許容するモデルに変わった」(元木氏)ためだという。
セッションでは、Libertyで予定している数多くの新機能とアップデートの中から、Nova、Neutron、ベアメタルプロビジョニングのためのコンポーネントである「Ironic」とNeutronの関係を取り上げ、元木氏が注目するポイントを紹介した。
LibertyリリースのNovaの注目点
Novaの注目ポイントとしては、重要な開発項目として挙げられている「Cells v2」「API v2.1」「Scheduler」「Upgrades」「Developer Document Update」の五つを挙げた。
Cells v2は、Nova自体をスケールアウトさせてデプロイするための「Cell」について、アーキテクチャを見直して作り直そうというプロジェクト。Kiloリリースのプロジェクトで既に開発をスタートしていたが、Libertyのリリースに向けて優先度を上げて取り組むことになっているという。
また、API v2.1は、前述の通りKiloでリリースされているが、今後、マイクロバージョニング方式で機能を増やしていく方針だという。
Schedulerは、これまでNova内部のアーキテクチャのうち、整理しきれていなかったものについて、インターフェースを用意して外部に切り出せるようにするものだ。Upgradesは、そのままアップグレードのことだが、ローリングアップグレード対応を含め「Novaの取り組みが最も進んでいる状況だが、今後はデータベース操作などの細かいところを詰めていく段階」(元木氏)だという。
LibertyリリースのNeutronの注目点
Neutronの注目ポイントとしては、「API versioning」「Novaネットワークのマイグレーション」「QoSサブチームの設立」「Availability Zoneサポート」「IronicとNeutronのインテグレーション」などを挙げた。
API versioningは、novaと同じようにAPIのバージョニングにしっかり取り組もうというもので、APIワーキンググループの中で「OpenStack全体でAPIのバージョンを決める」という動きが進んでいることによるもの。
Novaネットワークのマイグレーションは、ネットワークスタックで、これまで主流であった「Open vSwich」だけでなく「Linux Bridge」をサポートするというもの。今まではOpen vSwichの実績も多かったが、オペレーターの声として、慣れ親しんだLinux Bridgeを使いたいという要望が多かったための措置だという。Linux BridgeはKiloからサポート活動が始まっていたが、Libertyで本格的になるという。
この他、Libertyリリースの注目プロジェクトとしては、ネットワークを指定せずに仮想マシンを立ち上げ、Neutron Networkを自動生成する「Get me a Network」の動きも興味深いという。
LibertyリリースのIronicの注目点
ベアメタルプロビジョニングサービスを担うコンポーネントであるIronicでは、テナントネットワークを実現するためにNeutronと連携し仮想スイッチ機能を実現する。マルチテナント環境でベアメタルサーバーを扱う際に、ネットワーク周りの設定が十分に自動化できていなかった点についての改善だ。
現在、開発プロジェクトでは「IronicからNeutronへ物理情報を渡すためのAPI定義」や「IronicのプロビジョニングネットワークからNeutronのテナントネットワークの切り替えをどう行うか」などの課題を話し合っており、具体的な実装方法を検討しているところだという。
Mリリース「Mitaka」はどうなる?
Lリリース(Liberty)の次に当たるMリリースの正式名称はOpenStack Summitの開催地である日本の地名から名付けることになっており、本イベント会期までの期間にもさまざまな候補が挙がっていたが、商標などの権利関係のチェックやコミュニティでの合意形成に時間がかかり、決定が遅れていた。Mリリースの名称が「Mitaka(三鷹)」と決定したのは今回のイベント終了直後の2015年7月14日(米国時間)のことだった。
Mリリースについて元木氏は、「期待と予想」として四つのポイントを挙げた。
一つ目は「ネットワークの統合」。「nova-networkとNeutronの統合が進み、シングルネットワーキングスタックがようやく実現していくのではないか」と予測している。
二つ目は「アップグレード問題への対応」。開発コミュニティでは、主に「Icehouse」(2014年4月のIリリース)を利用中のユーザーが、最新版へのアップグレードに課題を感じ始めており、ライブアップグレードや無停止でのデータベーススキーマのマイグレーションに関する議論が活発に行われている。Mitakaでは、この議論が深まってきたことで、アップグレードに関するベストプラクティスが蓄積されるのではないかと予測している。
三つ目は「コンテナーを使ったデプロイの実現」。元木氏はアプリケーションコンテナー「Docker」を使ったデプロイ機能を実装する「Kolla」プロジェクトに関する技術的な進展や、具体的な実現例などが出現するのではないかと期待を示した。
四つ目は「プロジェクトの統廃合の進展」。現在、開発コミュニティメンバーでも把握が難しいほどの数のプロジェクトが立ち上がっていることから、そろそろ「Big Tentモデルでのプロジェクト運営が進むことで、淘汰され、消えていくプロジェクトが出てくるかもしれない」(元木氏)と予測した。
Mitakaリリースの詳細は、2015年10月27〜30日に開催される「OpenStack Summit Tokyo」内で実施するDesign Summitで議論を行い、方向性を決定する。
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