イーサネット:Tech Basics/Keyword(2/2 ページ)
無線LAN全盛とはいえ、オフィスでは有線ネットワークの「イーサネット」がまだまだ多用されている。その種類や速度、動作原理は? 40年以上の歴史を振り返りつつ解説。
イーサネットの高速化
最初のイーサネットは10Mbit/sの速度しかなかったが、サーバルームやデータセンター、基幹ネットワークなどにおける用途を考えると、常に高速化が求められている。
●100BASE:10倍速い100Mbit/sイーサネット
最初に制定された高速化規格は、10BASE-x(xの部分には通信ケーブルの種類を表す文字が入る)を10倍高速化して100Mbit/sを実現する100BASE-xであった。ただし信号の送信速度を10倍にするだけだとパケットの送信時間が10分の1になるため、コリジョンを正しく検出できなくなる。
そこで100BASE-xではコリジョンドメインのサイズをほぼ10分の1に制限することにした。例えばツイストペアケーブルを使う100BASE-TXなら最大長100mまでに制限している。100mでも一般的なローカルネットワーク用途には十分である。もっと大きなネットワークにしたければ、ブリッジやスイッチ、ルータなどで中継すればよい。
●1000BASE:100倍速い1Gbit/sイーサネット
その次は、さらに10倍高速なギガビットイーサネット(1000BASE-x、GbE)が規格化されたが、ここでは別のアプローチが採用された。ケーブル長をさらに10分の1にする方法では利用できるケーブルが短くなりすぎ、配線などが困難になるからだ。
そこで1000BASE-xでは新たに「キャリアエクステンション」という方法を採用している。これは、最小パケットサイズは64bytesのまま変えないが、代わりに、パケット長が最小でも512bytesになるように、ダミーの信号(キャリア:搬送波)を付け加えて送信するという方式である。これにより、パケットの送信に要する最小時間を維持したまま(つまり同じコリジョンドメインサイズを維持したまま)、高速化を実現している。
とはいえ、これでは無駄が多いので、さらに「フレームバースト」という手法も用意している。これは、短いパケットが連続する場合に、連続して送信を許可する方式である。通常は、複数のパケットを送信する場合は、いったんバスの送信権を解放しなければならないが、連続送信できれば効率がよくなる。
ギガビット以降の高速化ではCSMA/CDと決別
イーサネットの高速化に対する要求は常に存在しているが、CSMA/CD方式を使う限り、コリジョンドメインの問題は避けて通れない。10BASE/100BASE/1000BASEのネットワークと相互接続するためには、送信中に発生した衝突を正しく伝播させなければならないからだ。
だがツイストペアケーブルや光ファイバーを使ったイーサネットでは、L2スイッチを使ったスター型トポロジーで全二重通信が使われており、そもそも衝突が発生しないようになっている。
そこでギガビット以降の高速化では、スイッチを使ったスター型のネットワークを必須とすることにした。スイッチのポートごとに自由に速度や通信媒体、通信方式などを設定できるようになる。現在では用途などに応じて、さまざまな高速化規格が提案され、規格化されている。
名称 | 速度 | 規格 | 備考 |
---|---|---|---|
10BASE5 | 10Mbit/s | IEEE 802.3 | Thick Ethernet。最初に制定されたイーサネット規格 |
10BASE-T | 10Mbit/s | IEEE 802.3i | ツイストペアケーブルを使う10BASE |
100BASE-TX | 100Mbit/s | IEEE 802.3u | 2対4芯のツイストペアケーブルを使う100BASE規格 |
1000BASE-T | 1Gbit/s | IEEE 802.3ab | ギガビットイーサネット、GbEとも。4対8芯のツイストペアケーブルを使う1000BASE規格 |
2.5GBASE-T | 2.5Gbit/s | IEEE 802.3bz | 1000BASEでは帯域が不足するが、10GBASEよりも導入コストを抑えたいといった用途向け(高速無線LANアクセスポイントなどを想定)。既存のCAT5eのケーブルを利用可能 |
5GBASE-T | 5Gbit/s | IEEE 802.3bz | 同上。既存のCAT6のケーブルを利用可能 |
10GBASE-T | 10Gbit/s | IEEE 802.3an | CAT5のケーブルだと最大長が55mに制限されるが、CAT6以上だと、より長い距離に対応 |
25GBASE-T | 25Gbit/s | IEEE 802.3by | 主にデータセンター向け |
40GBASE-T | 40Gbit/s | IEEE 802.3bq | 主にデータセンター向け |
50GBASE-x | 50Gbit/s | IEEE 802.3cd | 主にデータセンター向け |
100GBASE-x | 100Gbit/s | IEEE 802.3bj/ IEEE 802.3ba |
主にデータセンター向け |
Terabit Ethernet | 100Gbit/s以上 | − | 100Gbit/s以上を目指す規格として、200Gbit/sや400Gbit/sが現在開発中 |
現在規格化・提案されている主なイーサネット規格 現在規格化されているイーサネットの規格のうち、主にツイストペアケーブルを使うものを速度別に列挙してみた。規格名の末尾にある「-T」はツイストペアケーブルを表す。他に光ファイバーや銅線を使う規格もあり、より長い距離で利用することができる。 |
イーサネット関連規格
高速化以外にも、さまざまなイーサネットの拡張規格が制定されている。
●Power over Ethernet(PoE)
イーサネットの通信に利用されているツイストペアケーブルを使って、機器駆動用の電力も同時に供給するための規格。イーサネットを接続するだけで機器への電力供給も行えるため、機器の設置が簡単になる。
●ジャンボフレーム
イーサネットのフレームサイズを拡大して、送信できるデータサイズの上限を1500bytesから数KBにまで増加させる技術。一度に送信できるデータ量が増えるので、システムによっては通信の効率が向上する。ただしジャンボフレームは正式なイーサネットの規格ではなく、運用上の問題を引き起こすことも少なくない。詳細は以下の記事参照。
イーサネットが開発されてから40年以上が経過した(参考:「Ethernet History」サイト)。開発当初は10Mbit/s(実験段階では2.94Mbit/s)しかなかった通信速度も、現在では1000倍以上高速化されている。イーサネット以外にも多くのネットワーク技術があるが、以前の規格との互換性を最大限に維持しながら、これほど高速化され、普及したものはイーサネットをおいて他にない。今後もその重要性は変わることはないだろう。
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