日本の存亡を懸けた政府のIoT戦略。要は「セキュリティ」にあり:ものになるモノ、ならないモノ(72)(2/2 ページ)
IoT時代を見据えた政府の“戦略”とは何か。内閣サイバーセキュリティセンター担当者へのインタビューに探る。
IoTセキュリティのあるべき方向性を指し示す
あらゆる“モノ”がネットに接続するIoTでは、つながる“モノ”が増えるに従い不正アクセスなどの脅威も比例して増大する。その危険度は、現状のITどころの話ではないともいわれる。さらに、広義のIoTの世界となると、「“モノ”の数が増えるからリスク要因の数も増える」という単純な話では済まなくなる。
IoTシステムが相互に接続するということは、1つのIoTシステムがハッキングされるようなことがあれば、そこから芋づる式に他のIoTシステムにも脅威が波及することを意味する。従って、モノの増加に比例して危険度が増大するだけでなく、相互接続の世界では、システムやサービスのつながりが複雑化することで、危険度も幾何級数的に増大する。
さらにIoTシステムのセキュリティがやっかいなのは、サーバ、PC、スマートフォンといった、ある意味で同種のコンピューティングデバイスが接続しているインターネットとは異なり、異種のデバイスが「モノ」として混然一体となって接続される点だ。
例えば、医療機器と自動車では、技術者の考え方や設計思想も異なれば、法令など製品として満たすべきレギュレーションも異なる。当然ながら、システム運用の方法や求められるセキュリティ水準も異なる。こうした例を考えるだけでも、異種分野が相互接続する場合のセキュリティ要件の複雑さは想像に難くない。
このように設計思想などが異なる技術者や組織同士が議論を行うためには、「これだけは守ってほしい」という最低限の方向性を指し示す必要がある。前置きが長くなったが、三角氏は「IoTセキュリティのための一般的枠組(案)は、こうした方向性を構築するためのコンセプトを示したものだと思ってほしい」と明かす。
今後IoTがさらに普及すれば、分野ごとにIoTセキュリティについて活発な議論が行われ、ルールや技術的な要件が決められていくだろう。その際に、「この枠組みにある考え方や基本原則を踏まえた上で議論してほしい」(三角氏)ということなのだ。土台となる考え方が統一されていれば、異なる分野の者が同じテーブルに着いた場合にも、議論の混迷を最小限に抑えることができる。
IoTセキュリティに関する国際標準策定の中心的存在として世界をリードする
「『IoT』や『ビッグデータ』の活用に日本の存亡が懸かっている」というのは言い過ぎだろうか? だが、「崖っぷち」「地盤沈下」「衰退」など、昨今の日本経済を語る際に添えられる言葉には、どれも悲壮感が漂っている。
実際、これまでの「ものづくり」の延長線上を突き進んでいるだけでは、日本経済はほぼ間違いなく、泥船のごとく沈んでいくだろう。経済のエンジンを最大限に吹かし、欧米のライバルたちや追い上げ著しい新興国と渡り合うには、伝統的な産業分野ではなく、IoTやビッグデータ、人工知能(AI)、ロボットといった新領域で主導権を握る他ないのは明らかだ。
中でも世界のIoT市場は、2020年には1.7兆ドルに達すると予測されており、「平成27年版 情報通信白書」によれば、その先には、「『IoE(Internet of Everything)』(ヒト・モノ・データ・プロセスを結び付け、これまで以上に密接で価値あるつながりを生みだすもの)」の到来もあるという。世界中のプレイヤーたちがその市場を虎視眈々と狙っている中で、日本がこれまで培ってきた高品質な製品やサービス要求に応える能力を最大限生かして、IoTセキュリティの国際標準策定の中心的な存在として世界をリードすることができれば、日本経済も大きく躍進するだろう。
今回の枠組みはその第一歩を踏み出したものだ。この文書は英語にも翻訳されており、「海外からも好意的なコメントが寄せられ、多くの賛同を得ている」(三角氏)という(なお、パブリックコメントは既に締め切られ、現在取りまとめ中)。
狭義のIoTシステムが相互に接続され、広義のIoTシステムが形成される様は、インターネットの創世記に似ている。IoTをインターネット級のパラダイムシフトと捉える向きもあるが、「IoTセキュリティのための一般的枠組み(案)」に示された「セキュリティ戦略」にのっとって構築された日本発のIoTシステムが、世界中で認められる日が来ることを願ってやまない。
著者紹介
山崎潤一郎
長く音楽制作業を営む傍ら、インターネットが一般に普及し始めた90年代前半から現在に至るまで、IT分野のライターとして数々の媒体に執筆を続けている。取材、自己体験、幅広い人脈などを通じて得たディープな情報を基にした記事には定評がある。著書多数。ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Combo Organ Model V」「Alina String Ensemble」の開発者であると同時に演奏者でもあり、楽器アプリ奏者としてテレビ出演の経験もある。音楽趣味はプログレ。
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