IoTとは何か?企業、社会をどう変えるのか? :特集:IoT時代のビジネス&IT戦略(1)(2/3 ページ)
世の中全体に大きなインパクトをもたらすとして、社会一般から大きな注目を集めているIoT(Internet of Things)。だが、その具体像はまだ浸透しているとはいえない。そこで本特集ではIoTがもたらすインパクトから、実践に必要なインフラ、ノウハウまで、順を追って掘り下げていく。
IoTを支える「4つのプロセス」とは?
では、そうしたニーズなどの問題が解決したとして、以上のようなIoTを実現するためには具体的にどのような「仕組み」が必要なのだろうか? 池田氏は、あらゆるモノがインターネットにつながった際のデータの流れについて、「センシング」「ネットワーク」「アナリシス」「フィードバック」という4つに分けて説明する。
「まずは、モノに近い場所でモノの内外の状態をセンサーで観測するセンシング。観測結果データをネットワークを介して一箇所に集めるネットワーク。集めたデータにビッグデータ分析を施し、仮説や予測を導き出すアナリシス。そして最後に、得られた仮説や予測に基づき、モノに指令を送って外の世界に働き掛けるフィードバック――この4つのプロセスが、どのような分野での活用にも共通するIoTの基本プロセスとなる。違いは個々のプロセスの複雑度だけだといえる」
顧客に提供するのがモノではなく、前述のようなITサービスの場合、「フィードバック」は「新たに開発・改善する」ということになるだろう。ただ池田氏は、これら4段階のプロセスを「仕組み」に落とし込んでいく上では、「これまでのシステム開発にはない、新たなスキルが必要になる」と指摘する。
「ネットワークとアナリシスについては、従来のシステム開発の枠組みで対応できるだろう。だがセンシングとモノへのフィードバックは、システム開発というより組み込み開発の領域に近い」
また、4つのプロセスからなる「現状を把握して次のアクションに生かす」というループは、「社内に閉じた」“エンタープライズループ”であれば、これまでも行われてきた。だがIoTでは「社外も含めた」“パブリックループ”に変わる。
「工場における制御システムなどは、工場設備に閉じた組み込み開発の世界。しかしIoTになると、これをインターネットに接続することになる。従って、これまでの組み込み開発のスキルやノウハウだけでは対応が難しくなり、逆にインターネットやWebシステムの知見を持つ技術者は、組み込み開発のノウハウに乏しい。この両者を結び付け、それぞれが持つノウハウを融合させていくことが、IoTを実現する一つの鍵になるだろう」
IoTにかかわるエンジニアが留意すべき点とは?
「仕組み」を作る上で、留意すべきポイントは他にも複数あるという。一つは「IoT用のインフラと、既存インフラの切り分けを明確にすること」。
「IoTのインフラは、これまでのITインフラのような“情報を扱うもの”ではなく、それ自体が“情報を生成するもの”。既存のITインフラとは性質が異なる。そのため、既存のインフラとは別に『IoTゾーン』のような専用の環境を用意する必要がある」
というのも、IoTの場合、センサーから得たデータを通じて市場の反応をうかがい、モノやサービスにスピーディーに分析結果を反映していく必要がある。特に、市場環境変化の先を確実に予測することはできない以上、多くの場合、まずは限られた範囲を対象にプロトタイピングを行い、その結果を検証しながら本番環境での実装を検討していく。こうした要件に適したインフラを用意する必要があるわけだ。つまり、コストを抑えながら大量データをスムーズに収集・蓄積・分析するために、ネットワーク設計を熟考する必要もあれば、クラウドの有効利用も不可欠となる。また、スピーディーかつコストを抑えてアプリケーションを開発できる開発・運用環境も必要だ。
「プロトタイピングの段階ではPaaSを使う方法も有効。ただし、いざ本番環境向けに開発するとなれば、冷静にリスクを判断できる人材をアサインし、ツールやインフラも本番環境の要件と照らし合わせながら、きちんと見直すことが不可欠だ」
「センシング」や「フィードバック」を行う上では、専用デバイスや専用ソフトウエアの開発が求められる可能性もある。そうなると、先に「組み込み開発の知見が必要」と紹介したように、一般的なシステム開発とは異なるスキルセットが必要なため、「この領域に強みを持つベンダーとのパートナーシップを結ぶ必要も出てくる」という。
また池田氏は、「IoTの仕組みを築く上では、ゲートウェイをどこに置くかが大きな鍵になる」ことも強調する。
「モノの世界とITの世界の境界をどこに設けるか。特にセンサーからのデータをボトルネックなく効率的に収集したり、セキュリティを担保したりする上で、モノの内と外の境界線上にゲートウェイを設け、それぞれに適切な機能を持たせる必要がある。この内外の機能分担によってIoTインフラの設計・効果は大きく変わってくる」
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