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エンジニアが生き生きと働ける「まっとうなアジャイル開発」を――永和システムマネジメントチームの変化に喜ぶ経営者も増えてきている(2/2 ページ)

ITの力を使った「コト」作りが差別化の源泉となっている今、ビジネスはまさしく「ソフトウェアの戦い」に変容しつつある。そうした中にあって、アジャイル開発は企業の成長を支え、変革をもたらすドライバーになり得るのか。15年以上にわたってアジャイル開発の手法を使って多くの企業を支援してきた永和システムマネジメントに話を聞いた。

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経営者の思いが現場に届いていない

編集部 プロダクトオーナーの権限の話もありましたが、プロダクトオーナーも現場のエンジニアも、全員が主体性を持つことが重要なのですね。

木下氏 はい。その意味では、現場に任せきりにせず、経営者が積極的に現場に関わっていくことも必要です。以前はアジャイル開発を始めるときに経営者にどう説明するか、どうやって説得するかがテーマになることが多くありました。ただ最近は、経営者もセミナーに参加したり競合他社の取り組みを見たりして、アジャイル開発の効果やメリットをよく理解されています。問題は経営者の思いがうまく現場に届いていない例が多いことです。

 その結果、経営者が考えていることと現場のミドル層やリーダー層が考えていることにギャップが生まれている例も少なくありません。例えば、「経営者は社員のモチベーションアップを期待していたのに、現場はコスト削減を目指していた」ケースもあります。

 ではなぜそうしたギャップが生じてしまうのかというと、経営者が方針を示しただけで現場と一線を引いてしまうことが多いためです。経営者がアジャイル開発に取り組む目的を伝えず、セミナーで聞いてきたからとか競合他社もやっているからということで「うちの会社でもアジャイル開発に取り組むべし」という指示だけど終わってしまう。そうすると、権限を持ったプロダクトオーナーが「権限を本当に行使していいのか」と右往左往したり、経営者に何か協力を求めに行っても動いてくれなかったりということも少なくありません。

編集部 ただトップダウンで命令すればできるものではないということですね。というよりも、ウオーターフォール型のコマンド&コントロール文化から抜けきっていない。現場もプロダクトオーナーも主体性を持つとともに、経営者も進んで関与するスタンスが不可欠なのですね。すなわち、社内の業務慣習や文化を刷新する取り組みだけに、貴社が継続的にサポートすることも必要になってくると。

木下氏 はい。当たり前の話ですが、スクラムマスターやプロダクトオーナーといった役割だけ与えられても、これまでの仕事のやり方を変えられないという場合がほとんどですから、われわれが中に入って普及や教育を進めていきます。チームの全体会議に経営者に来てもらったり、現場の雰囲気を見てもらったり。そうすることで経営だけではなく、現場の雰囲気も変わって、ギャップが解消されていきます。逆に、対等に話ができなかったり、「上に言われたからやる」という雰囲気のままだったりする状況では、プロジェクトはほぼ失敗します。

「ソフトウェアを作っていく」ことは「人を作っていく」こと

編集部 実際にプロジェクトを進めるときのポイントは何でしょうか。

木下氏 1つは、開発チームと顧客との間で直接話をする機会を多く作ることです。最終的にはプロダクトオーナーが判断するわけですが、その前に、実際に「自分たちがどういうものを作るか」「何を解決しようとしているのか」などをしっかりと伝えられるようにします。

 また、開発チームのリーダーだけではなく、メンバーも顧客との打ち合わせに参加して、顧客の欲しいものを理解していきます。細かい例になりますが、朝会やふりかえり、プランニングのときに、ファシリテーターを持ち回りにするといった簡単なことをやるだけでも、全員が主体的に関わっていこうという意識が芽生えてきます。

編集部 開発が進むと、抵抗勢力との闘いや部門間での連携も課題になると思います。どう対処すればいいのでしょうか。

木下氏 人を巻き込んでいくことが解決の糸口です。われわれはよく「ぜひチームに入ってきてください。一緒にやりましょう」と話を持ち掛けています。例えば、製造業では、品質管理部門に重厚長大なプロセスが残っている場合がよくあります。品質管理部門の人にとっては品質が最優先事項かもしれませんが、製品の価値を最大化するという視点で見た場合はそうとは一概に言えないことが多いです。

 チームに参加することで、部門間の壁を取り除き、他のプロジェクト関係者が何を考えているかを知るきっかけになります。品質管理部門を例にあげましたが、チームに入ってもらうメンバーは会社によってさまざまです。

編集部 いわば関係者全員の主体性の醸成が重要なのですね。

木下氏 そうですね。特に現場のエンジニアは、自分のことだけではなく、「チームにどんな問題があるか」をきちんと言えることがとても重要です。チームの中に課題を見つけたのに、「これは自分の範囲じゃないから言わなくてもいい」ではなく、自ら手を上げてチームの問題として一緒に解決策を探っていく。実は、コーチという立場で現場に入っていて、経営者にレポートして最も喜ばれるのは「Aさんの声が大きくなった」「Bさんの発言する回数が増えた」といった個人の主体性に関することなんです。

 経営者は生産性やコストのような数字しか見ていないというのもよくある誤解です。私が出会った経営者の多くは、チームの雰囲気が会社全体の雰囲気を変えることにつながると気付いていらっしゃいました。ソフトウェアを作っていくことは人を作っていくことです。ソフトウェアはまだ機械によって自動的に生み出せるものではありませんから。そして人を育てていくことは企業の大きな資産になります。最近も、チームはまだ具体的なプロダクトを生んでいなかったのですが、人の成長や変化を経営者の方が見て「変わったね」と満面の笑みを見せられたことがありました。

エンジニアが生き生きと働ける「まっとうなアジャイル開発」を

木下氏 その意味で、何より大切なのは自分たちの現場に合わせて、自分たちの目的のために、さまざまな方法を試し、自分たちのものにしていくことだと思います。もちろんアジャイル・スクラムの標準的な方法論やフレームワークもありますが、アジャイル開発やスクラム開発の採用はゴールではなく、スタートなのです。開発のやり方をより良くし、現場をより活性化し、自分たちの目指すゴールに納得して当事者意識を持って取り組む。そうした体制や文化を形作る方法として最適なのがアジャイル開発だと考えています。

 最も重要なことは楽しむことです。「アジャイル開発の研修を2日間受けたから大丈夫」ではなく、そこで学んだ方法論を現場に合わせて、自ら工夫していくことが大切です。よって弊社が支援する際も、決まったやり方を押し付けるのではなく、自分たちで考えて気付くこと、自分たちか試行錯誤しながら工夫していくこと、自分たちが見つけたやり方で楽しんでやっていくことを大事にしています。

編集部 アジャイル開発のポイントは「エンジニアがいかに生き生きと働くことができるか」にあるように感じます。

木下氏 そうですね。われわれは「まっとうなアジャイル開発」と呼んでいます。「何が“まっとう”か」というと、いろいろあるのですが、「現場が楽しくなかったら“まっとう”じゃない」といった思いは強いです。疲弊しながら開発して、開発する目的もかなえられないなら不幸です。チームに関わる全員が自分たちのプロダクトを作っているという意識を持って、自律的に生き生きと働くことができれば、アジャイル開発はさらに広まっていくでしょう。

 永和システムマネジメントは、試行錯誤しながら15年以上アジャイルに取り組んできましたが、まだまだ課題やアジャイルに対する誤解も多いと感じています。エンジニア、そして、企業が生き生きと“まっとう”にソフトウェア開発に取り組んでいけるよう、これからも支援したいと思います。

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