脱VMwareがあぶり出した「オンプレ人材不足」なぜ深刻化? 現場で見えた“笑えない実態”:宮原徹のITインフラ現場ノート(2)
「脱VMware」を巡って現場を回る中で、もう一つ気になる問題が見えてきました。それはオンプレミスインフラを担う人材の不足です。背景には何があるのでしょうか。現場で見えてきた変化から考えてみたいと思います。
皆さん、こんにちは。日本仮想化技術の宮原徹です。「宮原徹のITインフラ現場ノート」、第2回は前回お話しした「脱VMware」、つまりVMwareの仮想化製品群からの脱却について、その後あらためて感じたことを少しお話ししたいと思います。
著者プロフィール
宮原徹(みやはら・とおる)
日本仮想化技術 代表取締役社長兼CEO。中央大学法学部法律学科卒。日本オラクルでLinux版Oracleのマーケティングに従事。2006年に日本仮想化技術を設立し、仮想化技術に関する情報発信やコンサルティングを手掛ける。
クラウドか、オンプレか
VMware製品群は、基本的にはオンプレミスインフラで使われています。一方で「Amazon Web Services」(AWS)などのクラウドサービスには、VMware製品群を利用できるサービスが存在します。こうしたサービスの存在自体は以前から知っていましたが、今回のVMware製品群のライセンス変更で、あらためて意識するようになりました。
私は「クラウドサービスを使うのであれば、クラウドサービスの流儀に従うのが普通だ」と考えてきました。そのため、こうしたサービスの価値がいまひとつ分かりませんでした。クラウドサービスに、いわば“オンプレミスインフラの流儀”をそのまま持ち込むように思えたからです。恐らくは「ハードウェアの調達やメンテナンスの手間を省きたい」「運用管理者のスキルをそのまま生かしたい」といったニーズに応える意味合いがあるのでしょうね。
実は今回のVMware製品群のライセンス変更では、私が見聞きする限り、こうしたサービスが話題になることは、あまりありませんでした。広く普及しているというほどではなかったのかもしれません。それでも「クラウドサービスでVMware製品群を利用する」というサービスが成り立っていること自体に、クラウドサービスとオンプレミスインフラの“境界”が曖昧になりつつあることを感じました。
「オンプレ人材不足」なぜ進む?
ここからが本題です。VMware製品群のライセンス変更の件で、いろいろな現場を見て回る中で、最も強く感じたのが人材の問題でした。オンプレミスインフラ、とりわけ仮想インフラを設計・構築できる人材が不足しつつあるのです。以前からうすうす感じていたことですが、現場でさまざまな話を聞く中で、あらためて実感しました。
大前提として押さえておきたいことがあります。それは、システムインテグレーター(SIer)やエンドユーザーの間では、既にクラウドサービスの利用が広がっているということです。
現在のインフラエンジニアが日常的に触れるのはクラウドサービスが中心であり、VMware製品群を使って仮想インフラを設計・構築したり、大きく手を加えたりする機会は限られています。新規導入はもちろん、VMware製品群を動かすノード(物理サーバ)を増設することもまれです。ハイパーバイザーをはじめとするITインフラの設定や構成を変更したりする機会も、ほとんどないでしょう。インフラエンジニアも、ITインフラを“作る人”というよりも、“使う人”に近い立場になっているのではないでしょうか。
このような状況ですので、VMware製品群を利用した既存の仮想インフラがどのように設計・構築され、運用されているのかは、現在のインフラエンジニアにとって“ブラックボックス”になっているはずです。「VMware製品群以外の仮想化製品に置き換えてください」と言われても、仮想インフラの設計や構築を経験したことがなければ、何から手を付ければよいのかが分かりません。日常的に触れているのはクラウドサービスが中心ですから、「KVM」をはじめとする、VMware製品群以外の仮想化技術・製品を知る機会もほとんどないでしょう。
エンジニアにとっては「基礎」が大事
現在「若手」と呼べる年代のエンジニアの皆さんは、物心が付いたころからPCや従来型携帯電話、スマートフォン、タブレットなどに触れてきた、いわゆる「デジタルネイティブ」世代(特に1996年生まれ前後の「96」世代)が中心です。使ってきた端末も、CPUやメモリなどのハードウェアリソースが潤沢にあり、アプリケーションをインストールするだけで、さまざまなことができる時代のものです。
CPUやメモリ、ストレージ、ネットワークといったハードウェアリソースがどのような役割を果たしているのか、OSがマルチタスクでどのように動作しているのかといった“原理原則”を意識しなくても、コンピュータを便利に使えてしまう――。こうした経験しかしてこなかった若手エンジニアは、「仮想化技術を活用したITインフラを設計、構築してください」と言われても、どうすればよいのかが分からないようです。というのも、仮想化技術はそもそもハードウェアリソースを有効活用するための技術だからです。
2025年後半から幾つかのシステムインテグレーター(SIer)で、仮想インフラの設計について入門的な話をする機会をいただきました。その際、若手エンジニアの皆さんは、仮想化技術を「古くて新しい技術」として捉えていたようでした。以前からある技術でありながら、学ぶ機会があまりなかったのでしょう。オンプレミスインフラか、クラウドサービスかを問わず、何らかの形でITインフラに携わるエンジニアの皆さんには、あらためて「コンピュータはどのように動くのか」という基礎の基礎から勉強してほしいなと思います。
インフラエンジニアの業務は、全体としてクラウドサービスへとシフトしており、「深刻なオンプレミスインフラエンジニア不足」が起きているのは事実のようです。足元では、いったんクラウドサービスに移したシステムを、再びオンプレミスインフラに戻す「オンプレミス回帰」の動きもあります。とはいえ人手不足ですし、オンプレミス回帰によってインフラエンジニアの分布が急速に変化することはなさそうです。少なくとも経験豊富なベテランの皆さんは、まだまだ楽はさせてもらえなさそうですね。
AI時代の開発でも同じことが起きる?
こうした「基礎が大事」という話は、ITインフラに限らず、システム開発にも当てはまるように思います。AIとの対話を通じてシステム開発を進める「バイブコーディング」がもてはやされつつある中、「プログラミング言語やコーディング手法は、もう学ばなくてもよいのか」という議論が広がっています。結論が出るのは先だと思いますが、いずれの立場であっても、システム開発の基礎として論理的思考力が欠かせないという点では共通しているのではないでしょうか。
私は、少なくともシステム開発に携わるエンジニアであれば、プログラミングの基礎は知っておくべきだと考えています。もちろんAIを使えば、プログラミングについて何も知らなくてもコーディングはできてしまいます。ただし、それを継続的なシステム開発につなげられるかどうかとなると、やはり話は変わるように思います。
「AIによって仕事が奪われる」といったことがIT業界でも言われています。一方で基礎を身に付けて、それなりに経験を積んできたエンジニアは、ITインフラの構築・運用でも、システム開発でも、まだ必要とされ続けるように思います。AIへの過大な期待に流されず、しっかりと基礎を固めて、自分なりの得意分野を築くことが大切だと感じています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
有隣堂が“高いVMware”をやめ、「面倒なHAクラスタ運用」さえもなくす その方法は?
ライセンス体系の変更でVMware製品群の利用を見直す動きがある中、有隣堂は“脱VMware”を実現しつつ、HAクラスタ運用も不要にする新たなITインフラを構築した。コストも、運用管理の負荷も抑えた具体策とは。
ITインフラ専門家の私でも、もうAIには勝てない――「Active Directory」障害対応をAIに丸ごと任せてみた結果
AIにメールや資料を書かせるのではなく、システムを変更できる管理者権限を渡し、ITインフラ障害の調査から対処まで任せたら、何が起きるのでしょうか。本連載「Microsoft MVP胡田のAI検証ラボ――情シス業務、AIにどこまで任せられるか」の第1回では、AIにActive Directoryの障害対応を丸ごと任せました。原因も調査手順も教えません。AIはどこまで自力で原因にたどり着き、どのようにシステムを変更したのか。実際の操作記録とともに検証します。
「IT部門って結局、IT“導入”部門だよね」と言われないために JUASが示すAI時代の役割
IT部門はシステムやツールを導入していればよい――。こうした認識のままでは企業の変革を支え切れないと、JUASは指摘する。調査結果から見えてきた、生成AI時代のIT部門に求められる役割とは。