APIマネジメントの世界で急速に成長する、Kongという存在:共同創業者でCEOのMarietti氏に聞いた(2/2 ページ)
買収の続くAPIマネジメントの世界において、オープンソースかつ独立企業として注目を集めつつあるのがMashapeだ。2015年にオープンソース化した「Kong」は、200万以上ダウンロードされたという。CEOのAugusto Marietti氏に、同社の戦略を聞いた。
――Kubernetesディストリビューションや、プラグインによるAWS Lambdaとの統合については発表していますよね。こうした、隣接する技術との連携は、どのように進めていくのですか?
Marietti氏 Kongを「どこにでもいる存在」とするために、こうした連携を進めています。最終的な目的は、ユーザーがどこであっても、Kongをできるだけ使いやすい形で利用できるようにすることにあります。Kubernetes、Mesosphere、Docker Swarmなどと、事前に統合を済ませたディストリビューションを提供することで、1クリックだけで使えるようになることを目指しています。プラグインについては、サーバレスが重要なトレンドになると考えています。AWS Lambdaの場合、ミッションクリティカルな中核アプリケーションではなく、エッジではありますが、利用が進んでいますので、プラグインで対応しました。次にはOpenWhiskへの対応を進めています。Azure FunctionsやGoogle Functionsについても対応する予定です。サーバレスについては、できるだけ広く対応したいと思います。
――特定の製品やサービスと連携を深めたいとは考えないのですね?
Marietti氏 いいえ。スイスのように中立な立場であり続けたいと考えています。これがグローバルな成長の前提となるからです。特定のベンダーとの関係を深めれば、その市場において浸透できるかもしれません。しかし、色がつき、他の一部からは敬遠されてしまいます。技術が優れていることには自信があるので、できる限り等距離で連携していくつもりです。
――では、例えばCloud Native Computing Foundation(CNCF)との連携は考えないのですか?
Marietti氏 CNCFには、シルバーメンバーとして2017年5月に参加するつもりです。ただ、CNCFは現在のところ、アプリケーションやAPIではなく、コンテナのレイヤーに活動を集中させています。シルバーで様子を見て、私たちにとってどんな価値があるのかを見極めたいと思います。
――しかし、将来的にはより上位のレイヤをカバーしようとしています。
Marietti氏 ええ。そのために参加しようとしています。CNCFは企業でなく、中立的な存在と考えていますので、うまく連携できればメリットがあるかもしれません。
――日本では楽天も使っているとのことですが、顧客が他の競合製品ではなく、Kongを選ぶ一番の理由は何なのでしょうか。
Marietti氏 技術的には、最速のAPIゲートウェイとなっている点が挙げられます。また、非常に使いやすいことも特徴です。Dockerのように、起動してすぐに使い始められます。プラグインの利用も簡単です。ドキュメンテーションが優れています。企業内の誰かが気に入って、社内に広めてくれています。
――マインドシェアでいうと、例えば日本ではApigeeが1位なのではないかと思います。
Marietti氏 Apigeeは私たちの10年前からビジネスをしている企業ですし、日本でも以前から活動しているので、それは理解できます。Apigeeに比べれば、私たちは赤ん坊のような存在ですが、とても早く成長しています。来年には、日本でKongの方が高いマインドシェアを獲得したと言えるようになると思います。私たちの技術が強力だというだけではく、オープンソースであること自体がバイラルですから。
――では、Apigeeとの比較では、オープンソースであることが差別化要因だということですか?
Marietti氏 Apigeeよりも高速で、KubernetesやMesosphere上で使え、軽量で、プラグインにより拡張がしやすい点が指摘できます。Kongでは、カスタムプラグインを開発することで、既存システムとの接続や認証など、各企業のニーズに対応しやすくなっています。
ただ、マイクロサービスアーキテクチャではさまざまな要素が絡み合うため、ユーザーはどのように動いているかを見ることができなければなりません。このため、オープンソースであることは必須だと考えます。この要件が重要になってきたことは、数年前に比べると、とても大きな変化だと思います。
――コミュニティ版とエンタープライズ版を、どう区別しているのでしょう?
Marietti氏 エンタープライズ版は、オープンソースのコミュニティ版上に私たちが構築しているクローズドソースのソフトウェアです。オープンソースから一部の機能を引き抜いて、エンタープライズ版に移し、コミュニティの反発を招いた企業がありますが、私たちはこの点に細心の注意を払っています。権限管理など、ある程度の規模の組織のみが必要とする機能を、エンタープライズ版に搭載します。例えばレスポンスキャッシング機能を開発していますが、これはどのようなユーザーにとっても必要であるため、オープンソースで提供します。
コミュニティ版とエンタープライズ版の棲み分けに関わる課題を緩和するもう1つの手段に、クラウドサービスの提供があります。私たちもこれを考えています。クラウドサービスでは私たちが運用を行うわけですから、ユーザーは皆料金を払います。これを前提とすれば、コミュニティ版とエンタープライズ版のどちらでどのような機能を提供するかについてそれほど悩むことなく、ビジネスにつなげることができます。
クラウド版は、中堅・中小企業までのユーザーに向けて、おそらく来年提供します。
――今年中に、エンタープライズ版ではどのような機能強化を予定しているのですか?
Marietti氏 運用管理ポータル、(トラフィック可視化などの)アナリティクス機能をAPIゲートウェイと完全に統合します。権限管理を強化し、ファイアウォール機能、OpenID Connectに対応します。将来は機械学習やクラウドバックアップ、ディザスタリカバリなどの機能を開発しますが、今年はエンタープライズ版の基盤を固めることに専念します。
――大規模組織は、新しいアプリケーション開発スタイルに対応するのに苦労していると思いますが、どう見ていますか?
Marietti氏 10年単位で考えなければならないトピックだと思います。Amazon Web Servicesは、まだ企業におけるITワークロードの1%程度しかクラウドに移行していないと言っていますが、当面は1%の市場であっても、私たちにとっては十分大きいと思っています。
ただし、APIゲートウェイはモノリシックなアプリケーションにも適用できます。ADPという企業の元CTOは、以前「アイスクリームスクープ戦略」について語っていました。モノリシックなアプリケーションから、アイスクリームをすくうようにコードを切り出し、APIで接続します。こうして少しずつ切り出していって、10年後くらいには多数のマイクロサービスによるシステムに移行するという考え方です。この人は、「鶏が生きたまま、チキンナゲットを作り出す」という表現もしています。非常に長い期間が必要な作業ですが、これを実行する企業が出てきています。
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