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FinTech時代の銀行に求められるSoE/SoRアーキテクチャとAPI管理とはFinTech時代、銀行系システムはどうあるべきか(3)(1/4 ページ)

本連載では、銀行系システムについて、その要件や歴史を整理しつつ、スマートフォンを使う銀行取引やブロックチェーンなど、新しい技術が及ぼす影響を考察していきます。今回は、FinTech時代に求められる銀行業務のシステム要件として、Systems of EngagementとSystems of Record、API連携基盤(API管理)に必要な機能や課題、OpenAPIの在り方などについて考察。

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 本連載「FinTech時代、銀行系システムはどうあるべきか」では、銀行系システムについて、その要件や歴史を整理しつつ、スマートフォンを使う銀行取引やブロックチェーンなど、新しい技術が及ぼす影響を考察していきます。

 前回の「FinTech時代の今、COBOLやPL/I、メインフレームが勘定系システムで必要な理由」までは、銀行オンラインシステム発展の歴史や伝統的なアプローチについて述べてきました。

 その内容を踏まえて、FinTech時代に向けて、銀行システムアーキテクチャに求められる要件について整理します。

FinTech時代に求められる銀行業務のシステム要件

 連載第1回の「若手が知らないメインフレームと銀行系システムの歴史&基礎知識」でも述べたように、第3次オンライン以降の勘定系システムのアーキテクチャに関しては大きな変化はありません。2000年以降の傾向としてはインターネットが普及したことが大きな変化です。銀行の顧客接点チャネルが、店舗やATMの他、インターネットバンキング、モバイルバンキングのように広がり、ダイレクト化が進んできました。

クラウド、データ分析、モバイル、API、ブロックチェーン、人工知能

 また近年では、クラウドやアナリティクス、モバイルに関するテクノロジーが急速な進化を遂げ、かつては「装置産業」ともいわれていた銀行も「IT活用産業」へと変貌してきています。これらの要素技術について簡単に触れます。

 クラウドは当初、セキュリティに関する不安から銀行による利用は進みませんでした。しかし、近年はセキュリティ技術も向上し、銀行でもシステム構築手段の1つとなっています。「ITリソースを必要なときに短時間で調達できる」クラウドによって、ビジネスアイデアが具体化され、顧客にサービス提供されるまでに必要なコストや時間を削減できることが期待されています。

 銀行におけるデータ分析は、取引処理から大量に生み出される情報を効果的に活用する上で重要となる技術革新です。2000年以降は、EBM(Event Based Marketing)で活用されています。EBMを活用すると、トランザクションデータを分析して顧客に起きる重要なイベントを推察し、それに見合った商品やサービスを最適なタイミングで提供して収益向上につなげることができます。最近では、技術の進展により「非構造化データ」(音声、画像、動画など)の活用も試みられてきています。

 さらに最近は、モバイルも核心的な技術となっています。タブレット端末やスマートフォンなどは携帯や移動が可能な端末なので、場所や時間の制約にとらわれることなく、通信ネットワークを介して情報の交換や取引を実現できるようになってきました。またモバイルが生み出す情報は、新たなビジネスを創造する宝の山となる可能性を秘めています。GPS(Global Positioning System)を活用した位置情報、FacebookやTwitterなどのSNSの情報を活用すれば、新たなレンディングやマーケティングの手法を実現できる可能性を秘めています。

 クラウドやアナリティクス、モバイルといった、これらの技術が成熟しつつあるのに加えて、ここ1〜2年で、API(Application Programming Interface)やブロックチェーン、AI(Artificial Intelligence:人工知能)が急速に台頭してきています。これらの技術要素は銀行業務に大きなパラダイムシフトを起こす可能性があります。

「SoE(Systems of Engagement)」と「SoR(Systems of Record)」

 これら新たな技術を最大限に活用するために、これからの銀行システムにはどのような要件、アーキテクチャが必要となるのでしょうか。

 2011年に米国で出版されたホワイトペーパーが発祥となった概念として「SoE(Systems of Engagement)」と「SoR(Systems of Record)」があります。

 SoEとは、顧客体験の向上や新たな協業を実現します。モバイル、Webなどアプリケーションの頻繁な更新が必要であり、開発やシステムライフのサイクルスピードが速い領域です。FinTechアプリケーションやモバイル/スマートフォンアプリケーションが、これに該当します。

 SoRとは、高い品質と安定稼働が前提の従来型の基幹業務システム全般のことを示します。前回までに説明していた銀行勘定系システムが、このカテゴリーに属します。今後は、よりスピーディに情報や機能を提供することが求められます。

 FinTech時代においては、SoEとSoRを密接に連携させる必要があります。その上で、SoRで得られる膨大なデータをSoEに生かしたり、SoEから得られた非構造型データ(音声、画像など)をSoRで活用したりする仕組みを導入すれば、その適用領域がマーケティングやUX(User eXperience:ユーザーエクスペリエンス)など、一層広がります。それが分析と洞察の技術によって形成される「SoI(Systems of Insight)」です。データを価値のある情報に変換し活用する技術や仕組みを導入することにより、SoIが実現します。


図1 SoE、SoI、SoRの概念

FinTech時代における銀行システムアーキテクチャ

 FinTech時代における銀行システムアーキテクチャは具体的にどうあるべきなのでしょうか。

 勘定系を継続活用することは、安定稼働や投資保護の観点から有効な手段です。FinTech時代においては、勘定系システムを「柔軟にチャネルや業務の追加ができるような再利用性の高いサービス」へと進化させる必要があるのではないでしょうか。そのため、階層構造の定義と機能配置を見直すとともに、各階層間連携の標準化を図ることで、疎結合型のアーキテクチャが望ましいと考えられます。図2に概念図を示します。


図2 FinTech時代の銀行システムのアーキテクチャ概要

 先に述べたSoIを実現するには、「銀行が過去から保有するデータと日々生み出されるさまざまなデータを分析して、将来のビジネス拡大に活用したい」という要求に応えるため、分析層も必要とされます。

 さらに多くの可能性を秘め、今後の銀行の戦略領域を支えるテクノロジーであるブロックチェーンと既存の銀行システム間の連携も必要となるでしょう。

 既にハブやESBなどを介した疎結合型アーキテクチャへ変えていく取り組みが行われていることは第1回の連載で紹介した通りです。営業店端末、ATMなど既存チャネルは、チャネル側アプリケーションが勘定系のサービスと連携する形式へ徐々に移行しています。

 従来、銀行システムはクローズドなインタフェースでシステム間連携を行っていましたが、FinTechをはじめとした新たな外部システムとの連携は、オープンなAPIを使用した連携基盤を介して実現します。今回は、このAPI連携基盤にフォーカスして解説します。

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