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受験勉強に学ぶ、デジタル時代のSLAのあるべき姿〜「とにかくシステムを止めるな!」にうまく対抗する方法〜久納と鉾木の「Think Big IT!」〜大きく考えよう〜(6)(3/3 ページ)

今回は、IT部門が同じ企業内のビジネス部門と、SLA(サービスレベルアグリーメント)を通じてより良い関係を築くにはどうしたら良いか? 特に上級マネジャーにどう対峙したら良いか? を一緒に考えてみたい。

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SLA、ありちがな失敗と注意点

 いくつかSLAについての注意点も併せて述べておきたい。

 SLAではペナルティを設定すべきではない。あったとしても次の合同宴会で特別な出し物を披露する罰ゲーム程度のもので良いというのが筆者の見解だ。どちらか一方が他方に対してペナルティを課した場合に、ペナルティを課せられた側はその後気持ち良く仕事ができるだろうか? いつかきっとやり返してやるなどと考えてしまうのではないだろうか?

 SLAと契約書が混同されるケースが多い。外部のITベンダーとの間で交わされている約束をSLAと理解している場合がある。特に外部MS(マネージドサービス)などを利用している場合だ。しかしこれはSLAとは違う。企業間で交わされるので契約書だ。瑕疵責任や賠償責任などが記述されるし、法律用語が使われ法務レビューも入る。請求や支払いの根拠となるので、その根拠となり得る計測項目が何十、何百と羅列される。

 そもそも、発注側のIT部門と外部ITベンダーとのIT同士の契約であって、ビジネス側の責任者が関わることはほとんどないし、また理解できる内容でもない。つまり、今回述べたビジネスとITの融合を目的としたものではない。ITサービスマネジメントの中ではこの種の契約書をUC(Underpinning Contract:請負契約書)として定義している。一般的に出版されているIT解説書籍などではSLAとUCの区別が不明確な場合が多々あるので注意が必要だ。

 さらにOLA(Operational Level Agreement)とも混同されがちだ。OLAはSLAを有効確実にするためにITシステム/サービスを構成する複数のIT部門同士で交わされる合意書のことだ。生産管理システム/サービスを例にすると、このサービスを提供するためにはデータセンターのようなオペレーション、セキュリティの管理チーム、ネットワークチームその他が関わらなければサービスは提供できないわけだ。そこで生産管理システム/サービスに関連するIT部門同士で、そのSLAを有効確実にするためのお互いの責任やオペレーションのルールなどを合意するのだ。

 注意点の最後はIT部門の可視化。SLAを策定するためにはまずIT部門自体の可視化が必要だ。自らのオペレーションの状況が確認できないようではビジネス側に信頼されることはないだろう。SLAを策定するレベルまでITオペレーションをモダナイズ(Modernize/近代化)することが必要なことも理解しておいていただきたい。これについては別の機会に述べたい。

 今回はSLAについて採り上げた。SLAはビジネス側の上級マネジャーとより良い関係を築く第一歩であり、優れたSLAは工数的、コスト的に効率的なオペレーションを実現し、ビジネスとITの融合を後押ししてくれる。「あなた」が貴社で主導的な役割を担い、SLAをうまく使って、近い将来ITを活用したビジネスイノベーションを起こすことを願っている。

 なおITとは全く関係のない話だが、筆者は高校時代ラグビー部に所属しており、素早いパス回しが華のバックスのポジションを担っていた。高校時代の多くの時間をパスの練習に費やし過ぎたせいか、大学入試をパスミスし、見事に1年間浪人生活を送ったことを付け加えておこう。

著者プロフィール

久納 信之(くのう のぶゆき)

ServiceNow ソリューションコンサルティング本部 エバンジェリスト

米消費財メーカーP&Gにて長年、国内外のシステム構築、導入プロジェクト、ITオペレーションに従事。1999年からはITILを実践し、ITSMの標準化と効率化に取り組む。itSMF Japan設立に参画するとともにITIL書籍集の日本語化に協力。2004年からは日本ヒューレット・パッカード株式会社、その後、日本アイ・ビー・エム株式会社においてITSMコンサルタント、エバンジェリストとして活動後現在に至る。「デジタルビジネスイノベーション=サービスマネジメント!」が標語・座右の銘。EXIN ITILマネージャ認定試験採点を担当。著書として『アポロ13に学ぶITサービスマネジメント』『ITIL実践の鉄則』『ITILv3実装の要点』(全て技術評論社)などがある。

鉾木 敦司(ほこき あつし)

ServiceNow ビジネス推進担当部長

日本ヒューレット・パッカード株式会社に19年間勤務。顧客システム開発プロジェクト、ハードウェア・プリセールス、ソフトウェア・プリセールス、プリセールス・マネージャー、ソフトウェアビジネス開発に従事。2017年より現職。一男三女の父であり、30年後も多くの日本企業が世界中で大活躍する野望実現のため、サービスマネージメント・プラットフォームの重要性啓蒙活動にいそしむ。電気情報通信学会発表論文に『OSS市場と市販製品の動向-市場成熟度が製品シェアに与える影響』がある。


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