デジタルトランスフォーメーションを支えるハイブリッド統合プラットフォーム(HIP)とは:Gartner Insights Pickup(68)
組織はデジタルトランスフォーメーションにおいて、特定タスク向けのツールからハイブリッド統合プラットフォーム(HIP)に移行する必要がある。ばらばらな部品を組み合わせるだけでは、ビジネス上重要なインパクトをもたらせないことが見えてくるからだ。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
デジタルトランスフォーメーションを行うことは、あこがれの新車に買い替えるようなものだ。スマートな新しい外観や燃料効率向上、高スピードに注意が向かう。だが、ボンネットの中は見ないことが多い。車を動かすエンジンがそこにあるにもかかわらずだ。
ボンネットの中を見ることは、デジタルトランスフォーメーションを担うアプリケーションリーダーにとって不可欠なステップだ。アプリケーションリーダーは、アジリティや収益性の向上、収入源の拡大をどう実現するかに知恵を絞らなければならない。こうした目に見える成果の土台となるのが、さまざまな技術的取り組みを結び付ける重要な統合作業だ。これが構成要素の総和を上回る総出力、つまりビジネス結果を生み出す。
「2020年まで、統合作業はデジタルプラットフォームの構築にかかる時間とコストの50%を占めるだろう」と、Gartnerのリサーチバイスプレジデント兼フェローを務めるマッシモ・ペッツィー二氏は見る。
「さらに、デジタルトランスフォーメーションがもたらす複雑な問題に対処するには、統合のための技術プラットフォームと組織における統合への取り組み方を、根本的に変えなければならない」(ペッツィー二氏)
複雑さの増大によりプラットフォームアプローチが必要に
例えば、ある組織が顧客の問い合わせに迅速に対応するため、人工知能(AI)機能を実装するとしよう。その場合、顧客データとのシームレスな接続が必要になるだろう。また、顧客向けのIoTシステムを導入すると、大量のエンドポイントから膨大なデータが継続的かつ高速に収集される。そうしたデータを処理するには、クラウドのストレージやコンピュートプラットフォームに移行する必要がある。これらへの移行はリアルタイム分析を可能にし、リアルタイム分析はAIシステムにビジネス洞察の向上や最適なビジネス結果の実現に貢献するフィードバックを提供するだろう。
ほとんどの場合、従来の統合ツールキット(特定タスク向けの統合ツールのセット)は、こうしたレベルの複雑さに対応できない。組織は、Gartnerが言うところの「ハイブリッド統合プラットフォーム(HIP:Hybrid Integration Platform)」に移行する必要がある。HIPは、組織内における多様なデジタルトランスフォーメーションの取り組みのスムーズな統合を保証する、全ての機能の技術基盤だ。
HIPの導入に伴い、このプラットフォームに合わせて組織モデルも変更する必要がある。IT部門が管理する従来の中央管理型の統合チームとその“統合工場”モデルは、HIPに対応したセルフサービスの統合をサポートするアプローチに変わらなければならない。セルフサービス統合を担うのはビジネス部門、子会社、アプリケーション開発チーム、そして究極的にはビジネスユーザーだ。
ハイブリッド統合プラットフォームとは?
多くの場合、統合戦略やインフラのモダナイズに責任を持つアプリケーションリーダーは、既に既存ツールを拡張し、クラウドサービスやモバイルアプリ、IoT、AIベースシステムの統合をサポートしている。そのために一般的に使用されている技術には、iPaaS(integration Platform as a Service:サービスとしての統合プラットフォーム)や、API管理プラットフォームなどがある。
このiPaaSとAPI管理プラットフォームの組み合わせは、両者が連携するように構成して導入、管理すれば、HIPの実装の核になり得る。だが、大抵の場合、こうした“プロトHIP”は機能が不足しており、極めて困難な統合課題は解決できない。
真のHIPは、以下の4つの次元を全てカバーし、サポートしなければならない。
- ペルソナ(統合担当者):統合スペシャリスト、アドホック統合担当者、“市民”統合担当者(ビジネス部門に属し、統合に関する業務を兼任する担当者)、デジタル統合担当者
- 統合分野:アプリケーション、データ、B2B、プロセス
- エンドポイント:オンプレミスデバイス、クラウド、モバイルデバイス、IoTデバイス
- デプロイモデル:クラウド(複数環境にまたがる可能性がある)、オンプレミス、ハイブリッド(クラウドとオンプレミス)、IoTデバイスへの組み込み
HIPへの移行の道のり
「適切なHIP戦略を立てるにはまず、組織内で既に使用されている統合機能が、上の4つの次元をどの程度サポートしているかを分析するとよい」と、ペッツィー二氏はアドバイスする。
「次のステップは、今後12カ月、3年、5年の3つのスパンで、組織の統合ニーズを予測し、定義することだ」(ペッツィー二氏)
比較的簡単に思えるかもしれないが、デジタル化が進む中では、IT関連の取り組みに対するIT部門の統制がこれまでより効きにくくなる傾向があることを念頭に置くことが重要だ。以下のような現代的なシナリオを考えると、将来の統合の要件を予測するのは容易なことではない。
- R&D(研究開発)部門がIoT技術を実験する
- 人事責任者がSaaS型の人材管理アプリケーションで情報を探索する
- マーケティングディレクターがデジタルエージェンシーを使って、ロイヤルティー管理アプリケーションを実装する
- 取締役会が、機械学習や高度なアナリティクスの推進を担う独立したデータアナリティクスセンター(最高データ責任者[CDO]が統括)を設置する
これらの取り組みでは、いずれも基幹ITシステムとの何らかの統合が必要になる。ことによると相互の統合が必要になるかもしれない。IT部門がこれらの取り組みにほとんど関与していないとしても、あるいはこれらを認識すらしていないとしても、だ。HIPが威力を発揮するには、IT部門がサイロを打破し、将来の要件を現実的に検討することが重要だ。
「以上が、あなたの組織にHIPが必要な理由と、HIPの計画を始める方法の基本的な説明だ。HIPへの移行は、孤独な取り組みではないだろう。Gartnerは、『2022年までに大企業の少なくとも65%が、デジタルトランスフォーメーションを支える基盤としてHIPを実装しているだろう』と予想している」(ペッツィー二氏)
出典:Use a Hybrid Integration Approach to Empower Digital Transformation(Smarter with Gartner)
筆者 Rob van der Meulen
Manager, Public Relations
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