建設業のAR活用はどう進むのか――日本マイクロソフトと小柳建設がHoloLens活用で協業:建設業に問われる事業の透明性の確保
日本マイクロソフトと小柳建設が、建設業の「Microsoft HoloLens」活用に関して、協業を発表した。3つのコンセプトを基にプロジェクトを進めているという。
建設業のAR(Augmented Reality:拡張現実)活用はどう進むのか──。新潟県の建築業 小柳建設は2017年4月20日、AR用ヘッドマウントディスプレイ「Microsoft HoloLens」を活用したビジネス開発プロジェクト「Holostruction」において日本マイクロソフトとの協業を発表した。Holostructionは、業務効率化や事業と業務における透明性の確保など、建設業界が抱えるさまざまな課題を、HoloLensとその技術を活用して解決することを目指すプロジェクト。同プロジェクトは日本マイクロソフトだけでなく、米マイクロソフトも協力しているという。
小柳建設は、下記の3つのコンセプトを基にHolostructionを進めており、将来的に実用化を目指すという。
- 事業の透明性の確保
- BIM(Building Information Modeling)/CIM(Construction Information Modeling)データの活用
- 新しいコミュニケーションアイデアの試行
併せて、建設現場でのIT活用や施工時期の標準化などで生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す、政府推進の取り組み「i-Construction」も後押ししていく考えだ。
HoloLensは建設業においてどのような使い方が考えられるのだろうか。Holostructionのコンセプトについて、小柳建設 代表取締役社長の小柳卓蔵氏が説明した。
「事業の透明性の確保」をHoloLensでどう行うのか
建設業は、過去には耐震偽装や施工データ流用など、社会問題にまで発展した問題があったことから、ことさら事業の透明性を確保することが求められている業界だと小柳氏は述べる。そこで小柳建設は、建造物や材料、資材、作業者の行動に至るまで全てのデータを共有できる仕組みを開発し、施工や検査、メンテナンス、修繕計画まで、全て発注者に“見せられる”透明性確保の仕組みを整えた。例えば、施工計画と建造物の3Dデータを組み合わせることで、施工計画のある段階での建築物の様子を確認できる(図1)。
さらに、計画修正や設計変更による履歴や見積もりについても一元管理し、即時対応できる仕組みを目指すという。
BIM/CIMデータの活用
小柳建設は、BIM/CIMデータを活用して、工程検査に必要な情報を3Dの設計図と一緒に格納し、必要なときにすぐに確認できる仕組みを開発しているという。BIM/CIMとは、建築物の設計段階で3Dデータを作成し、そこにコストや管理情報などの属性データを追加したデータベースを、建築物の設計や施工、維持管理までの工程で活用する仕組みだ。これより、検査員が実際に現地へ出向かなくても、HoloLensで見るARの画像で現地へ出向いた場合と同様の検査が行えるようになるという(図2)。「将来的には、3D映像だけで検査ができるようにしたい」と小柳氏は語る。
他業界と同様に、建設業も日本の少子高齢化と労働人口の減少によって、労働力不足が喫緊の課題となっている。HoloLensによって検査員の負担を減らし、かつ労働力不足の課題も軽減する取り組みになると期待を込める。
HoloLensで実現する「新しいコミュニケーションアイデア」とは
小柳建設は、完成形の建築物イメージを実物大で表示し、現地作業員と同じ視界を共有したり、重機や作業員の配置を計画段階からシミュレーションできたりする機能をHoloLensで開発しているという。複数の人がHoloLensを付けて同じ3Dデータを見られることで生まれる、新たなコミュニケーション方法の創造も目指すという(図3)。
小柳建設は、HoloLensで「人的な技術の差も埋められる」と考えている。建設現場で一般的に使われる2Dの設計図を、頭の中で3Dの建造物として的確にイメージできるまでになるには一定の年月と経験が必要だ。「HoloLensを使い、最初から設計図が3D化されているならば、建設現場での経験を積まなくても、誰もが同じ建築物のイメージを共有できるようになる。そのためHoloLensを使うことで経験の差を埋めた、新たなコミュニケーション方法を実現できる可能性がある」と小柳氏は話す。
小柳建設は、Holostructionの実証実験を2017年度中に行いたい考えだ。日本マイクロソフトは、今後も技術面や使い方、運用などで同プロジェクトを支援していきたいとしている。
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