ベンダーはお客さんに逆らえないじゃないですかあ:コンサルは見た! 偽装請負の魔窟(3)(2/3 ページ)
偽装請負が横行する銀行の勘定系システム刷新プロジェクト。ベンダーのプロマネは契約外作業の依頼を止めてくれるよう銀行の担当者にお願いするが……。
データがない!
イツワのシステムセンターには、サンリーブス以外にも数多くのITベンダーが常駐して、新勘定系システムの開発作業を行っている。その中でもひときわ人数が多く、フロア内の特別にパーティションで仕切られたエリアで作業をしているのが「東通」だ。古くから日本のIT産業をけん引してきたこの会社は、イツワ銀行とももう40年以上の付き合いで、今回の開発でも中心的な役割を担っている。
翔子が田中と話してから1週間ほどたったころ、東通のプロジェクトエリアでは、現場のリーダーを務める岸辺和弘が開発用サーバの画面を見ながら首をかしげていた。
「信用スコアリングのテストデータって、このNCT001サーバにあるんじゃなかったっけ?」
昨今はどの銀行も個人客向けにカードローンサービスを行っており、その融資枠の決定には、対象顧客の預金額はもちろん、他社も含めた借り入れ状況や年収、持ち家などの資産の事細かな分析が必要だ。最近は反社会団体とのつながりなど、いわゆるバックグラウンドも調査をして検討の対象にしている。銀行はそれらを総合的に分析し、顧客の信用度合いをスコアリングしている。
岸辺のチームが担当する顧客の信用管理機能のスコアリングは、その進捗(しんちょく)が貸し付けや顧客管理をはじめとする、多数の他機能に大きく影響するシステムだ。
「いや、そこに入ってるはずですよ」
隣に座る堺幸也が岸辺のPCをのぞき込んだ。
「だって、ほら、何にもないよ。このフォルダも、その上も空っぽだ」
「ええ!」
堺の大きな声に、周囲のメンバーたちの視線が集まった。堺は岸辺のPCを自分の方に向けると、エクスプローラーであちらこちらのフォルダを探し回った。
「ちょっと待ってください。確かに、ここに……あれ?」
「ほら、ないだろ?」
「いや、だって、この前は確かに……おっかしいなあ」
「誰か、ここにあったテストデータ、どっかに移したか?」
岸辺は東通のメンバー全体に聞こえるように言ったが、皆「その場所にあったはずだ」「自分が見たときには何もなかった」などと答えるのみで、データの所在を知るものはいなかった。
「csvファイルが、全てなくなってる……」
堺のつぶやきに、集まったメンバーたちが黙り込んだ。岸辺は心臓の動悸(どうき)が激しくなっていくのを感じていた。
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