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メルカリ ビジネスディベロップメントに聞く、体験価値をスピーディーに生み出せる本当の理由「われわれはディスラプターだ」などと考えたことはありません(1/2 ページ)

各業種でITサービス開発競争が活発化している。ただ「優れたユーザー体験をいかに迅速に開発・提供するか」というとテクノロジーに閉じた観点になりがちなものだが、この競争に勝つためには、サービス企画全体を俯瞰する視点、取り組みが不可欠となる。では具体的に、価値あるサービスを作るためにはどのようなスタンス、取り組みが必要なのか? メルカリ 事業開発部 部長 小野直人氏に話を聞いた。

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「自社だけ」「テクノロジーだけ」では「新たな価値」は生み出せない

 業種・業態、B2C・B2Bを問わず、ITがビジネスに深く溶け込んだ近年、ビジネスはソフトウェアの戦いに変容しつつある。ニーズに応じて新たな価値を創造する「企画力」と「スピード」が差別化の一大ポイントとなり、内製化やアジャイル開発に取り組む企業も増えてきた。ITはコストでありノンコア業務であるという考え方や、開発・運用業務を外部に丸投げするといった慣習も着実に見直されつつあるようだ。

 ただ、「新たな価値」を作るためには、言うまでもなく多様な要素が必要となる。ニーズの変化に応え、これまでになかった利便性を生み出すためには、むしろ自社内の既存ビジネスを改善・アレンジしたり、組み合わせたりするだけで事足りることの方がまれだろう。例えばECに組み合わされた決済/配送サービスのように、社外の利便性を巻き込むことで自社サービスの利便性を際立たせるアプローチが不可欠なことは、金融、流通、小売りをはじめ、各業種のX-Tech事例を見ても明らかだ。

 一般に、「ソフトウェアの戦い」「ITサービス開発競争」というと、どうしてもITの世界に閉じた視点になりがちなものだ。しかし今求められているのは、「決められたものをいかに早く作るか」ではなく、「ビジネスモデルも含めたサービス全体を、いかに早く設計・実現するか」だ。そのためには、一体どのような組織、役割、スキルセットが必要なのだろうか?――グローバルで顧客を開拓し続けているメルカリ 事業開発部 部長 小野直人氏に、同氏が務める「ビジネスディベロップメント」という役割について話を聞いた。

「お客さま体験」に特化する形で会社が成り立っている

編集部 昨今、AIやVR/ARなど、テクノロジーを使った自社ビジネス/サービスの差別化に多くの企業が関心を寄せています。一方で、新しい技術をどう使っていいか分からないという企業も多いようです。ITを使ってより良い体験価値を実現する、昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)と呼ばれるトレンドを小野さんはどうご覧になっていますか。

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メルカリ 事業開発部 部長 小野直人氏

小野氏 DXという言葉を「ITでより良いお客さまの体験価値を生み出すこと」と解釈するなら、個人的には、少なくともインターネットが一般化し始めた20年前からその波は来ていたと思います。特に弊社の場合、ベースの事業がC2Cのコマースですから、いわばDXありきのサービスです。私がNTTドコモ、アマゾン ジャパン、メルカリというキャリアを経ていることもあると思いますが、DXの実現を考えない状況というものがそもそも想像できません。

 ただAIなど、新技術の活用法が最初から分かっているわけではないのは弊社も同じです。しかしテックカンパニーとして先陣を切って新しい要素技術に光を当て、どんどん世に出していかなければならないという強い使命感があります。そこで研究開発組織「R4D」で、より良いお客さま対応の実現や、不適切な出品物の検知など、サービスへの適用法を検討しているのです。

編集部 メルカリでは「ソフトウェアエンジニア、企画者、経営が同じテーブルに着く」といった創業時からの文化があります。このように技術とビジネスが密接に結び付いていることを「Web系だから、ITとビジネスが直結しているのは当たり前」と見る向きもありますが、テックカンパニーである以前に、「ユーザー体験を最重視しているため」ということが大きいのでしょうか。

小野氏 そうですね。研究開発部門を持ち、要素技術に早めに投資をするのも、「お客さまの体験をより良くすることに敏感であるため」といえると思います。もちろん“敏感”であるのは研究開発部門だけではなく、全社員も同じです。技術とビジネスの関係でよく説明されるのは「マーケットイン/プロダクトアウト」の話だと思います。しかし現在は、“顧客自身も求めているものが明確には分からない”中で、価値を創造しなければならない時代です。そのような旧態依然とした対立構図がもはや成立しない以上、各部門の人間がそれぞれの視点で「より良いお客さまの体験」を考える必要があります。

 そうした文化について、社内では「プロダクトドリブンな会社」という言い方をしています。全ての組織はプロダクトのため――すなわち「お客さまの体験」のためにあり、会社自体が「お客さまの体験」という目的に特化した形で成り立っているという考え方をとっているのです。

開発でも新規事業開発でもない「ビジネスディベロップメント」とは何か

編集部 そうした中、小野さんのビジネスディベロップメント(以下、BizDev)の部署ではどのようなことを行っているのでしょうか。

小野氏 ブロダクトをバリューアップするためには、内部のアセットだけではなく、外部パートナーとのアセットを使うことも必要です。代表的なものは決済や配送ですね。そのために外部パートナーとアライアンスやパートナーシップを締結して、ビジネス部門としてプロジェクトを統括するのがわれわれBizDevの主な仕事です。具体的には、案件開拓から、スキーム設計、Financial Impact分析、プロセス設計、経済条件の交渉、契約の締結、開発、プレス対応、CS(カスタマーサポート)といったプロジェクトの一連のパイプラインに一貫して携わります。

 案件開拓によって"弾込め"をし、全体のスキーム設計をした後は、Financial Impact分析なら経理や財務部門と一緒に、ビジネスプロセス設計ならCSや経理部門と一緒に、といった具合に、各分野の専門部署と共にプロジェクトを動かしていきます。われわれBizDevとしては、その過程で外部パートナーとの価格交渉が必要になれば、営業交渉的な業務も担いますし、契約に落としてからの開発フェーズでは、プロデューサー、エンジニアと共に開発に取り組みます。われわれがコードを書くわけではありませんが、プロダクトを企画した立場として、「何を実現するか」といった設計の観点から開発の支援やバックアップを行うのです。サービスをデプロイした後はPR部門と共に広報に取り組みます。

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案件開拓からサービスのリリースまで、必要な人、リソースを巻き込みながら一連のパイプラインをスピーディーに運用する

 とはいえ、“弾込め"以前の段階では、経営、企画、開発者などが一緒になってアイデアを出し合うのが通例になっています。物理的にテーブルを囲むこともあれば、Slack上でネタが飛び交う場合もある。最初に設計するスキームと比べるとふわふわとした話ですが、一個人、一部門だけが考えるのではなく、みんなで考える。これがメルカリの文化なのです。

編集部 サービス提供までのパイプライン自体は、一般的な企業の場合とさほど変わらないと思うのですが、リリースまでの期間はどのくらいなのでしょうか。

小野氏 リードタイムはケースバイケースですが、"弾込め"に時間のかかるものは最長で2年ほど、短ければ3カ月が平均です。ただ、リリースして終わりではなく、その後が重要ですから、段階的にブラッシュアップを加えていきます。

 1つの特長はCSを内製化していることです。お客さまの声が本社にリアルタイムに入ってくる。それを開発部門に引き渡すためのCSX(カスタマーサービスエクスペリエンス)という専門部署があり、お客さまの声を高速にプロダクトに反映できる体制としています。お客さまの声が開発者に通じるよう、CSXのメンバーがトランスレートして伝えるのではなく、開発者自身がCSXにいる。つまりエンジニアが直接、顧客の声を聞いて必要な機能を作っているのです。改善すべき機能の優先順位付けなども、社内で情報共有しながらCSX主導で決めています。

 2018年2月27日に発表したばかりの共同運用型シェアサイクルサービス 「メルチャリ」もそうして世に出したものです。ヤマト運輸さまとの「らくらくメルカリ便」、日本郵便さまとの「ゆうゆうメルカリ便」、本・CD・DVD、ゲーム専用フリマアプリ「メルカリ カウル」、ブランド品専用フリマアプリ「メルカリ メゾンズ」も同様です。

参考リンク:共同運用型シェアサイクルサービス 「メルチャリ」

編集部 業務内容は非常に多岐にわたるのですね。

小野氏 私はよく「総合格闘技」と言っています。基本的に全ての部門と関わるので、経理や財務を分かっている必要がありますし、セールスコミュニケーションの素質も必要です。コードを書くスキルはなくても、エンジニアとコミュニケーションを取る知見も不可欠です。何より重要なのが、「お客さまがサービスをどう使うのか」というお客さま目線を常に持つこと。メルカリでは自分たちのサービスは必ず自分たちで使いますし、他社のサービスも進んで使っています。そうしたマインドセットも重要です。メンバーは、2年前は私1人でしたが、現在は6人で(2018年3月現在)、さらにチームを拡充しているところです。

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