正解がない時代、企業が生き残るために必要な仕組みとは:「デジタルトランスフォーメーション」とは何か? なぜ必要なのか?
近年、社会一般に広く浸透した「デジタルトランスフォーメーション」という言葉だが、明確な定義がないことも手伝い、「それが意味するところ」は、言葉ほど浸透しているとは言いがたい。だが企業を取り巻く環境を多面的に掘り下げると、その真意が見えてくる。今あらためて、デジタルトランスフォーメーションとは何か、これに対応するためには何が必要なのか?――多数の支援実績を持つレッドハットに話を聞いた。
ニーズの変化が激しく「正解がない時代」
近年、企業を取り巻く環境が様変わりしている。例えば、米国の調査会社、Innosightのレポートに、「S&P 500」(Standard & Poor's 500 Stock Index)にランキングされている企業の平均寿命を、60年以上にわたって調査したものがある。これによると、1960年には60年だった企業の平均寿命は減少し続け、2010年には3分の1の20年を切るまでになった。これは国内でも変わらない。日本を代表するような伝統的な企業が、買収や統合で役割を終える例が増えているのは周知の通りだ。
こうした「ビジネスの短命化」にはさまざまな要因がある。市場の飽和や規制の変化、新興ベンダーの市場参入と価格競争の激化、そして何より大きいのが新しいデバイスの出現とデジタル価値の増大だ。特にテクノロジーの力で新しい価値や利便性を生み出す「デジタルトランスフォーメーション」のトレンドによって、ITとビジネスの関係が変わってきたことが大きい。
かつてITは、業務効率化やコスト削減の手段にすぎなかった。しかし現在は、ITが収益・ブランド向上の手段となっている。例えば従来、自動車業界はエンジン開発などハードウェアで差別化を図ってきたが、現在はソフトウェアによる衝突安全機能や運転支援機能が重要な差別化手段となっている。「IT(デジタル)でできること」が「ビジネスの価値」に直結する時代に変わったのだ。
このことは時価総額トップ5の顔ぶれからもうかがえる。10年前の2007年はエクソンモービル、ゼネラルエレクトリック、マイクロソフト、シティグループ、ペトロチャイナというように、製造業、資源業、金融業が中心だった。一方2017年は、アップル、アルファベット(Google)、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックと続き、ITを活用したソフトウェア企業中心に様変わりしている。
こうしたITとビジネスの関係について、レッドハットの中澤陽彦氏は、「人々の価値観が“モノからコトへ”変化したことが大きなポイントです」と話す。
「自動車業界における重要な差別化手段が、ハードウェア開発という“モノ”から、ソフトウェアによる機能強化・体験価値の向上という“コト”へと変わったように、さまざまな業界で変化が起こっています。音楽業界もレコードやCD、MDといったモノで差別化していましたが、今は“音楽を聴くという体験”をいかに快適かつ利便性高い状態で届けるかが重要になっています。『ITの力でいかに新たな体験価値を生み出すか』というテーマが、あらゆる業界で差別化のポイントになっていくことは間違いありません」
事実、こうした価値観の変化は、企業競争に多大なインパクトをもたらしている。各種サービスはデジタルの力によって模倣されやすくなり、サービスそのものが短命化しやすくなっている上、競争が一段と激しくなっている。またソフトウェアが差別化の手段となっている今、例えばGoogleのようなソフトウェア企業が、自動運転技術において自動車メーカーの競合になるように、業種の壁を超えた戦いも展開されている。
消費者も変わった。製品・サービスに対する消費者の情報源はメディアなどが提供する情報ではなく、SNSや口コミサイトなど個人が発信する情報に変わった。そして消費者の志向・ニーズが変化するスピードは驚くほど速い――。
では、ニーズの変化が速く、業種の壁を超えた戦いも展開されている今、一体どうすればITを収益・ブランド向上の武器として役立てられるのだろうか。中澤氏は、「どうすれば失敗しないで、何をやれば成功するのかに関しては、正解はありません」と指摘する。
「顧客が求めるものは常に変化します。時間をかけて周到にITサービスを計画しても、リリースするころにはニーズが変わってしまっていることも少なくありません。また、人気あるITサービスの二番煎じが通用しないのはもちろん、顧客が求めるものを後追いしている限り市場のリーダーにはなれません。重要なのは、“新しい価値”を求めて、さまざまなことを試しながら市場のフィードバックを得て改善し続けることです。また、ライバルが多くサービス価値が陳腐化するスピードが速い以上、社内外のアセットを最大限活用しながら、できる限りスピーディーにサービスを成長させていくことが勝負のカギとなります。ビジネス要求をアプリケーションに落とし込むプッシュ型での開発から、ユーザーの要求を引き出してアプリケーションを改善するプル型の開発に変えることが大きなポイントといえるでしょう」
「攻めのIT」に転じるための人材・予算・時間をどう確保するか?
ではこのように、テクノロジーを収益・ブランド向上の武器とする「攻めのIT」を実践するためには、具体的にはどのような取り組みが必要なのか。そこで挙げられるのが、ユーザーエクスペリエンスを向上させるための「モバイル」の活用や、他社サービスと連携して新たな価値を生み出し、市場を創出する「APIエコノミー」、センサーデータを使ってより良い体験価値を作る「IoTサービス開発」といった新しい取り組みだ。これらの取り組みは手段であって目的ではないことは周知の事実であるが、履き違えている場合も多々あり要注意である。
だが、これらを推進するためには、新たな技術・スキルを持つ「人材」をはじめ、良い人材を育てるため、また新規ビジネスを推進するための「予算」や「時間」が必要だ。そのためには、まず既存のITの在り方を見直す必要がある。というのも、周知の通り、日本企業の多くは既存システムの安定運用など「守りのIT」にIT予算の約7割を投資している。人材・予算・時間を確保するためには、各種効率化や自動化によって7割のコストを削減し、その分を「攻めのIT」にシフトする必要があるためだ。
「攻めのITを実践する上では、ビジネスの価値や競争力の向上と成長に集中することが重要であり、それに向けて、繰り返しの定型作業など、付加価値を生まないムダな作業をいかに改善するかがポイントになります」
中澤氏は、そうした“ムダの改善”のアプローチとして、トヨタ生産方式における「7つのムダ」を挙げる。具体的には「作りすぎのムダ」「在庫のムダ」「不良をつくるムダ」などだが、これらは「不必要な機能を作成しない」「不必要な引き継ぎ作業の改善」「重複作業の改善」など、ほぼそのままシステム開発・運用に当てはめられるためだ。
これからのITに求められる「3つの要素」とは
では以上のように、既存ITの在り方を見直して、人材・予算・時間を「攻めのIT」にシフトし、デジタルトランスフォーメーションを推進するためには、サービスを構築するITのアプリケーション側としてはどうすればよいのだろうか? そこでレッドハットが提案しているのが以下の3つの要素だ。
アプリケーションのスピーディーな開発・リリース・改善サイクルを実現する「DevOps」、ビジネス要求に迅速に応えるために、社内外のサービス同士の柔軟な接続を実現する「アジャイルAPIインテグレーション」、業務アプリケーションを迅速かつ確実に変更するための「アプリケーションモダナイゼーション」の3つだ。
まず、エンドユーザーの支持を獲得するためには、ニーズの変化に合わせてアプリケーションをユーザー体験を基に改善し続けていくことが欠かせない。しかし従来のウォーターフォール型開発ではこれが難しい以上、DevOpsのアプローチが不可欠となる。それに伴い「単一の機能を持つサービスを組み合わせて1つのシステムを作る」マイクロサービスアーキテクチャのアプローチを取り入れることが、さらにスピーディーな開発・改善の大きなポイントとなる。
また、サービスやモバイルアプリを独立して提供するだけでは、ユーザー体験も限定的なものになってしまう。利便性や体験価値を向上させるためには、既存システムとのデータ連携や社内外リソースを最大限に活用することが重要なポイントとなる。例えば、基幹システムとのデータ連携や、社外パートナーが持つサービスとの接続などが求められる。
「アジャイルAPIインテグレーションとは、社内のシステム同士や他社サービスなどとの連携を実現することで、開発効率性と共に新たな価値創出と新規顧客や新規領域へのアプローチを支援するものです」
一方、ニーズの変化が速い中、システム全体をどう最適化させるかという課題もある。例えば、SoR領域の基幹システムは高度な安定性を持つ半面、変化対応力は低い。だが前述のように、SoE領域では、優れた体験価値を担保するためにはバックエンドのアプリケーションもニーズの変化に即応できる柔軟性が求められる。
「コアビジネスを向上・成長させるためには、システム全体をビジネスに合った形に最適化し続けなければなりません。そのために必要なのがアプリケーションモダナイゼーションです。業務アプリケーションで最も変更が発生しやすいルール部分の迅速な変更、複雑なルールの一元管理・可視化などによって、スピーディーかつ柔軟に変化に対応できるようにします」
デジタルトランスフォーメーションを支える実績ある支援サービスとツール群
では、レッドハットはどのようなアプローチでこれら3つの実践を支援するのか。まずDevOpsについては、早期リリース/継続的学習/改善サイクルの構築を目的に、「人・文化」「技術・ツール・アーキテクチャ」「プロセス」という3つの観点でDevOpsのプラクティスを適用していく。
支援サービスとしては「DevOpsディスカバリーワークショップ」を提供している。これはDevOpsの目的や背景、主要成功要因、技術要素の解説を通じて、DevOpsへの理解度向上を図るとともに、現状分析を行い、成熟度判定から実践レポートを提供するというサービスである。また、ツールとして、コンテナ技術を使ったアプリケーションのマイクロサービス化や、継続的インテグレーション/継続的デリバリ実現の基盤となるコンテナアプリケーションプラットフォームの「Red Hat OpenShift Container Platform」、API管理の「Red Hat 3scale API Management Platform」などを用意している。
システム同士や他社サービスなどとの柔軟な連携を実現するアジャイルAPIインテグレーションでは、API管理ツールの3scaleや、インテグレーションフレームワークのJBoss Fuse、コンテナ管理プラットフォームのOpenShiftなどによって実現していく。
支援サービスとしては「APIインテグレーションディスカバリーセッション」を用意しており、お客さまのコアビジネスのバリューチェーンとITの関係性やパートナーと顧客などとの関係性を洗い出すことにより、インテグレーションポイントでの課題の発見を支援するサービスである。また、API活用部分では「APIストラテジーディスカバリーセッション」を用意している。API活用する上でAPIの提供価値や方向性を明確にし最適なAPI戦略を支援するものだ。
アプリケーションモダナイゼーションでは、業務アプリケーションにおけるルールの早期変更、複雑なルールの管理・可視化を実現するビジネスルール管理ツール「Red Hat JBoss BRMS」やOpenShiftを活用する。BRMSを利用することで「ルール」「プロセス」「データ」を分ける疎結合のアーキテクチャを実現でき、ルールの変更の容易さだけでなく、開発フェーズや運用フェーズなどで多くの効果がもたらされる。JBoss BRMSは国内No.1の実績を持つBRMS製品であり(参考:ITR Market View:システム連携/統合ミドルウェア市場2016)、豊富な導入事例からお客さまの導入メリットなど実際のビジネスに沿った支援が可能である。
レッドハットではデジタルトランスフォーメーションに積極的な海外企業に対して、これらのソリューションを既に数多く提供してきた実績があるという。例えばドイツ銀行では、他業種との競争が激しくなる中、アウトソーシングしていたソフトウェア部門の内製化を促進。開発・運用環境をコンテナ化して、リソースの利用効率が高まり、ニーズの変化への対応スピードも大幅に向上している。同行は2020年までに全サービスの85%のアプリケーションをコンテナ上で稼働させる予定だという。
オーストラリア最大のネット銀行であるマッコーリ銀行は、モバイルアプリのユーザー体験を継続的に改善できるよう、バックエンドを含むさまざまなアプリケーションをマイクロサービスアーキテクチャ化した他、APIサービスにより柔軟な連携を可能にした。さらに、複雑なマイクロサービスの運用管理をOpenShiftで行うことにより、ニーズの変化に合わせてサービスを1日に何度もアップデートできる仕組みを整えた。
顧客の価値観の変化はビジネスを短命化させ、変化への対応をますます難しくしている。先行する海外企業の取り組みからも分かるように、デジタルトランスフォーメーションのトレンドに対応し、自社ビジネスを存続、発展させ続けるためには、ビジネスとITの仕組みを抜本的に見直すことが求められているのだ。中澤氏は、「ビジネスとITが直結している、ということに対する理解が最も重要だと思います」と概観する。
「自社のコアビジネスを理解しているか、デジタルを理解しているか。そうした根本的なところから取り組みを進める必要があると感じています。その際、特に重要なのがマインドだと考えています。“正解がない”以上、新しい取り組みに挑戦して失敗しても、次の成功のための学びになったと認めるような文化を作っていく必要があります。弊社では、さまざまな実践手段の提供と適用を通じて、そうしたマインドを持ったエンジニアを強力に支援していきたいと考えています」
次回以降、DevOps、アジャイルAPIインテグレーション、アプリケーションモダナイゼーション、それぞれについて詳しく紹介していく。ぜひ参考にしてほしい。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2017年9月20日