IoTとは何か?企業、社会をどう変えるのか? :特集:IoT時代のビジネス&IT戦略(1)(3/3 ページ)
世の中全体に大きなインパクトをもたらすとして、社会一般から大きな注目を集めているIoT(Internet of Things)。だが、その具体像はまだ浸透しているとはいえない。そこで本特集ではIoTがもたらすインパクトから、実践に必要なインフラ、ノウハウまで、順を追って掘り下げていく。
IoTは成果を焦らず、着実に取り組んでいくべし
ただ「仕組み」だけあっても、最終的にデータから価値を引き出し、最終的なアクションを考えるのはあくまで「人」の作業だ。この点で、池田氏は「組織作り」の重要性も挙げる。
「IoTは極めて広い可能性を持っている。そのため、ある部署で試行した結果が思わしくなくても、別の部署ではうまく機能する場合もある。この点で、『IoTイニシアティブ』の役割を担う、社内横断的な組織を設けることを推奨している」
その上で、「IoTを使って何をやりたいのか?」という目的をしっかりと定義し、関係者間に周知する。IoTはこれまでのビジネスの枠組みを大きく変える可能性を秘めているが、その半面、旧来の常識や制度、ルールにとらわれたままだと、見いだしたはずの「価値」や「本来の目的」を見失ってしまいやすいためだ。そのため、「自社が目指すIoTの価値を、折に触れて振り返ることが大事だ」という。
一方で、リスク要因にも着目する必要があるという。例えばインターネット接続にこだわるあまり、社内のモノやシステムのインターフェースを安易にインターネット上に公開すれば、そこが脆弱性となり、悪意ある攻撃に狙われる可能性も生じる。その点でも「IoTの取り組みを一気に広げるのではなく、まずは限られた範囲から小さくスタートし、効果とリスクを慎重に見極めながら徐々に範囲を広げていく必要がある」。
プライバシー侵害の可能性も考えなければならない。人々の行動履歴データを基にしたサービスはビジネスに大きな可能性をもたらす。だがその半面、コンシューマーにとっては「他人に知られていないと信じていた個人情報に基づいて、環境が絶えず自分に働き掛けてくる」といった世界に映る。こうした世界が許容されるべきか否か――冒頭での池田氏の指摘のように、「人々のニーズをきちんと掘り下げて考える」ことはIoTの大前提ということなのだろう。
「現状では、テクノロジの進化にプライバシー保護のルール整備が追いついていない。当面はこの問題を100%解決するのは難しいだろう。IoTに取り組む上では、こうしたリスクの存在も常に考慮に入れておく必要がある」
ただ池田氏は、「そのことでいたずらに萎縮する必要はない」と述べた上で、「そうしたリスクも踏まえた上で、成果を焦らず、着実に取り組みを進めることが最も重要だ」とアドバイスする。というのも、IoTは多くの企業にとって前例のないチャレンジ。よって、取り組みの初期段階では試行錯誤の繰り返しとなり、「すぐに成果が出る」といったものではないためだ。
「いきなり正解を引き出すことは難しい。換言すれば、IoTは現時点では『未来に向けた投資』なので、経営者はそれを承知した上で、長期的な観点で取り組むことが大切だ。成果が見えない取り組みになるため、当初から潤沢な人員や予算はもちろん望めないだろう。だが、こうしたIoTは“自社のこれから”を支える仕組みを作る取り組みになる。『未来の実現に直接携わっている』というパッションは、現場にとってモチベーションの源泉になるはずだ」
俯瞰的に見れば、まだIoTの進展は始まったばかり。以上のようなリスク要因もあるため、いたずらに焦る必要はないが、今の経営環境がこうした「ニーズに俊敏に応える、差別化のためのプラットフォーム」を求めていることは確実だ。実際に事例も出始めている以上、自社のビジネス展開の在り方を見直してみる必要があるのではないだろうか。次回、今回のプロローグを基に、IoTに必要なテクノロジ、ビジネスでの活用法を一つ一つ掘り下げていく。
□特集:IoT時代のビジネス&IT戦略〜「チャンス」にするか、「リスク」になるか、いま決断のとき
今、IoT(Internet of Things)が世界を大きく変えようとしている。企業は現実世界から大量データを収集・分析して製品・サービスの開発/改善につなげ、社会インフラはあらゆる予兆を検知してプロアクティブに対策を打つ。だが、IoTはドライバーにもリスクにもなり得る。データの収集力、分析力、そして価値あるアクションに落とし込む力次第で、チャンスをモノにもできれば奪われもするためだ。企業・社会はこの流れをどう受けとめるべきか?――本特集ではIoTの意義から、実践ノウハウ、不可欠なテクノロジまでを網羅。経営層からエンジニアまで知っておくべき「IoT時代に勝ち残る術」を明らかにする。
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