猛暑の中、30秒に1件の注文をどうさばく?――“海の家”が最適なIT活用の実証実験場である理由:“海の家×IT”が生み出す価値とは(1/3 ページ)
海に行くと、さまざまなIT企業の“のぼり”が増えている。なぜなのか。2013年から海の家を運営しているセカンドファクトリーに、その理由を聞いた。
海に遊びに行くと、さまざまなIT企業の“のぼり”を見掛けることはないだろうか。海の家の運営に多くのIT企業が参入しているのだ。関係ないように思えるかもしれない「海の家」と「IT」だが、実は近年、海の家でもITの力でビジネスを拡大するデジタルトランスフォーメーションの“波”が起きているのをご存じだろうか。今回は、海の家がITによってどのように変わっているのかについて、実際に運営しているIT企業に取材した。
IT企業がなぜ“海の家”を運営するのか?
セカンドファクトリーがプロデュースする海の家「SkyDream Shonan Beach Lounge」が、江の島東浜海岸にオープンし、注目を集めている。近年、楽天やレノボなど、さまざまなIT企業が海の家を展開しているが、同社は他社に先駆けて2013年から海の家を運営する事業をスタートし、2017年で5年目となる。なぜ海の家に取り組むことになったのか、その経緯についてセカンドファクトリー 代表取締役CEOの大関興治氏はこう語る。
「もともと当社は、飲食店向けのクラウド型オーダーシステム『QOOpa』を開発・販売しており、さまざまな飲食店舗にサービスを提供していた。QOOpaは、スマホやタブレットで使えるPOS/オーダーシステムのサービス。飲食店だけではなく競技場やスタジアムでも活用できるよう、現金着払いやBYODなどに対応してきた。そうした中で、QOOpaを生かして自社で新たな飲食店を展開できるのではないかと考えたのが、そもそものきっかけだった」
しかし、いきなり自社運営の飲食店を構えるというプランは、リスクが高過ぎると判断。そこで浮かんできたのが「海の家」だ。海の家であれば、夏の間、約2カ月の期間限定オープンで、万が一、失敗したとしても業績へのダメージを少なく抑えられる。また、期間限定ということで、新たなサービス開発に向けたPoC(Proof Of Concept/概念実証)を兼ねた場としても活用できると考えたのである。
さらに海の家に取り組むもう1つの狙いとして、従業員教育という側面もあったと大関氏は話す。
「ITビジネスは、サービス業だと思っている。これからは、単に仕様通りシステムを開発するだけでは、ビジネスでの成長は難しい。顧客のニーズに合わせて柔軟に対応できるサービスとして提案していくことが重要になる。こうしたサービス業への意識改革を促すために、顧客と直接やりとりをする海の家に携わることには大きな意味がある」
こうして2013年に実施した海の家は無事成功を収め、この実績を踏まえて、同年末には飲食店舗を開業した。ただ海の家は、ここで終わることなく、翌年以降も続く。
「海の家の運営を経験してみて、ITを活用したレストラン展開の実験場として非常に役に立つことを実感した」からだ。
海の家には、わずか2カ月間で延べ2万人が訪れ、ピーク時には30秒に1件のオーダーが入り、売り上げも通常のレストランの約3倍に達したという。
「短期間で、これだけの来客とオーダーが集中するのは、海の家ならでは。この環境を生かして、さまざまな顧客データを収集・分析し、IoTや機械学習などいろいろと試してみたくなった」
2年目以降の海の家の取り組みには、さまざまなITベンダーが注目。セカンドファクトリー1社での展開にとどまらず、続々と協賛パートナーが加わり、“IT×海の家”の新たな可能性が広がっていった。この背景には、やはり海の家という特殊な環境下におけるIT活用の実証実験の場としての意味合いが大きい。
例えば、ハードウェアベンダーにとっては、炎天下の過酷な環境での耐久性の検証。ソフトウェアベンダーは、短時間に大量に集中するトランザクション処理の検証。BIベンダーは、膨大な顧客データを分析・可視化することでの新たな知見の発見などだ。
「約2カ月間という短い期間だが、ここで取り組んだことが将来的に大きなビジネス成果につながる可能性もある。各社とも、通常の店舗とは異なる海の家でのPoCを通じて、新しい価値の創造に期待している」
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