仮想化、クラウドが当たり前の今でもインフラのコスト削減が大きな課題であり続ける理由:デジタル変革前夜のSoRインフラ再定義(1)(2/2 ページ)
デジタル変革を起こすには、まずSoRを中心とした従来型のインフラを見直す必要があるのではないだろうか。さまざまな企業のシステムを構築・運用し、運用負荷やコストの削減に詳しいSIerに聞いた。
コスト削減に効く、さまざまなアプローチ
では、インフラに関するさまざまなコストの課題に対して、どうアプローチしていくべきなのか。
企業として全体最適化における標準化ポリシーやシステム構成を策定する
全体最適化の課題に対しては、まず、従来型のインフラ全てをパブリッククラウドに移行する、または移行することを前提にしたアーキテクチャに変えるのは現実的ではない。
セキュリティを重視した基幹系システムのインフラはSLAを高めに、顧客接点を増やすためのSoE(System of Engagement)なITサービスのインフラはSLAを低めにするなど、システムごとにSLAで分類することが重要になる。パブリッククラウドに適しているところは移行を進め、残すところは残すべきということをユーザー企業が理解しなければ、全体的なコスト削減にはつながらない。
デジタル変革というと、従来型インフラのコスト削減を達成し、浮いたコストをSoEのビジネス活用に回すという順序で考えられがちだが、それは中小企業寄りの考え方だ。大企業では、ビジネス活用に着手しながら同時に、従来型インフラのコストを下げる準備を進めているケースも表れてきている。システム更改の時期を待ちながらも、パブリッククラウドに適しているシステムはタイミング次第でクラウド化に踏み切る目算だという。
「企業として全体最適化における標準化ポリシーやシステム構成を策定しなければいけません。これがないと、仮想化やクラウド移行を行っても結局サイロ化してしまいます。それを基に、システム間をAPIで連携し、インフラを統合管理できる環境を構築することが重要です。その上で、オーケストレーションツールを導入したり、パブリッククラウドに適したシステムはクラウドに移行したりするなどによって、さらにコスト削減効果を高めることができるでしょう」(新原氏)
Infrastructure as Codeによる自動化で“人”依存のコストを下げる
人に依存したインフラ運用の課題について新原氏は、「インフラ構築の自動化が課題解決のキーワードです」と強調する。「以前は、この課題を根本的に解決する手段はありませんでした。しかし今では、自動化の仕組みを取り入れることで、人依存のインフラ運用からの脱却が可能になります。そのため、システム更改のタイミングに合わせて、インフラの標準化を検討する企業が増えつつあります。標準化されていると、自動化もしやすくなります」
インフラ構築を自動化する最適な手法として最近注目されているのがインフラ構築手順をコード化するInfrastructure as Codeだ。
「Infrastructure as Codeでは、“設定”のテストがしっかりと行えます。また、従来のように手順書を作成する必要がなくなり、コードレビューの形で自動的にインフラ構成を実機に反映させることが可能です。手動による作業もなくなるため、オペレーションミスによる障害を防止し、運用品質を高めながら、コスト削減を図ることができます。インフラ構築の自動化によって、運用担当者1人分の作業を減らすことができれば、非常に大きいコスト削減効果が得られるはずです」(浪川氏)
コストの8割は、保守サポートのコミュニケーションであるケースも
さらに浪川氏は、人に依存している保守サポートについても、「ケースによっては、システム運用におけるコストが、コミュニケーションや折衝など人に関わる部分で約8割になる場合があるとも聞きました。この点に関しても自動化を導入することでコスト削減に貢献できるのではないでしょうか」と指摘する。
システムの開発段階では、要件定義のフェーズがあるが、運用に入ると、ちょっとしたエンハンスや機能改善などは、保守業務のサイクルで対応することになる。すると、顧客と保守担当者のコミュニケーションや折衝次第でコストが左右されてしまう可能性もある。「顧客との窓口にチャットbot/ChatOps的なソリューションで解決できないかを評価、検討していきたいと考えています」(浪川氏)
デジタル変革に向けて、今後ユーザー企業はどうすべきか
コミュニケーションコストを減らす上では、やはりユーザー企業のITリテラシーが大きく左右するだろう。冒頭でも紹介したように、パブリッククラウドやAWSによってある程度の情報を得た企業からはインフラのコスト削減に大きな期待が寄せられる一方で、そのリテラシーに関して企業による情報格差は大きいと新原氏は述べる。
そこでTISでは、Infrastructure as Codeを活用したインフラの自動化を積極的に提案するとともに、単なる製品・サービス紹介だけではなく、インフラの運用コスト削減に関する勉強会も行い、情報格差をなくすことに努めているという。
パブリッククラウドやAWSを“知った”だけで「コスト削減」を叫ぶのではなく、やはり企業として全体最適化における標準化ポリシーやシステム構成を策定するなど、ITリテラシーを高めて主体的に動かないと、パブリッククラウドに移行しても結局サイロ化してしまうだろう。
これに対して浪川氏は、「インフラのパブリッククラウド移行はIaaSではなく、サーバレスの話も含めてフルマネージドサービスが本命になるでしょう」との見通しを示す。
「前述のように、IaaSのパブリッククラウドは、使い様によってはコストメリットが薄くなりがちです。ただ、IaaSの仕組みはオンプレミスに似ていて理解しやすいので、クラウドの入り口として位置付けるといいと思います。その点、IaaSから入って、次の段階でフルマネージドサービスに進む方法は、大きなコスト効果が見込る方法の1つです。フルマネージドサービスでは、物理サーバが必要なくなり、サービス仕様がプロバイダー側に標準化されるため、インフラがサイロ化することもありません。今はアーリーアダプターが導入している段階ですが、今後一気にフルマネージドサービスが拡大する可能性もあります。既にフルマネージドサービスを取り入れている企業も実際にあります」
とはいえ、システム全体の中でパブリッククラウドに移行するのに適しているのはどこか、残すところはどこかをユーザー企業として見極めることが必須といえる。使う側が考えて標準化すべきところは標準化して、差別化すべきところは差別化する必要がある。コスト削減ならびにITのビジネス活用を考えている企業が、SoRを中心とした従来型のインフラを見直すためには、ITリテラシーをさらに高め、SIerやサービスプロバイダーなどとの相互理解を進めていくことが望まれているといえるだろう。
デジタルビジネス全盛時代、ITサービス競争に勝つ“インフラ”の最適解 〜SoEとSoRの両輪でデジタル変革は加速する〜
昨今、ITサービスのように変化対応力が重要な領域をSoE(Systems of Engagement)、基幹システムのように安定性が重要な領域をSoR(Systems of Record)と分けて扱う考え方が浸透してきたが、“価値あるサービス”を提供し続けるためには、SoE、SoRがそれぞれ単独で機能を果たすのではなく、耐えず連動しながらイノベーションを生み出すことが求められる。その実現に向けては、アプリケーションの開発と同時に、そのパフォーマンスを支える“ITインフラの在り方”が肝となり、ITサービス競争を勝ち抜く切り札となるのだ。では具体的に、両領域をどのように連携・改善させればいいのか――本テーマサイトでは、先進事例や動向とともに、全業種に通じる“デジタル変革の確実な進め方”を紹介する。
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