ソフトウェア資産管理システム、信じられないような「本当の話」〜失敗しない製品選定・導入のツボ〜:実践! IT資産管理の秘訣(8)(1/4 ページ)
今回は、第7回で無料ダウンロード提供したソフトウェア資産管理(SAM)システムの選定指標「SAM BIBLE SAM支援システム構築推奨機能Ver.2.10」について、現実によくある問題点を取り上げながら、詳しく解説する。本稿を読んで使うと非常に効果的な「SAMシステムチェックリスト」も無料ダウンロード提供。
第7回はIT資産管理ツール導入の留意点について紹介しました。だいぶ時間を空けてしまいましたが、今回は第7回で無料ダウンロード提供したSAMシステム選定の指標となる「SAM BIBLE SAM支援システム構築推奨機能Ver.2.10」のうち、以下の3つの重要ポイントについて詳説します。
- バージョンアップ・問い合わせへの対応
- 管理可能なライセンス
- その他
筆者より:「SAM BIBLE SAM支援システム構築推奨機能Ver.2.10」について
前回の記事で紹介した「SAM BIBLE」というSAM構築・運用のためのひな型集ですが、2016年8月をもち、弊社、クロスビートから、一般社団法人IT資産管理評価認定協会(SAMAC)※に譲渡いたしました。今後、SAM BIBLEの導入などについてお問い合わせいただく場合には、SAMACまでご連絡いただけますようお願いいたします。
ただし、今回の記事で解説する「SAM支援システム構築推奨機能Ver.2.10」につきましては、SAMACに譲渡していないため、引き続き以下からダウンロードいただけます。
※一般社団法人ソフトウェア資産管理評価認定協会は、2017年5月24日をもって、一般社団法人IT資産管理評価認定協会に改称されました。英文表記は、association of Standardization of it Asset Management Assessment & Certification で、略称はSAMACのままとなります。
今回お伝えする3つのうち、「1.バージョンアップ・問い合わせへの対応」については、システムの機能以前のポイントであるため、「SAMシステム構築推奨機能」には記載していません。しかし、まずはこの点からお伝えします。
「バージョンアップや問い合わせ対応など、当たり前のことになぜ注意喚起を?」と思われる方は多いかもしれませんが、台帳ツールを調達する際は、事前に確認しておくべき重要ポイントの1つになりますので、お目通しください。
「1.バージョンアップ・問い合わせへの対応」での注意点
バージョンアップについて
台帳ツールはいくつものベンダーから提供されており、そのほとんどは「パッケージソフト」として紹介されています。しかし、実際の導入はカスタマイズが前提となっているものが少なくありません。そのため、製品パンフレット上では、保守の項目において「バージョンアップが含まれる」と記載されていたとしても、バージョンアップの適用が不可能となるケースが多くあるのです。
もちろん、バージョンアップ対応のためにカスタマイズ開発を都度行えば、新しい機能を利用できるようにはなります。しかし、そのコストはユーザー負担となるため、実際には、よほどのことがない限り、カスタマイズした場合には製品版のバージョンアップ機能を享受することはできないのが実情です。
従って、パンフレット上の保守料金にバージョンアップが含まれているにもかかわらず、「カスタマイズによっては、バージョンアップの権利が実質的に行使できない」ことが明確であれば、バージョンアップに相当する部分については保守料金の減額を要求しておくことが望まれます。
ただ、仮想化やクラウドなどテクノロジーの進化に伴い変わっていくIT資産を管理していくためには、カスタマイズなどせずに、パッケージ版をそのまま導入し、バージョンアップされた新機能を享受していくことが最も望ましい形です。
そもそも、この連載で何度も触れてきたように、IT資産管理には国際規格(ISO/IEC19770-1:2012)があり、また、この国際規格をベースとしてSAMACが提供しているソフトウェア資産管理基準もあります。管理対象とするハードウェアや利用しているソフトウェアの使用許諾条件についても、ユーザーによって異なるようなものはほとんどありません。つまり、管理プロセスのひな形ともいえるべきものが存在しており、管理対象もほとんど共通なのです。
にもかかわらず、多くの企業でカスタマイズが前提となっているのは一体なぜなのでしょうか?
「なぜカスタマイズしなければならないのか?」
これは大きく分けて2つの原因があります。1つは製品の開発側の問題であり、もう1つはユーザー側の問題です。
開発側の問題とは、台帳ツールを開発しているベンダー自身が、規格や基準のプロセス、要求事項を十分に理解していないために、機能が不十分であったり、実用に耐えないものになっていたりするというものです。これはベンダー自身が、規格や基準を基にしたIT資産管理を、実際には導入していないケースで多く見られるものです。
例えば、単にインベントリーツールだけ、あるいは台帳ツールを組み合わせたSAMシステムだけを社内に展開し、運用ルールの周知も、運用状態の検証や是正プロセスも十分に行っていない場合、当然、実際の運用イメージはつかめないことになります。従って、開発する製品の実装機能も限定的なものになり、その結果、運用負荷への配慮が不足した仕組みになってしまうのです。そもそも、十分な機能の実装を初めから放棄して、カスタマイズ作業自体を売り上げとして見込んで販売しているケースもあるようです。
ユーザー側の問題は、実は、こうした開発側の問題が影響しているケースが多くあります。
一般に、ベンダー側が考える“カスタマイズの表向きの理由”は、「ユーザーが、これまでの管理方法を変えたがらないから」「ユーザーが、規格に応じた管理方法ではなく、『何となくこうあるべき』といった独自の管理方法を求めるから」といったものです。しかし、その根っこにあるのは、前述のように、そもそも必要なプロセスや機能をベンダー側が理解していないため、実装機能が不足しているケースが多いというものです。また、ユーザーから「こうあるべき」と言われたときに、提供側の知見が不足しているために、ユーザーが納得する代替案を出すことができないケースも少なくありません。
「それぞれ管理プロセスが異なるので、カスタマイズして導入するお客さまが多いです」とか、そもそも代替案の提示すらなく、言われたことをそのままカスタマイズで対応しようとするベンダーは、IT資産管理に関する本当の知見は持っていないものと判断してまず間違いないと、筆者は思います。
いずれにせよSAMシステムのカスタマイズは、よほど特殊な組織を除いては、百害あって一利なしと考え、カスタマイズありきでシステムを考えないことが大切です。
「問い合わせ対応」の注意点
そしてもう1つ、確認しておかなければならないのが、問い合わせ対応です。問い合わせ対応は、SLAに盛り込むべき重要ポイントの1つです。これは、台帳ツールのベンダーによって大きく異なるばかりか、ユーザーによって対応が異なるケースもあります。
ここで確認すべき問い合わせ対応とは、以下の2点です。
1.問い合わせ方法
問い合わせ方法には、メール、電話、オンサイト訪問などがあります。問い合わせ先についても、指定されたヘルプデスクのみの場合や、担当営業経由の場合、あるいはそのどちらも可といったものがあります。
2.問い合わせ対応の期間
問い合わせ対応の期間とは、「受付時間+回答期間」です。受付時間については、メールなら24時間対応となりますが、緊急時の電話やオンサイト保守が入っている場合には、「受付時間+回答期間」を事前に確認しておくことが大切です。ここで最も重要な確認ポイントは、「いつ回答をもらえるか」という原則としての回答期限と、それを過ぎる場合、あるいは回答期限までの間の検討状況の報告の有無についてです。
こうした問い合わせ対応についても「当たり前のことだろう?」と疑問に思われるかもしれません。しかし、現実にこれらに関するトラブルは決して少なくないのです。
そのトラブルとは次のようなものです。
・問い合わせ対応はメール以外では受け付けない(実際に画面を確認しながら説明しないと伝えることが難しいケースが少なくないが、全て画面キャプチャーと説明を付けるように要求される)。
・営業担当は、問い合わせ対応は受け付けない(全てメールで、かつ、問い合わせを受け付けるのはサポート窓口のみ)。
・問い合わせ対応に対する回答期限は特に設けておらず、進捗状況についても、ユーザー側から問い合わせなければ連絡がない(営業に電話をしても、「確認します」という返答しか来ず、そのうち諦めることになる)。
信じられないような話かもしれませんが、全て実際にある話です。過去には、従業員数500名程度の組織で、電話対応を追加してもらおうとしただけで、年間数百万円増となる保守見積もりが届いたこともあります。調達してからでは遅いので、こういったことについても仕様書と契約書に記載しておくことが必須です。
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