宮島のストレスフリー観光、AIでどうやって実現する?――ひろしまサンドボックスが作る地方創生とITのちょっといい話:広島×産業×IT(前編)(2/2 ページ)
中堅中小企業が1社でITを活用するのは人的にも予算的にも難しい――そのような中堅中小企業に対して地方自治体はどのような取り組みを行っているのだろうか。広島県が企業にITを浸透させるために行った取り組みを紹介する。
世界遺産の厳島神社を擁する宮島におけるストレスフリー観光
2つ目に紹介するのは「宮島エリアにおけるストレスフリー観光」だ。このプロジェクトは、西日本電信電話(NTT西日本)広島支店が代表を務め、廿日市市、宮島観光協会、脇谷直子氏(広島修道大学)、富川久美子氏(広島修道大学)、ウフルという、産学官が一体の体制でコンソーシアムを構成している。
広島県の観光名所である厳島神社が世界遺産に登録されたこともあり、宮島と宮島口は、繁忙期になると世界から観光客が押し寄せる。特に宮島は文字通り“島”であり、人や車のキャパシティーが限られてしまい、渋滞が多発していた。もし道路や観光スポットで渋滞が発生すると、観光客は待ち時間が増えてしまい、お土産などの消費に費やす時間が減ったり、消費が減退したりする可能性があった。
同プロジェクトは、データやAI、IoTを駆使して混雑解消とストレスフリー観光の実現を目指す。具体的には、駐車場に車両検知センサーを設置したり、島内カメラ画像からAIで人数カウントを行ったりして、混雑状況や人流のデータを収集。それらのデータを基に、LINEで駐車場の満空情報を通知する仕組みや、宮島内の観光地の状況や人流予測から混雑状況をデジタルサイネージで見える化するシステムなどを開発し、車や観光客に対して混雑回避を促すという。
また、集めたデータを基に閑散期でも観光客に来てもらうための体験型イベントを考えるとのことだ。
「渋滞や混雑を解消し、ストレスフリー観光を実現することによって、お土産屋や飲食店に入りやすくなり、観光客の消費が増えると予測しています。また今回集めたデータを基に、新たなサービスを生み出せると期待しています。最終的には本プロジェクトで得た知見を、広島県内の他の観光地にも広げていき、観光全体を盛り上げていきたい」
工場ラインの「ちょこ停」阻止を目指すスマートものづくり
3つ目は、「つながる中小製造業でスマートものづくり」である。このプロジェクトは、デジタルソリューションが代表を務め、谷崎隆士氏(近畿大学)、津田製作所、小松金属、広陵発條製作所、近藤工業、アプストウェブ、広島県中小企業診断協会でコンソーシアムを構成している。
同プロジェクトは、予算やノウハウにより中小製造業が1社で取り組むのが難しい工場のIT化を支援するプロジェクトで、大きく2つのことを取り組む。
一つが、企業内や取引間の情報連携のデジタル化だ。これまで、企業内や企業と工場の情報交換手段が電話やメール、FAXとアナログだったため、リアルタイムでの生産状況の把握が難しかったり、データの転記やコピーでミスが発生したりしていた。また頻繁に起こる生産計画の変更に対して、人の力でしのいでいた。
同プロジェクトでは、その課題に対しコンソーシアムに参画している製造業の企業に情報連携ツールを導入し、データの一元管理を実現しようとしている。そして、情報連携ツールで集まったデータをクラウドに集めて、コンソーシアム内で共有し、生産計画を最適シミュレーションするAIを作るという。
もう一つが、IoTの設備稼働状況の見える化だ。工場のラインでは小さな故障でも、設備検査や部品の調達、交換に1週間程度かかり、その間、ラインが停止する「ちょこっと停止」(ちょこ停)が発生する。このちょこ停が頻発すると、生産計画が狂ってしまい、売上に影響が出てきてしまう。
そこで、コンソーシアムに参画している製造業企業の工場のラインにIoTデバイスを設置し、設備の見える化を行う予定だ。またIoTデバイスから収集したデータをクラウドに蓄積しながら、コンソーシアム内で共有し、分析して、設備の故障を予知するAIを作ろうとしている。
「本プロジェクトは、3年後にデータ連携による業務処理を倍化、工程最適化による20%納期短縮、故障停止時間の半減を目指します」
前編では、ひろしまサンドボックスで選定された3つのプロジェクトを紹介した。後編では、ひろしまサンドボックスの残りの2つと、「イノベーション・ハブ・ひろしまCamps」「ひろしまデジタルイノベーションセンター」を紹介する。
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