IoTで待ったなし、進む「IPv6移行」への動き:モバイルが迎えるIPv6時代(前)(2/2 ページ)
スマートフォンの普及やIoT時代の到来により、「IPv4アドレス枯渇問題」への対応が一層緊急度を増しています。本稿では、モバイルキャリアなどのサービス事業者のIPv6対応に向けた動きや、技術面から見たときのIPv6対応について解説します。
スマートフォンが加速させるIPv6インターネット
ご存じの通り、日本国内のIPv4アドレスの枯渇が叫ばれ始めて、既に数年が経過しています。2011年4月15日、アジアのIPv4アドレスの分配を行っているAPNIC(Asia-Pacific Network Information Centre)がアドレス在庫の枯渇を発表し、2015年9月24日には北米のARIN(American Registry for Internet Numbers)もアドレスの枯渇を発表しました。その結果、IPv4アドレスを保有している事業者間における“アドレス移管市場”が活発化し、アドレスの市場価格は値上がり傾向にあるようです。
このIPv4アドレスの枯渇に対応するため、現在、モバイルネットワークやホームネットワークにインターネット接続を提供しているサービス事業者の多くが、「CGN(キャリアグレードNAT)」という技術を活用しています(図1)。
CGNは、スマートフォンや顧客ネットワークに割り当てるアドレスをIPv4グローバルアドレスではなく、IPv4プライベートアドレスで運用し、事業者のインターネット接続出口でプライベートアドレスからグローバルアドレスへの大規模なNAPT(Network Address Port Translation)を行います。これにより、グローバルアドレスの大幅な節約ができます。このCGNは、独自の機能や大量のNAPTセッションの同時処理が必要とされることなどから、通常のルーター製品ではなくNAT(Network Address Translation)の“お化け”のような専用装置により運用されています。
携帯キャリア3社はこのCGN技術の活用により短期でのIPv6対応を回避しましたが、今回の総務省の要請を受け、IPv6への対応を本格検討し始めると予想されます。キャリアの回線を利用しているMVNOなどのモバイル通信事業者も、同様にIPv6対応を進めるでしょう。
また、スマートフォンに関しては、総務省の要請以外にもIPv6対応を後押しする要因が存在します。アップルやグーグルなど、プラットフォームを提供する企業のIPv6対応が加速していることです。
アップル(iPhone)のIPv6対応
アップルは、iOSのネットワーク系APIである「Happy Eyeball」において、IPv4よりIPv6接続を優先する仕様への変更を行うと宣言しました。IPv4接続に対しては、DNSの名前解決時に25msの遅延が挿入されます。さらに2016年からは、iPhoneアプリの審査要件として、IPv6対応に加え、IPv6変換技術である「NAT64/DNS64」への対応も必須になります。
グーグル(Android)のIPv6対応
グーグルは、Android上のIPv4でしか動作しないクライアントアプリケーションであってもIPv6接続で利用できるよう、IPv6―IPv4変換技術である「464XLAT」をデフォルトで利用できるようにしています。
※対応しているのはLTE接続のみ。ちなみに、海外ではこの変換技術を使い、IPv6オンリーのLTE接続サービスを提供しているモバイル事業者もいる。
また、既にPCブラウザのユーザーに対してIPv6接続を提供しているツイッター、フェイスブックなども、スマートフォンアプリに対してIPv6接続を優先的に利用できるようにしていく方針のようです。
このように、携帯キャリアとモバイルOS(特にiOS)がIPv6対応を加速するにつれ、日本のスマートフォンアプリもIPv6に対応していきます。日本のスマートフォンアプリがIPv6へ対応すれば、国内の他のサービス事業者へも影響が波及していきます。まずはスマートフォンンアプリ向けのコンテンツ事業者、そしてそのコンテンツを配置するデータセンター、クラウド事業者、さらには家庭でもスマートフォンによるIPv6接続が必要になるケースが増え、ブロードバンド回線によるインターネット接続を提供しているISPやCATV事業者においても、IPv6対応の検討が進むでしょう。
携帯キャリアのIPv6対応が影響を与える事業者
- モバイル通信事業者
- スマートフォンアプリのコンテンツ事業者
- データセンター
- クラウド事業者
- ISP、CATV事業者
モバイルIPv6対応の先にあるIoT時代
最近は、クラウド経由でスマートフォンから簡単に操作できる製品が出始めています。筆者自身も、不在の間のペットの様子を見るために、ひとり暮らしの自宅にWebカメラを設置し、カメラメーカーのクラウドサービスとスマートフォンアプリを利用しています。また、電化製品のリモコンの赤外線を記憶する製品などもあります。これも、スマートフォンからクラウド経由でエアコンや照明などを不在時に操作できます。他にもテレビやゲーム機、「Apple TV」など、頻繁にインターネットに接続する家電機器があります。また今後、在宅勤務が一般化するようになれば、「家電のようなリモートワーク用コミュニケーション端末が会社から支給され、インターネットへ常時接続する」といった状況が訪れるかもしれません。
話が少し逸れましたが、スマートホームや工場などの大きな設備でなくても、身近なところで既にIoT時代は始まっています。現時点では、IoTのハブとなるインタフェースは主にスマートフォンアプリで、安価なクラウド設備を使うことでサービスが提供されています。今後は、さらにさまざまなデバイスがインターネットにつながり、ユーザーはこれまでにない新たなサービスを享受できるようになるでしょう。そして、それを実現するためにインターネットそのものにもアップデート、すなわちIPv6対応が求められているのです
さて、次回は技術編として、IPv6接続におけるサービス事業者ごとのIPv6対応と、利用されるIPv6変換/移行技術の仕組みについて解説します。
著者プロフィール
真野 桐郎(まの きりろう)
A10ネットワークス株式会社 シニアシステムエンジニア
商社、SIer、ISPのシステムエンジニアを経て、
2009年、A10ネットワークス株式会社設立時に入社。
システムエンジニアとして、キャリア、エンタープライズ、
パートナーセールスの技術サポートを担当。
IPv6移行技術が専門分野。
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