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Deep Learningが人工知能の裾野を拡大。ビジネス、社会、エンジニアはどう変わるのか?特集:「人工知能」入門(1)

「アクションを起こすスピード」「イノベーティブな製品・サービス」が企業競争力の源泉になりつつある中で、人工知能が今あらためて大きな注目を集めている。では、人工知能とはどのようなもので、どのようなインパクトをもたらすのか? 事例やインタビューを通じて明らかにする。

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ビッグデータ/IoT、FinTechトレンドの中、再び注目されている人工知能

 近年、激しい市場環境変化の中で、ビジネス展開の「スピード」が差別化の一大要件となっている。また企業・個人を問わずニーズが多様化している今、従来のように「顕在ニーズを見定めて、時間をかけて製品・サービスを開発・リリースするやり方」だけではニーズに対応することも難しくなった。FinTechトレンドで顕著なように、大量データから潜在・顕在ニーズを掘り起こし、“これまで全く存在しなかったようなイノベーティブな製品・サービス”を迅速にリリースするアプローチの重要性は年々増している。

 一方で、2011年ごろからのビッグデータトレンドも本格化し、分析テクノロジも進展した。これに伴い、現実世界のあらゆるデータを分析し、製造機器の故障予測、自動車の自動運転など、“大量データから得た知見を現実世界の有益なアクションに変える”IoTの取り組みも多様な分野で進んでいる。

 こうした潮流と並行して、いま再び社会一般の大きな注目を集めているのが「人工知能」だ。周知の通り、人工知能研究は1950年代に第一次ブーム、1980年代に第二次ブームを迎え、現在は第三次ブームといわれている。

 特に2011年、質疑応答システムを搭載したIBM「Watson」が、米国のクイズ番組「Jeopardy」で、人間のクイズチャンピオンに勝利したことがブームの火付け役となった。1956年、ジョン・マッカーシー教授が「人工知能」という言葉を作った当時から概念は存在してきたが、具体的にどのようなことができるのか、テクノロジの進化が驚きと分かりやすさをもって、世間一般にその可能性を広く示してくれたわけだ。

今議論されている「人工知能」とは

 以来、人工知能は各種メディアで盛んに取り上げられるようになった。だが、ここで気を付けるべきは、「コンピュータが意識を持ち、人を凌駕してしまう」といった、ある種のホラーストーリーも同時に喧伝されるようになったことだろう。

 人工知能とは、一言で言えば「人間のような知能を持ち、人と同様のことができる」ものだ。だが、人間同様の知能や意識を持つ「強いAI」と、人間の知能の一部を代替させる「弱いAI」の2種類がある。これはカリフォルニア大学バークリー校の哲学者、ジョン・サール氏によって生み出された言葉だが、昨今の人工知能ブームは、この分類が曖昧なまま議論されている傾向も強い。言うまでもなく、IBM Watsonも含めていま注目を集め、実用化に向けた研究が進んできたのは「弱いAI」だ。具体的には、推論、探索、学習、自然言語処理といった各種技術を使って、人の能力を補佐するものという位置付けとなる。

 ではなぜ二度のブームを経て、今またブームが訪れているのか。その背景にあるのは、前述した大量データの蓄積・リアルタイム処理を可能にしたビッグデータ/クラウド関連テクノロジの発展と、「学習」技術の進化だ。

 中でも、さまざまなデータの特徴を学習することでパターンを認識し、そのパターンを基に新たなデータに対して将来を予測する「機械学習」と、人の脳内の神経回路網と処理プロセスを模倣した「ニューラルネットワーク」と呼ぶ技術を多層的に組み合わせることで、高精度な画像認識、音声認識などを実現する「Deep Learning」がトレンドをけん引している。

 特に注目を集めているのが、スピードや精度面での“機械学習のボトルネック”を解消したDeep Learningの仕組みだ。

 機械学習では、まず人間がデータに見られる「特徴的な量」(例えば画像データなら面積や長さなどの値)を抽出し、それを機械に学習させることで、さまざまなデータに対して将来を予測する仕組みを採る。一方、Deep Learningでは、そうした「特徴量の抽出」もコンピュータが自動的に行う。

 人手による特徴量の抽出には高度な専門スキルが必要な上、時間もかかってしまう。また人手による以上、抽出は属人化し、抽出の仕方によって分析精度が左右されてしまうという課題があった。だがこれを自動的に行うことによって、スキルやスピード・精度といった問題が大幅に解消され、一般企業におけるビジネス活用への可能性が大きく開けてきたわけだ。

参考リンク:いまさら聞けないDeep Learning超入門(1)(@IT)

 とりわけ2012年、画像セットを用いた画像識別コンペティション「ImageNet」でトロント大学のジェフリー・ヒントン教授がDeep Learningを使って2位を大きく引き離す精度を記録したことが世界中の関心を集める大きなきっかけとなった。以降、グーグル、フェイスブックなど、多くの企業がその可能性に注目し、実際に成果を上げ始めている。

参考リンク:グーグルの人工知能を利用できるWebインターフェースが登場(@IT)

人工知能はビジネス、社会をどう変えるのか?

 そして現在、われわれに身近なところでも人工知能の活用が始まりつつある。自動運転技術はその代表的なものだろう。自動車に限らず「機器の制御」に人工知能を使うことで、製造業の可能性は大きく広がると目されている。店舗やモールで人流を分析し、その予測結果を商品の仕入れ・配置などに生かすことで収益を伸ばすなど、流通・小売りにおいてもオムニチャネル戦略の一環として、すでに複数社で取り組みが始まっている。その他、コールセンター業務を自動化する「バーチャルオペレータ」、農作物の色などから生育状況を判断し、最適な量の肥料をドローンで自動的に散布する「精密農業」などもよく話題に上るところだろう。

 特に冒頭で述べたIoTやFinTechトレンドにおいては、ニーズが多様化している中で、スピーディにイノベーティブな製品・サービスを開発する、短いスパンでトライ&エラーを繰り返し製品・サービスを改善する、といった取り組みが求められる。人工知能は、このようないわば“何が当たるか分からない”中で、効率的に“当たる”製品・サービスを開発する上でも、大きな力を発揮することだろう。

 各種調査もこうした期待を裏付けている。例えば、EY総合研究所の調べによると、人工知能関連の国内市場規模は、製造、建設、卸・小売り、金融、運輸など各業種で投資が進み、2020年には23兆638億円、2030年には86兆9620億円になると予測されている。

参考リンク:人工知能が経営にもたらす「創造」と「破壊」(EY総合研究所)

 ガートナー ジャパンが2016年4月に発表した「日本における『人工知能』に関する意識調査」も目を引く。調査によると「仕事をサポートする」「仕事を奪う」など、「10年以内に人工知能による仕事への何らかの影響がある」と54.6%が回答。「人工知能に関するスキル獲得の意向」については、41.3%が「獲得したい」と答えたという。同社では、これを「多くの人が人工知能による将来への影響を自分たちの問題として捉え始めている」と分析するが、事実、人工知能によるビジネスインパクトは、社会構造、業界構造も変え得るほどの力と可能性を秘めている。

参考リンク:日本における「人工知能」に関する意識調査(ガートナー ジャパン)

 では具体的に、人工知能はわれわれの毎日をどう変えていくのだろうか?――本特集「人工知能入門」では、“ビジネスにおける人工知能の可能性”を見据え、活用事例や専門家へのインタビューなどを通じて、人工知能の今とこれからを明らかにする。また、エンタープライズITに従事するエンジニアにはこれから何が求められるのか、“人工知能時代”のエンジニアの役割についても考えていく。ぜひ参考にしてほしい。

特集:「人工知能」入門 〜今考えるべき、ビジネス差別化/社会改善のアーキテクチャ〜

競争が激しい現在、ビジネス展開の「スピード」が差別化の一大要件となっている。「膨大なデータから、顕在・潜在ニーズをスピーディに読み解く」「プラント設備の稼働データから、故障を予測・検知して自動的に対策を打つ」「コールセンターの顧客対応を自動化する」など、あらゆるフィールドで「アクションのスピードと品質」が競争力の源泉になりつつある。こうした中で注目を集めている「人工知能」――人には実現できないスピードで膨大なデータを読み解き、「ビジネスの差別化/社会インフラの改善」を支援するものとして、今さまざまな分野で活用の検討が進んでいる。こうした動きは、ビジネス、社会をどのように変え、エンジニアには何を求めてくるのだろうか? 人工知能のインパクトを、さまざまな角度からレポートする。



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