FinTechにおけるロボット/人工知能の活用事例――集客、接客、資産運用アドバイス、ファンドマネージャ:ロボットをビジネスに生かすAI技術(6)(1/2 ページ)
Pepperや自動運転車などの登場で、エンジニアではない一般の人にも身近になりつつある「ロボット」。ロボットには「人工知能/AI」を中心にさまざまなソフトウェア技術が使われている。本連載では、ソフトウェアとしてのロボットについて、基本的な用語からビジネスへの応用までを解説していく。今回は、FinTechにおける活用事例として、みずほ銀行や三菱東京UFJ銀行などでの取り組みを紹介する。
書籍の中から有用な技術情報をピックアップして紹介する本シリーズ。今回は、秀和システム発行の書籍『図解入門 最新 人工知能がよーくわかる本(2016年7月4日発行)』からの抜粋です。
ご注意:本稿は、著者及び出版社の許可を得て、そのまま転載したものです。このため用字用語の統一ルールなどは@ITのそれとは一致しません。あらかじめご了承ください。
※編集部注:前回記事「人工知能を搭載したコミュニケーションロボット、スマホアプリの事例――コンシェルジュ、会話アプリ」はこちら
フィンテックとAI活用
金融とIT技術を組み合わせた「フィンテック」分野も、AIの活用が期待されています。ここでは、その初期的な取り組みの例として、みずほ銀行のフィンテックコーナーや、ロボアドバイザーによる資産運用、三菱東京UFJ銀行が描く「Watsonとロボットによる未来の接客」、また、コンピュータによるファンドマネージャなどを紹介しましょう。
みずほ銀行のフィンテックコーナーにロボット+AIが登場
2016年5月、みずほ銀行は東京八重洲口にある鉄鋼ビルに新たな支店をオープンしました。「未来の店舗がここからはじまる。」というコピーのもと、ビデオ会議システムを完備した個室で構成されるコンサルティングコーナーやロボットやAI、デジタルサイネージを活用したフィンテックコーナーなど、IT技術を斬新に取り入れた試みが導入されています。
金融や投資関連のニュースや雑誌では「フィンテック」(FinTech)という言葉を頻繁に目にするようになりました。フィンテックは「Finance」(金融)と「Technology」(技術)を組み合わせた造語です(和製英語ではありません)。IT技術を駆使した新しい金融サービスや革新的な技術をそう呼びます。日本語では「金融IT」「金融テクノロジー」などと訳されます。
フィンテックの領域はとても広く、スマートフォンなどを使ったモバイル決済や小口送金、電子マネー、電子家計簿や電子通帳など、既に実用化がはじまっているものから、ビッグデータを活用した資産運用、人工知能を活用した為替や株価、金や原油価格等の市場動向予測、株やFXなどの自動取引、融資や貸し付け、消費者金融など、さまざまなシーンで利用されはじめています。
また、電話応対やマーケティング、不正調査などの作業をAI技術やロボットで自動化する場合も、金融関連企業や機関、銀行向けの場合はフィンテックに含めることも多くあります。
みずほ銀行が新しい八重洲支店に導入したフィンテックコーナーは、導入ということもあって堅実なもので、パートナー企業のIT技術をデモ展示したかのような内容です。
フィンテックコーナーにはみずほ銀行のコーポレイトカラー訴求のためのコスチュームを着用したソフトバンクロボティクスのロボット「Pepper」が中央に設置され、巨大なサイネージ(ディスプレイ)による告知も目を引きます。人の身長より大きなデジタル情報スタンド「PONTANA」(ポンタナ)のディスプレイにはたくさんのカタログが並んでいて、選択するとユーザのスマートフォンやタブレットにカタログがダウンロードされるしくみです。電子化したカタログの配布と、電車移動時などにも気軽に読んでもらえるようにという期待からです。その他、光を使ってスマホのカメラに情報を送り、指定のホームページを表示させるなど、体験型の内容となっています。
八重洲支店には2台のPepperが配置されていますが、1台は待合コーナーで「おみくじ」や「保険の案内」をしています。もう1台がフィンテックコーナーのPepperです。こちらのPepperにはIBM Watsonが接続されていて、今後のロボット+AI技術活用の布石となっています。ただし、機能的には「はじめの一歩」として限定されたもので、Pepperはロト6やロト7などの宝くじの案内のみをします。IBM Watsonの技術としては顧客とのスムーズな自然会話、宝くじに関する質問に対して情報を検索して適切な回答を返すところで先進性を発揮しています。
報道関係者向け内覧会でPepperは「宝くじの歴史を教えて」「今週のキャリーオーバーはいくら?」「宝くじに当たるコツは?」などの質問に答えていました。IBM Watsonらしさは、いろいろな言い回しに対してきちんと回答を返していたことと、周囲からの雑音を会話分析ではきちんと雑音として処理し、主題を読み取る高い精度にあらわれています。ただし、ロボットの人との会話はスマートフォンより距離が遠いため、音声を集音する技術が十分ではありません。そのため、フィンテックのPepperにも外付けで指向性の高いマイクが別途装着してありますが、それでもまだ十分とは言えません。この課題を克服するとともに、今後は宝くじ情報に限らず、株価や為替、市場動向などの情報を交えた雑談などへ拡がることが期待されています。
ロボアドバイザーで資産運用
みずほ銀行のPepper+AIの用途はまだ限定的ですが、フィンテック全般で見るとAI関連技術の導入には大きな期待が高まっています。それは、株価や為替など、市場からリアルタイムで次々に入ってくる膨大なビッグデータをいかに迅速かつ的確に分析したり、人間では見過ごしがちな重要な変化を発見したり、膨大な情報から明日の市況を予測したりするなど、AIだからこそできる領域が一気に増えてきたからです。
また、個人資産の運用提案をコンピュータが行う「ロボアドバイザー」に欧米では注目が集まっています。コンピュータが個人に合ったポートフォリオを自動作成したり、海外投資を含めて資産運用を一任したりするオンラインサービスです。
2014年末の記事ではありますが、ブルームバーグの報道によれば、スイスの金融グループUBSは「デジタル化について言えば、銀行は最も初歩的な段階にある業界のひとつであり、eBayやAmazon、あらゆる分野でデジタル化が進行しているのと同様にわれわれの顧客にもいかにそれらの情報を個別に提供するかが課題になる」とCOOのコメントを紹介しています。
その記事では、UBSはシンガポールのIT企業スクリーム・テクノロジーズと組み、顧客のニーズに応じた個別の金融情報をスマートフォンやタブレット等のデジタル端末に送信するシステムを構築する計画があるとしています。スクリーム・テクノロジーズはシンガポール在住の約600万人について、美容や食事、旅行などの趣味嗜好、野心や人生観などの行動パターン8500万種類からなる分析システムを持ち、富裕層に向けたパーソナライズされた資産運用のアドバイスがAI技術によって可能になると見られています。
みずほ証券の「SMART FOLIO」(スマートフォリオ)、マネックス証券の運用支援アプリ「アンサー」や、投資顧問会社「お金のデザイン」が独自開発のアルゴリズムで提供する「THEO」(テオ)などもこの一部と言えるでしょう。
また、東大発のフィンテック・ベンチャー企業Finatextが三菱東京UFJ銀行と共同開発した、投資信託選びのためのスマートフォンアプリ「Fundect」でも、ロボアドバイザーエンジンが搭載されていることが話題になりました。Finatextは、初心者からプロまで楽しめる株当て&トークアプリ「あすかぶ!」やFXアプリ「かるFX」、投信選びをサポートするアプリ「Fundect」、投資信託のデータベース「AssetArrow」などの運営でも知られています。
フィンテックによるIT技術には多額の開発資金が必要なので、大手銀行系や大手証券系の企業が有利かと思いきや、そうとも言い切れません。大手銀行系もITの強化を急速に進めてきましたが、たくさんの支店を持ち、フェイス・トゥ・フェイスの業務がまだまだ中心であり、それが強みでもあります。
一方、新興の競合企業にとって、ネットとIT技術によって飛躍的に革新する可能性を持っているフィンテックは、絶好のビジネスチャンスです。その意味では、大手銀行系や大手証券系の企業の中にはGoogleやAmazonまでも次世代の競合として意識しはじめているところもあります。そのため、ある種の危機感を持ち、緊急命題としてロボットやフィンテックの導入、AI技術の活用を競って導入している背景があります。
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