@IT読者調査に見る、ソフトウェアレビューの“現実”:約3割が「ソフトウェアレビューの方針やガイドラインがない」
ソフトウェア開発の「スピードと品質」がビジネスの差別化を支える要点となっていながら、スピードや納期を重視するあまり、品質担保の取り組みが手薄になりがちな傾向もあるようだ。@IT読者調査から、ソフトウェアレビューの現状を紹介する。
今あらためて問われる、ソフトウェア開発の「スピードと品質」
ほとんどのビジネスをITが支えている今、企業におけるソフトウェアの重要性は年々増している。特に昨今のIoT、FinTechトレンドでも顕著なように、利便性の高いITサービスを開発・リリースする「スピード」が、差別化の一大要件となっている。
これに伴い、「品質」にも一層高いレベルが求められている。いかにスピーディに新しいサービスを開発しようと、機能やセキュリティ面などに問題があれば、そのスピードでビジネスを棄損し、収益低下、社会的信頼の失墜を招いてしまう。ソフトウェアがビジネスを支え、場合によっては、クラウド市場に進出したGE(ゼネラル・エレクトリック)のように異業種への道を切り開くこともある今、以前から叫ばれてきた「いかにスピードと品質を両立するか」というテーマは「いかに差別化するか」というテーマと同義と言っても過言ではないだろう。
だが現実には、スピードや納期が重視されるあまり、「品質担保」の取り組みが手薄になりがちな例も少なくない。例えば「スピードと品質」を支える取り組みの一環であるソフトウェアレビューも、その内容が形骸化している傾向が強いようだ――本稿では、2016年3月8〜14日、@IT編集部が実施した「ソフトウェアレビューに関する読者調査」の一部から、“品質担保の現状”の一側面をお伝えする。
読者調査の実施方法
調査方法:Webサイト上の自記式アンケート
調査告知媒体:「@IT通信Special」購読者へのオプトインメール(13万759通)
調査対象者:仕事でソフトウェア開発に携わるITプロフェッショナル
調査期間:2016年3月8〜14日
回答数:736件
調査実施機関:@IT編集部
品質担保の一環、ソフトウェアレビュー実施の現状とは?
まず「ソフトウェアを開発する際にレビュー(作成した成果物の問題点を発見する作業/その承認作業)を実施していますか?」という問いには、51.3%が「必ず実施している」と回答。しかし「必須ではないが、なるべく実施している」「余裕のあるときは実施している」など、必ずしも実施していない傾向が明らかになった。
「日ごろ行っているレビューは、ソフトウェアの品質向上にどの程度役立っていると思いますか?」という問いに対しても、「たいへん役立っている」が19.8%、「ある程度は役立っている」が69.8%と、その有用性は大方が認識している。
しかし、「レビューの目的設定と完了判断をどのように実施していますか? もっとも当てはまるものを一つお選びください」という問いに対しては、「明確な目的・基準がある」と答えたのは全体の27%。22%を記録した「レビューアー同士で検出すべき欠陥のタイプを合意し、その達成を完了基準としている」という回答や、「レビュー対象に対して、指摘が無くなるまで実施」といったフリーコメントも気になるところだ。
レビューの最終目的は、早い段階で問題・欠陥を発見することによる「修正工数の削減」と、それによるコスト低減にある。「どんな問題を重点的に検出するか」といった『目的』と、「何を、どのような方法で確認するか」という『検出シナリオ』を定めておくことが、効果的・効率的な実施のポイントとなる。また、個々人のスキル・知見によって、検出できる問題も異なる。その意味でも目的を定めておけば、目的に最適なメンバーを招集することができる。しかしこれらを明確化できていなければ、レビューの時間、工数、人的コストが増大するばかりで、期待する効果を得られないことになりがちだ。
参考リンク:レビューで失敗しない8つのポイント(@IT)
その点、「レビューを行う際の問題点・課題があれば、いくつでもお選びください」という問いに対し、「時間がかかる/効率が悪い」と感じている人が全体の62.5%、「レビュー参加メンバーのスキルレベルが不揃い」が48.0%を記録したことも、「目的」を設定できてない状況を裏付けていると言えるだろう。
参考リンク:設計レビューに私情を持ち込んでいませんか?(@IT)
「レビューにおける欠陥検出の方針やガイドラインについてもっとも近い物を一つお選びください」という問いについては、「方針やガイドラインはない」が最多で29.8%。「標準のチェックリストやレビューシナリオは存在するが、使われていない」が3.8%を記録。「標準のチェックリストやレビューシナリオをテーラリングして利用している」と、組織として明確な方針があり、目的に応じて最適化しているケースは17.1%にとどまった。
ただ「お勤め先でのレビューでは、ミーティングにかかる時間に見合う効果が得られていますか?」という問いに対して、「効果がある」と答えた人が21.9%、「効果はあるが時間を短くできる余地がある」が75.4%と、レビューを実施している企業では、その大方がレビューの有効性を認めるとともに、課題も明確に認識していることが分かった。
ソフトウェアがビジネスを支え、重要な顧客接点ともなっている今、多方面で指摘されている「全ての企業がソフトウェア企業になる」という言葉は決して大げさではないはずだ。多忙な日々の中、これまでのやり方を変えることは決して簡単ではないが、あらためて自社のビジネス品質=ソフトウェア品質の作り方を見直してみてはいかがだろう。
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