「日本のインターネットの父」が語る、Interopの意義:Interop Tokyo 2016 特集(1/2 ページ)
2016年6月8日から10日にかけて、インターネットテクノロジーをテーマとした国内最大級の展示会「Interop Tokyo 2016」が開催される。本稿では、Interop Tokyo 実行委員長である慶應義塾大学環境情報学部長 教授、村井純氏にInteropの持つ意義について聞いた。
「Interop Tokyo 2016」の意義とは
2016年6月8日から10日にかけて、インターネットテクノロジーをテーマとした国内最大級の展示会「Interop Tokyo 2016」が幕張メッセで開催される。モバイルやクラウドサービス、データセンターやビッグデータ基盤といった新しい要素を次々に取り込みながら相互接続の検証に取り組んできたInteropは、今年で23回目を迎える。今回も国内外のIT企業が出展し、「IoT」「SDI/NFV」「セキュリティ」をキーワードに最新のソリューションを紹介する。
インターネットやネットワーク技術が当たり前の存在として扱われるようになった今、Interopの意義はどこにあるのだろうか。そしてInteropはこの先、何を目指していくのだろうか? 1986年に米国で初めて開催された「Interop」に日本からただ一人参加し、1994年からスタートした「Interop Tokyo」に長年携わってきた「日本のインターネットの父」こと村井純氏(慶應義塾大学環境情報学部長 教授)に尋ねた。
Interopはインターネット技術の発展を支える場
「Interopはその名が示す通り、『Interoperability』、つまり相互運用性を検証する場としてスタートしました」と村井氏は振り返る。インターネットで使われるプロトコルの標準化においては、「デジュール標準」(注:公的機関などによって、トップダウン式で定められる標準)とは異なり、「ラフコンセンサス」と「ランニングコード」、つまりラフに仕様を策定し、それを実運用を通じて改善していくことがポイントになる。この「実際に動くのかどうか」を検証するためには、ルーターやスイッチ、サーバ、サービスなどを持ち寄り、相互に接続できる場が必要であり、それがInteropだというわけだ。
「IETF(Internet Engineering Task Force)で標準化されたプロトコルを複数の人が実装し、実際につなげてみてうまくいくかどうかを検証することで初めて『本当の標準』として認められます。皆が機器を持ち寄り、試しにつないで仕様を検証するというプロセスは、ネットワーキングにおいて非常に重要です。その意味でInteropは、インターネット技術の発展における極めて本質的な場所だといえるでしょう」(村井氏)
中でもその特徴が強く打ち出されているのが、会場内に張り巡らされるデモンストレーションネットワーク「ShowNet」だろう。出展各社のインフラとして活用されるとともに、それ自体が「一歩先のネットワークの姿」を具現化した展示にもなっている。このShowNetを構築するために、市場では競合関係にあるベンダーの技術者たちが機器を持ち寄り、IPv6やIPマルチキャスト、無線LAN、そして近年ではセキュリティ運用やSDI/NFVといった、その時々の旬の技術を披露している。
インターネットの広がりに応じて、横にも縦にも拡大してきたInterop
こうした相互検証の場を通じて鍛えられた技術が市場に還元され、IPをベースとしたネットワークが拡大するにつれ、検証すべき領域も広がってきている。村井氏は、世界各国で開催されてきたInteropの中でも「Interop Tokyo」は、その意味で“やや特別”だと言う。村井氏はそれを「面としての広がりと上下の広がり」という言葉で表現する。
インターネットの境界領域はどんどん取り込んでいく
「これまで、インターネットを活用した新しい機器や新しいサービスがどんどん生まれてきましたが、これらもまた相互運用性が求められます。日本のInteropは、そうしたものまで取り込んできたところに特徴があります。インターネットの境界領域はどんどん取り込もうというのが基本的なポリシーで、『サイネージ』がインターネットに乗るようになればそれを扱うし、『モバイル』や『位置情報』が重要ならばそれも取り込む……、こうすることで、会場に来る人は、今これから生まれつつある新しい世界に触れられますし、新分野同士のハイブリッドによる、新しい分野の創造も期待できます」(村井氏)
こうしたポリシーの下、近年の「Interop Tokyo」では、ネットワーク技術だけでなく、それを活用したさまざまなビジネスに特化したイベントも併催するようになっている。デジタルサイネージに特化した「デジタルサイネージ ジャパン」や、位置情報の活用にフォーカスを当てた「ロケーションビジネス ジャパン」などがその例だ。
ハードウェアからサービスまでに至る“縦”の広がりにも注目する
これらはいわば“横”の広がりだが、同時に“縦”の広がりも重要なポイントだと村井氏は述べる。
「インターネットを活用したビジネスの領域が広がるとともに、ハードウェアからアプリケーション、サービスに至るまでの“縦”の技術も発展しています。例えば、『IPマルチキャストを活用した動画送信』は、ビジネスとしては“横”の展開になりますが、技術として見た場合には、『高品質な動画や音声を送出するときに、どの程度のトラフィックを処理し、ネットワークアーキテクチャをどのように最適化すべきか』といったように各レイヤーの技術の”縦”の連携が重要になります」(村井氏)
この数年、Interop Tokyoの会場で存在感を増しているSDNやNFVも、その観点から注目されている技術だ。IoTの世界で「1バイトのデータをどう処理するか」といった議論が行われる一方で、「4K/8K放送」の世界では「画像を非圧縮で送信する実験」なども行われている。「さまざまな通信が同居するネットワークにおいて、リソースを最適化し、有効活用する上で、SDNやNFVといった技術が果たす役割は大きいでしょう」(同氏)。
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