検索
連載

デジタルビジネスを阻害する6つの時代遅れの考え方Gartner Insights Pickup(171)

ビジネスのやり方に関する時代遅れの考え方が、新しいデジタルの取り組みを進める妨げになることがある。デジタルビジネスを成長させるには、新しいアプローチを取り入れるのが得策だ。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 英国のスーパーマーケットチェーンTescoは、アナリティクスを活用してサプライチェーンを効率化し、1億5000万ドルのコストを削減した。石油ガス大手のBPはIoTセンサーを活用し、年間70億ドルを節約した。Hersheyは機械学習とIoTにより、キャンディー1種類につき50万ドルのコスト削減を達成した。

 これらの収益改善事例には共通点がある。デジタルビジネスを成熟したアプローチで進めたことだ。これらの企業は従来のプロセスを単純にデジタル化するのではなく、最適化(サプライチェーンへの発注などの)や、それまではできなかったこと(IoTによる予測メンテナンスなど)を行うことで、プロセスを変更した。だが、デジタルの取り組みに関しては、目標設定が低すぎる企業があまりにも多い。

 「企業の60%はデジタルの取り組みが弱い」と、Gartnerのアナリストでディスティングイッシュト バイス プレジデントの、デーブ・アロン(Dave Aron)氏は指摘する。

 「CEO(最高経営責任者)の82%が、デジタルトランスフォーメーションを計画している。だが、ビジネスモデルを大きく変える必要性を理解しているCEOは、22%にすぎない」と、同氏は説明する。

 デジタルの取り組みが弱い一因は、旧態依然とした考え方にある。こうした考え方は、変革を実現するアプローチをリーダーが取り入れる妨げになる。デジタルプロジェクトを通じた成長を阻むとして、以下の6つが挙げられる。自社にこうした考え方が見られる場合は、それらを刷新し、デジタルを活用した成長に向けて全社を挙げた積極的な取り組みを推進する必要がある。

1:IT部門だけがデジタルに責任を持つ

 CxOは、デジタルアプローチを全社的に統合する方法についてのガイダンスを、CIO(最高情報責任者)に期待する傾向がある。CIOには果たすべき重要な役割があるが、マーケティング部門だけで顧客を担当するのと同様に、IT部門だけでデジタルトランスフォーメーションを進めることはできない。上級経営幹部が企業戦略を決定し、IT部門はビジネス部門とともに自部門としての優先事項を推進し、戦略を支えるのが任務だ。

 デジタルは、IT部門内や他部門内で自己完結するプロジェクトや取り組みではない。デジタル技術は、意思決定が行われ、リソースが配分され、従業員がそれらを利用し、協力して個々の仕事を行うに至るまで、ビジネスのあらゆる活動において重要な役割を果たす。

推奨:デジタルが自社にとってどんな意味を持つかに関する包括的な考え方を浸透させ、ビジネスリーダーにデジタルを、あらゆる意思決定や取り組みの一部と考えてもらうよう働きかける。

2:グローバルな地域的役割分担が固定されている

 地理的分業に関するステレオタイプな考え方――例えば、「東アジアは製造に適した地域」「インドはビジネスプロセスアウトソーシングに適した地域」といった考え方は時代遅れであり、企業の選択や行動を狭めてしまう。グローバル経済のダイナミックな発展は、富、人材、産業力を全世界に拡散している。成功するデジタル企業は、ビジネスの立地を創造的に考える。ステレオタイプな考え方にとらわれず、地理的な境界を越えて、成功の原動力となる人材やリソース、パートナーシップにアクセスする。

推奨:多極的世界観を持つ。チームの幅広い多様性を促進し、全従業員が多文化意識を持つよう投資する。

3:成長はコアビジネスから生まれる

 ストラテジストはかつて、既存のコアコンピテンシーを利用した商品展開やブランド展開によって有機的成長を追求した。デジタル能力とデータは成長の可能性を広げる。Amazon Web Services(AWS)が、Amazon.comの社内データセンターの担当部門からスタートして成長したように、レガシー企業もデジタル能力を構築し進化させることで、新しいビジネスラインを成長させることができる。

推奨:自社のデジタル能力とデータリソースによって機会が開ける新しい市場を探す。そうした新しい市場向けの補完的なスキルを持つ企業との提携を探る。

4:CXを自社のテリトリー内で考える

 企業は長年、顧客エクスペリエンス(CX)の提供に当たって、顧客による商品やサービスの利用にフォーカスしてきた。だが、ある商品のエクスペリエンスが終わり、別の商品のエクスペリエンスが始まる境界はあいまいになりつつある。人々が全体的なCXの一環として、物理プラットフォームおよびデジタルプラットフォームの両方とやりとりするようになっているからだ。

 自動運転車を例に取ろう。複数のオーナーが共有する自動運転車は、いずれは移動距離に応じて各オーナーへの課金が行われ、各オーナーは保険料や税金、燃料費、修理代などの負担分を請求されるようになると予想される。その支払いは口座から自動的に引き落とされるだろう。自動運転車が仕事に使われている場合、顧客にとってこうしたことは全て仕事の一部だ。提供企業にとっては、モビリティと保険やバンキングが関連することから、CXについての見方を広げることが必要になる。デジタルビジネスでは、こうした異なる産業にまたがるエクスペリエンスが一般的になるだろう。

推奨:CXの提供を、複数市場にまたがる統合された取り組みと考える。顧客の行動という観点から、機会を探る。分野の重なりは、顧客の実世界における行動の自然な結果だ。それを利用する機会を見つけるとよい。

5:企業の成功はプロセスのみにかかっている

 かつては、コアとなるビジネスプロセスの効率的な実行が、強力なパフォーマンスの決め手となった。いまだにプロセス指向の考え方に立つ企業は、ビジネス活動を予測可能かつ反復可能と見なす。これに対し、デジタルのマインドセットは顧客の課題を解決する機会が自然発生的に生まれることや、時にはそれが1回限りであることを想定に入れ、そうした機会を捉えることを目指す考え方だ。プロセス思考はデジタルコンテキストと全く無関係なわけではないが、顧客のニーズや行動に柔軟に対応できるプロダクトの提供が伴わなければならない。

推奨:プロセスを重視し過ぎると、硬直的なアプローチのせいで新しい機会を逃してしまう恐れがあることを周知する。プロセスチームとプロダクトチームを統合し、両チームの考え方を踏まえたデジタルプロダクトおよびサービスの設計を後押しする。

6:アジャイルの実践がアジャイルな組織を作り出す

 アジャイル開発を行うことで、ITチームは新しい機能を提供するとともに、新しいニーズが生まれたら迅速に対応できる。実証されたメリットに期待して、マーケティングやオペレーションのようなIT以外の部門がアジャイルを導入する動きも出ている。だが、それでもまだ十分ではない。アジャイルは、プロセスや機能のレベルで取り入れるだけでは効果が現れない。デジタルビジネスでは、組織全体にわたって戦略や文化、投資、その他の分野にアジャイルを適用する必要がある。

推奨:適応力の高い文化を育てる。これはリーダーのグロースマインドセットによって可能になる。取り組みに具体的に優先順位を付けるには、迅速かつ漸進的に成果物を作成することと、必要に応じて変わり、適応する能力とを促進するプロダクトマネジメントアプローチを導入する。

出典:6 Outdated Ideas That Harm Your Digital Business(Smarter with Gartner)

※この記事の原文は2020年2月に公開されており、その時点での世界の企業の状況を前提としています。

筆者 Laura Starita

Former Analyst, Gartner associate


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

[an error occurred while processing this directive]
ページトップに戻る