続報、Windows 10のデスクトップ環境をDaaSのVDIで利用可能に――ライセンスの明確化:Microsoft Azure最新機能フォローアップ(38)(2/2 ページ)
Microsoft製品およびサービスの使用権の説明資料である「製品条項(PT)」の2017年8月1日の改訂版に、「Windows 10マルチホスティング」の権利が追加されました。この権利が明文化されたことで、Microsoft Azureおよび認定クラウド上でWindows 10 Enterpriseを正式に実行できるようになりました。
セッションホストベースのリモートデスクトップサービスの利点と限界は?
これまで仮想デスクトップ環境をMicrosoft Azureや他社のクラウドで実現しようとする場合、Windows Serverのリモートデスクトップセッションホストベースの「リモートデスクトップサービス」を利用するのが唯一の方法でした(WindowsデスクトップOSをクラウドで提供するという、これまでのDaaS(Desktop as a Service:サービスとしてのデスクトップ)も同じ仕組みです)。
サービスプロバイダーは「RDS SAL(サブスクライバーアクセスライセンス)」を取得することで、リモートデスクトップサービスへのアクセスをサービスとして提供することができました。また、2014年1月1日からはオンプレミス向けの「RDS CAL(クライアントアクセスライセンス)」に「拡張された権利」が追加され、クラウド環境に展開することが可能になりました(「製品条項(PT)」の「4.3 Remote Desktop Services(RDS)User CALおよびUser SL−拡張された権利」を参照)。
Windows Serverのリモートデスクトップセッションホストベースのリモートデスクトップサービスは、少数のサーバで多数のユーザーにデスクトップ環境を提供することができるため、効率的なリソース使用、アプリケーションや設定の集中管理など、さまざまな利点があります。特に、必要に応じてリソースを追加できるクラウド環境での展開に適しているといえます。
しかし、Windows 10とWindows Server 2016からのデスクトップエクスペリエンスの機能差が理由で、リモートデスクトップセッションホストベースのリモートデスクトップサービスを選択できない場合が出てきました。
Windows Server 2008 R2のリモートデスクトップセッションホストはWindows 7相当のデスクトップ環境を、Windows Server 2012はWindows 8相当のデスクトップ環境を、Windows Server 2012 R2はWindows 8.1相当のデスクトップ環境を提供できました(画面3)。違いは、Windows Serverであるため64ビット(x64)のデスクトップ環境であるということぐらいでした(64ビットOSでは16ビットアプリは動きませんが、それが問題になることはまれなはずです)。
しかし、Windows 10とWindows Server 2016からは、両者のデスクトップ環境は明らかに異なります。Windows Server 2016はWindows 10 Anniversary Update(バージョン1607)と同じビルドをベースにしていますが、Windows 10標準の新しいWebブラウザである「Microsoft Edge」、音声アシスタントの「Cortana(コルタナ)」「ストア」アプリを搭載していません。また、Windows 10にはプリインストールされているさまざまなUWPアプリ(メール、カレンダー、マップ、電卓など)も提供されません。
Windows Server 2016にこれらを後から追加する方法は提供されていません。そのため、Windows Server 2016のリモートデスクトップセッションホストのリモートデスクトップサービスは、Windows 10の特徴的なデスクトップエクスペリエンスの多くを提供できないのです(画面4)。
![画面4](https://image.itmedia.co.jp/ait/articles/1708/10/vol38_screen04.png)
画面4 Windows Server 2016のセッションベースのリモートデスクトップサービス。Windows 10 Anniversary Update相当のデスクトップだが、Microsoft Edge、Cortana、ストアが存在しない
Windows Server 2016のリモートデスクトップサービスを使用して、完全なWindows 10の仮想デスクトップを提供する方法は、Windows 10 Enterpriseの仮想マシンベースの展開(Windows 10 Enterprise仮想マシンを仮想化基盤で集中的に実行し、Windows Server 2016のリモートデスクトップサービス(接続ブローカー)で管理する)が必要です。これまでは、そのようなVDI(仮想デスクトップインフラストラクチャ)環境はオンプレミスでなければ構築できませんでした。
今回の「Windows 10マルチホスティング」の権利により、Windows 10 EnterpriseのVDI環境をクラウドに展開できるようになります。そして、そのVDI環境に必要なライセンスは共通です(Windows Server 2016のリモートデスクトップサービスで管理するのであれば、RDS CAL+SAまたはVDA)。
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(Oct 2008 - Sep 2016)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。
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