いまさら聞けないUX(User eXperience:ユーザー体験)の歴史、現状、今後はどうなる?:安藤幸央のランダウン(69)(1/2 ページ)
現在に至るまで「UX」的なものがどのように発展してきたのかを振り返り、今後どうなっていくのかを考えます。あらためてユーザビリティやUXを考えるヒントにしてください。
著名WebサービスのUIの変遷が見られる「UX Timeline」
少し前になりますが、著名Webサービスについて、登場から現在まで、Webデザインの変化を振り返り、そのサービスの体験が変化していく様子、洗練されていく様子を時系列に従って見る「UX Timeline」というサイトが話題になりました。
音楽検索サービス「Shazam」、メーリングリストサービス「Mailchimp」、動画共有サービス「Vimeo」、ファイル共有サービス「Dropbox」、定額制音楽視聴サービス「Spotify」、車のシェアリングサービス「Uber」、宿泊に関するシェアリングサービス「AirBnB」など年代ごとのUI(User Interface)の変遷を見ることができます。
どのサービスも、最初は若干やぼったく、慣れないエンジニアが急いで作ったようなものでしたが、サービスや企業が発展するとともに、専任のデザイナーが時間をかけて作ったであろう洗練された雰囲気に数年で大きく変化していることが読み取れます。
さらに最近数年分を見ると、流行を取り入れ、シンプルで使いやすいサービスのアピールや、明確化したブランドイメージを感じることができます。特にUberはその変化が顕著な例でしょう。
これらのWebサービスのUIの変遷を見ていると、あらためてユーザビリティやUX(User eXperience:ユーザー体験)とは何かを考えるヒントになるかと思います。今回は、UXの歴史を振り返り、これからを考えてみます。
UXの芽生え
「UX」という概念が初めて明確化され言及されたのは、1990年に刊行された著書『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論』(ドン・ノーマン著、新曜社刊)で、といわれています。それ以前にも、建築の世界、サービス業の世界、店舗設計や製造業や商品開発の世界などでも、「ユーザーの体験」は重視されてきましたが主に使いやすさや見た目、もてなしなどが主軸となっていました。
UXという観点で、「どのようにしてユーザーの体験を導くか」「適切な体験が得られるよう配慮するか」「どれだけユーザーを観察するのか」「ユーザー不在のサービスや機能を作って失敗しないようにするのか」など、どんなにいろいろなことを考えてモノを作ったとしても、正解を持っているのは常にユーザーとなる人々であることを強く認識するようになったのは最近のことです(参考:The Definition of User Experience:UXの定義(ドン・ノーマン氏、ヤコブ・ニールセン氏によるもの))。
また日本では、さまざまな物事やサービスの体験全般を「UX」という言葉でとらえますが、欧米で「UX」というと、スマートフォンアプリやWebなどのデジタルサービスに限定された体験のみという狭義の意味で使われることが多いように感じています。
また広義のUXは、学問や規格としてはまだまだ定義されておらず、より良いユーザー体験を提供するために、視覚言語や行動心理学、人間の身体特性の把握が必要とされていました。
例えば、Apple Storeの店舗では、人間心理を考えた上で、机のどの位置にディスプレイを配置し、どの位置にキーボードやマウスを置いておくと、試しに触りやすいのか、ケーブルの引き回しを美しく見せる配慮や、椅子の設置場所まで、綿密にルールが決められているそうです。
「UX」という言葉が浸透する前のUX的な出来事
続いて、「UX」という言葉が浸透する前のUX的な出来事をまとめてみたいと思います。最も古いものとして知られるUXの失敗事例は、1430年に、レオナルド・ダ・ビンチが、ベルトコンベヤー付きのキッチンを考案したことだそうです。
そこから20世紀に至るまで、各分野においてUX的な発展がありました。建築家は、住む人や施設を使う人のことを考えて、建築物を設計するようになり、出来上がった建築物が完成形ということではなく、住人は工夫して使うことで建築物としての価値を高めるようになっていきます。製造業においては、人間の振る舞い、手や体のサイズを配慮した上で、製品を作るようになり、サービス業においては、顧客へのおもてなしの考えや作法などが考えられるようになりました。
下記は、「A Brief History Of Usability ― Jeff Sauro」を参考にした「UX」という言葉が浸透する前のUX的な出来事の一覧です。
- 1940年代ごろ、「エルゴノミクス」「ヒューマンファクター」と呼ばれる「人間工学」の考えが浸透し始める
- 1947年ごろ、ベル研究所のJohn E Karlin氏による、プッシュフォンのボタン配置の検討。ユーザー体験が重視され始める
- 1954年、「大きさと距離によって操作速度が異なる」というフィッツの法則が、心理学関連の学術誌に掲載される
- 1959年、ヘンリードレイファスが『百万人のデザイン』を刊行。
- テーマパークに遊びに来る人たちをもてなし、飽きさせない方法。1960年代からのディズニーランドの思想
- 単なるコマンドで操作するコンピュータから人が使いやすいGUIが登場。1970年代のパロアルト研究所の研究
- 1995年から、ヤコブ・ニールセン氏が「useit.com」(現在は「Usability & UX Articles from Nielsen Norman Group」)で、ユーザビリティに関するコラムを開始。現在も続いている。
- 1997年には、UXを題名の中で使用した書籍『Web Navigation: Designing the User Experience』(米オライリー刊)が発売
細部にこだわり、「ユーザーが比較する全てのものが競争相手」と考えるディズニーの法則は、現在のUX的指向に大変近い考えだといえるでしょう。テーマパークでの体験は、ドキドキするような特別な体験を生み出し、ユーザーにさまざまな選択肢を与え、全てが魔法のように動作し、革新的で、常により良くしようと改善し続ける姿勢は、学べるところが多いはずです。
「人間中心設計」を提唱した工業デザイナーの草分け、ヘンリー・ドレイファス氏は、「人間を機械に合わせるより、機械を人間に合わせる」という視点をもたらしました。
2007年以降、iPhoneの登場、そして普及で、使いやすさや、体験を意識するようになりました。誰もがWebサービスやアプリの使い手になり、膨大な選択肢と情報が扱えるようになったことも、UXが着目される大きな要因の一つだと考えられます。
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