ユーザー企業が「コレジャナイ」と感じるのはOpenStackのせいじゃない「OpenStack Summitの歩き方」リポート(1)

注目を集める「OpenStack」。ユーザー企業の関心が高まる一方で、実際にヒアリングしてみると「コレジャナイ」と、要件のミスマッチが発生することが多いという。その背景にあるのは……。

» 2015年07月31日 05時00分 公開
[齋藤公二@IT]

 OpenStack Foundation主催のグローバルイベント「OpenStack Summit」が2015年10月27〜30日にいよいよ東京で開催される。それに先駆けて7月13日、OpenStack Summitそのものの概要や最新動向を解説するプレイベント「5周年特別企画: OpenStack Summitの歩き方」が開催された。本稿ではその中からNTTデータ 基盤システム事業本部 武田健太郎氏の講演をリポートする。

よく話を聞いてみると実は「コレジャナイ」

NTTデータ 基盤システム事業本部 武田健太郎氏

 開発プロジェクトに参加するITベンダーも増え、リリースを重ねるごとに品質を高めつつあるIaaS(Infrastructure as a Service)構築基盤ソフトウエア「OpenStack」。

 柔軟で迅速なIT基盤の構築を目指す企業IT部門の関心も年々高まっており、日本国内でもOpenStackの導入を検討する企業が増えている。ところが、OpenStackソリューションを提供するITベンダーからは「OpenStackありき」の検討が増えることで、想定とは異なるシステムが構築されることへの懸念も出ている。

 NTTデータ 基盤システム事業本部 武田健太郎氏は「コレジャナイOpenStack 〜エンタプライズにおけるプライベートIaaSの実態と課題〜」と題して、OpenStackへの企業IT部門の期待と現実のギャップがなぜ生まれるのか、どう埋めるのかを説いた。

参考資料:実際の「コレジャナイロボ」 「ロボ」でありながら木製である点も「コレジャナイ」感を演出(資料提供:ザリガニワークス)

 演題の「コレジャナイ」は、玩具の企画制作を手掛けるザリガニワークスが雑貨レーベル「太郎商店」名義で販売する残念な(?)木製ロボット「コレジャナイロボ」にちなんだもの。コレジャナイロボのコンセプトは「子どもにロボットのおもちゃをせがまれた親が、間違えて格好良くないロボットを買ってきてしまい、子どもに『これじゃない!』と叫ばれる」というものだ。

 このロボットのように、期待と異なるシステムが構築される“悲劇”はしばしば起こる。武田氏によると、OpenStackに関しても、過度な期待から導入を検討してみたものの、よく話を聞いてみると実は「コレジャナイ」ことに気付く顧客が増えてきたという。

「せっかくだからクラウド」「せっかくだからOSS」の“悲劇”

 武田氏によると、OpenStack導入検討の際によくある「コレジャナイ」ケースは、「IT基盤の更改が迫っている状況でOpenStackを選定する」というパターンだ。

 その多くの場合、「せっかくIT基盤を更改するのだから」とクラウドを検討し始めるのだという。

 まずは「Amazon Web Services」(AWS)のようなパブリッククラウドサービスやVMwareなどによるプライベートクラウドの調査から始め、検討を進めるうちに「OpenStackというオープンソースソフトウエア(OSS)がある」ことを知るパターンだ。「OSSなら安くできるだろう」という想定でITベンダーを呼んでヒアリングしてみるものの、よくよく話を聞くと「コレジャナイ」になるという。

OpenStack導入支援をしていると、このような“悲劇”はよくあるのだという(出典:武田氏が公開している発表資料

 「IaaS環境で新しいIT基盤を構築する」というビジョンを持って問い合わせているのではなく、漠然とIT基盤更改時のチャレンジとしてOpenStackに関心を持っている場合、クラウドの背景にある運用ポリシーや思想の違いに思い至らないことも少なくない。ヒアリングの段階で、やっと「自身が求めているもの」と「OpenStackで実現するもの」「OpenStackを利用する上で考えておかなければならないこと」とのギャップに気付くケースだ。

 こうした“悲劇”をなくすにはどうすればよいのだろうか?

 もしもあなたがOpenStack導入に関心を持ったなら、あるいは顧客から問い合わせがあったなら、セッションで武田氏が整理した、次のような「ギャップを埋める問い」から要件を整理してみるとよいだろう。

(1)本当に「サービス」化が必要?

 先の「コレジャナイ」ケースで期待と現実にギャップが生じた大きな要因は「IT基盤更改で必要だったものが、実はサーバー仮想化によるサーバー統合であり、必ずしもIaaSが必要ではない」という点だ。サーバー統合とIaaSは仮想化技術を使うなどの面で類似している部分もあるが、「サービス」として提供されるかどうかを見ると、明確に要件が異なる。

 OpenStackは言うまでもなく「IaaS構築基盤ソフトウエア」であり、サーバー統合のための道具ではない。IaaSを求めていないところで導入を検討しても「コレジャナイ」という結果になる。こう話を聞くと至極当然のことのように見えるが、要件が明確化できていない場合、現実にはよくある問題なのだという。

 「IaaSはサービスである以上、“提供者”と“受給者”がいます。サービス提供者はサービスを提供するのが仕事です。サービス受給者はサービスを利用してやりたいことを実現するのが仕事です。一方で、サーバー統合は、サーバーを集約し、サイロ化することが主目的ですから、サービスではありません」(武田氏)

(2)どの程度、「変化への対応」を望んでいる?

 変化への対応や個別要件への対応についても、サーバー統合とIaaSでは全く異なる性質を持つ。

 IaaSが「割り切った枠組みのなかで迅速に利用できる」のに対し、サーバー統合は「“相互の寄り添いと歩み寄り”の世界での個別対応」である、と武田氏は述べる。サーバー統合の「相互の寄り添いと歩み寄り」の世界では、何事もお互いの相談と調整から始まるため、変化への追従が遅くなる。

 武田氏は、OpenStackを漠然と検討しているユーザーに対して、「自身が気付いていない“本当の要件”が持つ性質(サーバー統合かIaaSか)を把握することが必要」と指摘する。

(3)IaaS運用のマインドセットを持てているか?

 IaaSを検討する場合は、さらにマインドセットを変えていくことも求められる。武田氏は、IaaSを語る際によく引用される「ペットと家畜」の例を挙げて、次のように語る。

 「サーバー統合は、サーバーをペットのように扱うこと。個としてのサーバーを手塩にかけ、高信頼なサーバーを実現します。個別に名前を付け、調子が悪くなれば、慎重に手当します。一方、クラウドは、サーバーを家畜のように扱うこと。集団としてサーバーを管理し、高信頼なサービスを実現する。調子が悪くなれば、交換します」(武田氏)

「ペットと家畜」(出典:欧州原子核研究機構(CERN) Gavin McCance氏のスライド) 「ペット」(個別のサーバー)は固有の名前を持ち、個々に状態監視やケアを行う。一方で、「家畜」(IaaS上のサーバー群)は、一意の数字で管理され、群れの一頭に不具合がある場合は別の一頭と置き換える。画像にある通り「ネタ元」はRandy Bias氏の公開資料のようだが、残念ながら現在、見つけることができなかった

 こうしたユーザー企業が持つ「クラウド」に対する認識の違いが「コレジャナイ」を生む要因の一つになっているわけだ。

(4)手段か? 目的か? 「将来あるべき姿」を明確化する

 「コレジャナイ」を生む理由は他にもある。手段と目的が曖昧なケースだ。

 IT基盤のサービス化は、変化に迅速に対応し、より効率的な運用を目指すための「手段」としてとらえなければ「コレジャナイ」は解消しない。

 この問題について、武田氏は「『手段が目的になっていないか』『手段の目的化に便乗していないか』『何のためにクラウド化したいのか』『何を課題として何を期待しているのか』といった疑問を投げ掛けて、真の目的を明らかにしなければ『コレジャナイ』は解消しない」と指摘。ユーザーだけでなく提供者側にも責任がある、とも付け加えた。

 「提供者側が思考を停止したまま、バズワードに便乗して提案することの責任は大きいと思います。ただ、一方で、利用者側も思考を停止しているとすれば、等しく責任があると考えます。大切なのは、どちらの側であっても、思考停止せずに“未来をどうするか?”を問い続けることです」(武田氏)

 問うべきことは「あるべき姿は何か」「IT基盤に対して何を求めているのか」だ。これは、「目の前のことを低コストで乗り越えたいだけなのか」「将来を見通したときもそれでいいのか」といった問いにもつながってくる。

 この問いを、より具体的にするには「2020年を思い浮かべればいい」と武田氏はいう。

 東京オリンピックの年(2020年)に「自社の業務やサービスはどう変わるか」「IT基盤はそれに応えられるか」といった問いから将来像を明確化し、そこから逆算していくことで、いま必要なIT基盤像を導き出す方法だ。

将来像を明確化する問い掛け(出典:武田氏が公開している発表資料

(4)「攻め」か? 「守り」か? OpenStackで「攻め」る事例は既にある

 武田氏によると、そこで重要になってくるのが、「攻め」なのか「守り」なのかを区別し、役割に応じた基盤を選択することだ。米国のユーザー企業は、金融や小売などの、一般に保守的と思われる業界がOpenStackを「攻め」に使って成果を上げている。

OpenStackのWebサイトでは、OpenStack採用企業名や動画資料がまとめられている

 多数公開されている企業事例を見れば、先行企業がどのように「攻め」ているのか、既存環境からどう移行し、導入してきたのかを理解できるようになるだろう。

 武田氏は、最後にこうアドバイスを贈って講演を締めくくった。

 「攻めのIT、守りのIT、それぞれに適した手段を選ぶことが大切です。攻めるなら、“ペット飼育”の感覚を脱し、サーバーの“家畜”化を許容しましょう。もし取り組みを進めるなかで、“コレジャナイ”を感じたときはどうするか。思考を停止せず、個別最適に走らず、何が全体最適なのかを考えましょう」(武田氏)

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