IoTの循環プロセスを形成する4つのステップとは:特集:IoT時代のビジネス&IT戦略(2)(2/2 ページ)
世の中全体に大きなインパクトをもたらすとして、社会一般から大きな注目を集めているIoT(Internet of Things)。だが、その具体像はまだ浸透しているとはいえない。そこで本特集ではIoTがもたらすインパクトから、実践に必要なインフラ、ノウハウまで、順を追って掘り下げていく。今回は、IoTの研究開発に余念がない現場の技術者に4ステップに分かれるIoTのプロセスと、各ステップに必要な技術要素や課題などについて聞いた。
データ可視化の結果をどんな価値に変換するのか?
こうしてデバイスから送出されたデータは、データセンターやクラウド上に設置されたIoT専用の大規模コンピューティング環境で蓄積・分析されることになる。先ほど、松井氏が「デバイス側とクラウド側」と表現した2つのゾーンのうちの、後者に当たるのが、この部分だ。
この領域について考察する上で、松井氏はまず「データ受け取り」と「データ処理」の2つの機能を設定する。
「IoTのデータを集約する部分には、さまざまな場所からひっきりなしにデータが飛んでくる。また今後、デバイスの数がますます増え続けていくことを考えれば、データを受け取る部分はなるべくスケーラブルに設計しておくことが望ましい。そういう意味では、クラウドのインフラはスケーラビリティに極めて優れており、IoTのコンピューティング基盤に適しているといえる」
一方で、そうやって受け取った大量のデータを蓄積・処理するためのクラウドサービスも、ここ数年の間にかなり充実してきた。また近年では、従来あったビジネス向けBIの機能に加え、人工知能技術を応用した極めて高度なデータ分類・予測機能を提供するクラウドサービスも出てきた。これらを駆使すれば、データの受け取りから蓄積・分析までの一連の処理を、全てクラウド環境上で効率良く調達できるだろう。
しかし、これらは全て“手段”にすぎない。IoTに取り組む上で最も大事なのは、そうやって集めたデータを分析した結果、「どんな知見を得て、どんな価値を顧客や社会にフィードバックするか」という“目的”の方である。松井氏によれば、この目的を達成する上では、どれだけテクノロジが発達したとしても最後にものを言うのは「人の知恵」だという。
「まだ見えていないデータを可視化する。あるいは、まだ分析できていないデータを分析する。これらは、テクノロジの進化によって可能になった。しかし、そうやって可視化されたデータをどんな価値に変換するかを考えたとき、テクノロジではなく“人の知恵”が問われる。この部分は、やはりデータ分析の専門家でないと手掛けられないため、多くの企業ではまだまだこれからの取り組みだと思う」
この“価値への変換”を実現する上で一つのキーになるのが、「アジャイル開発」だと同氏は言う。IoTデータの分析から価値を見いだしていく営みは、仮説と検証を絶えず繰り返すサイクリックなプロセスになる。そのため、ベンダーがユーザーにシステムを収めておしまいという開発スタイルではなく、ベンダーとユーザーが一緒になってデータ分析の改善サイクルを回し続けていく、アジャイル的なプロセスがIoTにはマッチすると同氏は言う。
「ユーザーに対してデータ分析の精度を担保するためには、データ分析の専門家を据えて、ある程度長期にわたって改善サイクルを回していく必要がある。一方で、『分析結果の根拠は厳しく問わないので、とにかく手っ取り早く分析してほしい』というニーズもあるだろうし、これに応えるデータ分析サービスも出てくるだろう。IoTが進展するに従い、ベンダーに対するデータ分析の要望はこのように二極化していくのではないだろうか」
ビジネスモデルごとに垂直統合のアライアンス体制が形成
なお松井氏は、コンテスト応募アプリを自らの手で実装する過程で、思い知らされたことが一つあるという。
「デバイスを制御するためのコードのプログラミングには、少し手こずった。幸い、今回使ったIntel EdisonやRaspberry PiはLinuxベースでできた汎用デバイスなので、慣れ親しんだLinuxプログラム開発のノウハウがある程度生かせたが、それでもデバイスごとにできることがかなり違うため、戸惑う部分が多かった。これがさらに、センサーデバイスやそれに近い機器類となると、完全に独自のプラットフォームになるので、LinuxやWebアプリケーションの開発ノウハウは全く通用しなくなる」
センサーからの出力を汎用デバイスで受け取って処理する程度なら、何とかWebプログラミングのスキルで対応できるかもしれない。しかしセンサーそのものの制御まで必要となると、「Web開発者にはちょっと手が出ないだろう」と同氏は述べる。その上で、もしそうした開発の必要性が生じた場合には、組み込み開発を得意とするベンダーとの協業も検討するべきだという。
「IoTはハードウエアからネットワーク、セキュリティ、クラウド、さらにデータ分析と、実に多くの技術要素を含む活動になるので、全てのスタックを1社でカバーできるベンダーはほとんど存在しない。そのため、それぞれの領域を得意とするベンダー同士が手を組み、特定のビジネスモデルごとに垂直統合のアライアンス体制が形成されることになるだろう。現時点では大手ITベンダーやクラウドベンダーがこうしたアライアンス活動をリードしているように見えるが、日本においてはユーザーに密接に寄り添ってIoTの価値を提案できるSIerにその役目が求められるのかもしれない」
特集:IoT時代のビジネス&IT戦略〜「チャンス」にするか、「リスク」になるか、いま決断のとき
今、IoT(Internet of Things)が世界を大きく変えようとしている。企業は現実世界から大量データを収集・分析して製品・サービスの開発/改善につなげ、社会インフラはあらゆる予兆を検知してプロアクティブに対策を打つ。だが、IoTはドライバーにもリスクにもなり得る。データの収集力、分析力、そして価値あるアクションに落とし込む力次第で、チャンスをモノにもできれば奪われもするためだ。企業・社会はこの流れをどう受けとめるべきか?――本特集ではIoTの意義から、実践ノウハウ、不可欠なテクノロジまでを網羅。経営層からエンジニアまで知っておくべき「IoT時代に勝ち残る術」を明らかにする。
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