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いまさら聞けないUX(User eXperience:ユーザー体験)の歴史、現状、今後はどうなる?安藤幸央のランダウン(69)(2/2 ページ)

現在に至るまで「UX」的なものがどのように発展してきたのかを振り返り、今後どうなっていくのかを考えます。あらためてユーザビリティやUXを考えるヒントにしてください。

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UX関連の定義と標準規格

 UXを考える上で、1つの基準となる、UXやユーザビリティ関連の定義と標準規格をまとめておきます。

1998 ISO 9241-11によるユーザビリティの定義

 利用者の満足度の度合い、有用さ、効率、満足度、環境などが定義されています(JIS Z 8521 人間工学−視覚表示装置を用いるオフィス作業 − 使用性についての手引に相当)。

1999 国際規格 ISO 13407によるユーザビリティの定義

 これにより、HCD(Human Centered Design:人間中心設計)が広く知られるようになりました(JIS Z 8530 インタラクティブシステムの人間中心設計プロセスに相当)。

2010 ISO 9241-210によるユーザビリティの定義

 2010年にISO 13407が改訂され、UXの概念が導入されました。そこでのUXの定義は「製品やシステム、サービスを利用や、予想的に利用することによってもたらされる人の知覚(認知)や反応」であり、補足的に追加されたもので、UXの総括が成されたものではありません。

UX白書(日本語翻訳版

 これは、2010年9月15〜18日にドイツで行われた会議で「UXの概念」についての議論をまとめたものです。


UXの期間(「UX白書」:日本語翻訳版サマリー資料より引用)

 利用前の「予測的UX」、利用中の「一時的UX」、利用後の「エピソード的UX」、利用時間全体の「累積的UX」と時間軸を捉えてUXを認識することで、単なる「UX」でひとくくりにするのではなく、的確に体験を捉えることができるようになりました。「UX」というときに、「どの期間のUXを示しているのか」を意識しながら考えると、さまざまな事柄がクリアになってくるはずです。

職種としてのUX

 さて、数年前まではUXデザイナーや、UXリサーチャーといった専門職としての肩書きはほとんどなく、デザイナーや、リサーチャー、エンジニアや品質管理担当、テスト担当がその業務の一部としてUX的なことを実施してきました。

 最近では、欧米も日本も、アジア圏においても「UX」を指した職種の募集が勢いを増しており、経験豊富な人材は引く手あまたです。そこでは、単に手法を知っているということではなく、実際に仕事の中で活用し、組織やチームの中でUXの意味や意義を浸透させていく役目が求められています。

 また、UX関連の専門職種であっても、「チーム内に1人だけ」「企業内に1人だけ」といった孤立無援の体制である場合や、企業としてUXに関わる数人のチームを組む場合も見受けられるようになってきたとともに、デザイナーやエンジニア、マーケター、カスタマーサポート、営業担当まで全ての職種の人々の中に「UX」の大切さが浸透しつつあります。

 ただ、言葉や手法だけが一人歩きしている感もあり、これからまだまだ発展や活躍の余地はあるでしょう。

 ちなみに、世界的に展開する求人サイト「indeed」でUX職種を検索すると、全部で1万6834件(2016年2月の原稿執筆時)賃金も、年収7万ドル以上、11万5000ドルと高収入の部類で、ほとんどが正社員としての募集です。「indeed」日本語版でも3861件、主にスタートアップ系の求人サイトとして知られる「Wantedly」でも1263件の募集です(いずれも、2016年2月の原稿執筆時)。

 ひと言でUXと言っても、そこで求められるスキルや経験は年々幅広くなってきています。大きめのチームであれば、細かに分担可能な場合もありますが、人数の少ないスタートアップであれば、下記のようなUXにまつわるさまざまな事柄をこなすことが求められています。


Theo Priestley氏のツイートから引用
  • ユーザー調査のスキル、経験
  • ビジネスに関わる解析、立案
  • インタラクション、操作に関するデザイン
  • インフォメーションアーキテクトとして、情報の設計
  • ビジュアルデザイナー、見栄えのするピクセル単位のデジタルデザインの技術
  • コンテンツ戦略の立案、ソーシャルメディアの活用
  • フロントエンド開発者、プロトタイプを作るための技術
  • UX戦略の立案、企業内、チーム内へのUXの考えを浸透させる役目

UXのこれから――企業の大事な戦略、ビジネスの根幹になる大切な要素の1つ

 UXという言葉自体は、数年後には違うものに取って代わられているかもしれませんが、ユーザーの体験を重視するという目的、目標自体は、人が何かを作り使い続ける限り、変わらないでしょう。UXの領域で考え、実践しなければいけない事柄は、下記のようにますます増えていくことが考えられます。

  • 機械学習によるUXの最適化
  • マシンインタフェース、IoTなど、機械のためのUX
  • UIにこだわらない、体験だけに集中したUX設計、「No UI」の浸透
  • 全ての職種がUXを意識するように
  • UXが学術的に統計立てて研究されるように
  • 新しいもの、技術をUX指標で計れるように
  • 短時間で検証したり、試作したりできるプロトタイピング環境の拡充
  • UXのテストをクラウドソーシングで、多様性を持って実施できるように
  • UXの成功パターンがまとめられ、失敗しないように
  • 触覚や音、音声によるインタフェースにおけるUX
  • 子供のためのUX
  • 愛着や、ブランド構築といった領域へのUX活用
  • 企業へのUX戦略の浸透、差別化要因としてのUX活用
  • 既存の体験や経験が役立たない、新しい体験を設計するためのUX

 ITに閉じた視点でシステムを作ってきた時代から、実際にシステムを使うユーザー視点で作らなければならない時代になりました。専門家ではなくとも、誰もが使いやすさや愛着といった感覚を理解し、感じ取っているはずです。

 今後、UXは企業の大事な戦略、ビジネスの根幹になる大切な要素の1つであり、予算に余裕があれば少しだけ……ではなく、率先してUXに予算と時間、人的リソースを割くようになっていきます。誰にも使ってもらえない「モノ」を必死で売り込むことなく、誰もが飛びつくような「体験」を提供できるようになっていくことが大切です。

 本稿で、あらためてUX的なことの重要性を再認識できた方は、自社なりのUXを定義し、他社との差別化に役立ててみてはいかがでしょうか。



 次回記事は、2016年夏ごろに公開の予定です。内容は未定ですが、読者の皆さんの興味を引き、役立つ記事にする予定です。何か取り上げてほしい内容などリクエストがありましたら、編集部や@ITのFacebookページまでお知らせください。次回もどうぞよろしく。

著者紹介

安藤幸央(あんどう ゆきお)

安藤幸央

1970年北海道生まれ。現在、株式会社エクサ マルチメディアソリューションセンター所属。フォトリアリスティック3次元コンピュータグラフィックス、リアルタイムグラフィックスやネットワークを利用した各種開発業務に携わる。コンピュータ自動彩色システムや3次元イメージ検索システム大規模データ可視化システム、リアルタイムCG投影システム、建築業界、エンターテインメント向け3次元CGソフトの開発、インターネットベースのコンピュータグラフィックスシステムなどを手掛ける。また、Java、Web3D、OpenGL、3DCG の情報源となるWebページをまとめている。

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「VRML 60分ガイド」(監訳、ソフトバンク)

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The Java3D API仕様」(監修、アスキー)


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