「日本のインターネットの父」が語る、Interopの意義:Interop Tokyo 2016 特集(2/2 ページ)
2016年6月8日から10日にかけて、インターネットテクノロジーをテーマとした国内最大級の展示会「Interop Tokyo 2016」が開催される。本稿では、Interop Tokyo 実行委員長である慶應義塾大学環境情報学部長 教授、村井純氏にInteropの持つ意義について聞いた。
他業種には見られない「呉越同舟」がもたらした効果
インターネット以外の市場では、「競合するベンダーが一堂に集まり、共同作業を行う」ということ自体が珍しい。しかし、元来オープンな性質を持つインターネットでは、それが自然なこととして受け入れられてきた。
「多くの競合他社が情報を出し合うわけですから、技術は強くなり、標準化が推進されていきます。こうして標準化が推進されることで、さまざまな発展が生まれるわけです」と、Interopを通して生まれる“正のスパイラル”について村井氏は説明する。
加えて、競合企業が集まることには別の作用もあるという。「“けんか”相手の顔が分かるようになるのです。Interopには実際に機器を作っている技術者たちが集まりますから、現場のライバルの顔が全部見えます。しかも、幕張で泊まり込みで作業をしているうちに仲良くなることもよくある。こうしてお互いの顔を知っているということが、何かのときに役立つわけです」(村井氏)。
Interopはまた、「ネットワークエンジニア育成」という側面でも大きな役割を果たしてきた。ShowNet構築を支えるNOC(Network Operation Center)チームや、ボランティアで参加する学生らで組織するSTM(ShowNet Team Member)は、複数のベンダーの機器を実際に設定し、運用する経験を通じて、スキルを磨いていく。こうして「裏方でInteropを支えてきた人たちは、大抵その後もこの分野に入ってきて、日本のネットワークを支えています。ある意味、いいリクルートの場にもなっています」(村井氏)。
ちなみに、村井氏が学生らを見ていると、「最近はシステム屋が増えている」ように見えるのだという。「PCでスイッチを作ってソフトウェアでいろんな機能を定義したり、Raspberry Piの上に独自のOSを書いてみたり、ハードウェア好きが増えていますね」と同氏は述べる。
さらに村井氏は、「彼らには、われわれにとっての秋葉原に当たる場所がないので、いっそ(ハードウェアのスタートアップが集まる)中国の深圳(しんせん)にSFCオフィスを作って、皆が集まれるようにしようかな」と笑った。
Interop Tokyo 2016のキーワード
「Interop Tokyo 2016」では、いくつかのキーワードが挙げられている。その一つが「IoT」だ。
「IoTがもたらすインパクトとして最も大きいのは、産業領域が広がることでしょう。例えば医療業界ならば、ウェアラブルデバイスや病院の機器、ベッドですらIoTの守備範囲に含まれてきます。また農業業界であれば、あちこちに設置されている温度計やセンサー、ロボット化された農機、それから肥料をまくドローンなども出てくるでしょう。どんな産業にも、これまでアナログだったり、デジタルでもネットワークにつながっていなかったりする道具があります。これらが全部インターネットにつながれば、全く新しい産業展開ができるでしょう。それを呼び込むのがIoTです」(村井氏)
一方で「セキュリティ」に対する関心も高まっている。
「今、社会で最も関心が高いのはセキュリティかもしれません。Interop Tokyoでは、自分のPCの中で何が起こっているのかという話と、ネットワークトポロジーの中でどういうことが起こるのか、その両方を議論し、情報を得ることができます。日常生活の中でのネットワークセキュリティから、それを守る裏方の話、さらには“ダークネット”に至るまで、いろんなアプローチ、いろんなレイヤーのセキュリティを一望できます」(村井氏)
村井氏はさらに、サービスやアプリケーションの品質の一環としてのセキュリティにも触れる。「日本製のサービスやアプリケーションは非常に高い品質を実現しています。例えば映像伝送の領域では、4Kのクオリティーの映像をマルチキャストで、400万世帯に向けて同時配信するサービスを複数社が提供していますが、これは他国ではなかなかできないことです」(村井氏)。サービスの品質は、セキュリティと表裏一体の関係にある。Interopでは、「高品質であるが故に安心・安全」という“正攻法の”サイバーセキュリティ対策を目にすることができる。
インターネットがさらに健全に発展し続けるために
かつては海のものとも山のものともつかなかったインターネットは、この20数年の間に爆発的に普及し、インフラとして当たり前のように使われるようになった。技術的にはほぼ成熟したようにも思えるが、村井氏は「今、インターネットはまた面白くなってきたように思います。一つの峠を越えて、NFVをはじめとする応用技術を取り巻く熱気が高まっています」と述べる。
「横展開が増えれば、新しい産業領域における課題が、さらに新たな要求を生むでしょう。例えば高いプライバシーが求められる医療業界が、インターネットと連結しながら全く新しいサービスを作っていく中で、どのように最適化を図っていくか。こうしたところで、インターネット技術はさらに発展し続けるのではないでしょうか」(村井氏)
また、世界を見渡せば、まだまだインターネットにつながっていなかったり、つながっていても十分な品質を実現できていなかったりする国や地域も残っている。村井氏は、「こうした地域がインターネットにつながってくれば、そこでまた新たな展開が生まれるということもあるでしょう。その中で日本の産業がどう活躍していくかを検討する必要も出てきます」と述べる。
「インターネット環境が健全に発展しているだろうかという問いは永遠に続くと思います。そしてその問いが続く限り、Interopには意義があるといえるでしょう」(村井氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.