「永続ライセンス版Office」に新機能は追加されない、わけでもないようだ:その知識、ホントに正しい? Windowsにまつわる都市伝説(171)
「Microsoft Office」アプリは、「Microsoft 365」サブスクリプション製品と「Office Professional Plus」などの永続ライセンス製品があります。両者の大きな違いはライセンス体系と、新機能の継続的な提供の有無です。しかし、新機能の追加という点に関しては、曖昧になってきているところがあるような、ないような……。
いつの間にかOffice 2016でSVGやLaTeXが扱えるようになっていた
「Microsoft 365」(旧称、Office 365)サブスクリプションのOfficeアプリと、ボリュームライセンスやパッケージ版の永続ライセンス製品のOfficeアプリには大きな違いがあります。サブスクリプション製品のOfficeアプリは更新によって継続的に新機能が追加されるのに対し、永続ライセンス製品のOfficeアプリはリリース時に搭載された機能のまま、セキュリティ更新やバグ修正だけが提供されることです。
お使いのOfficeアプリがサブスクリプション製品なのか、永続ライセンス製品なのか、つまり「新機能の追加があるのか、ないのか」は、Officeアプリの「アカウント」ページ(Outlookの場合は「Officeアカウント」)に表示される製品名や「新機能」情報の有無で判断できます(画面1)。
本連載の第84回と第89回では、当時の「Office 365」のOfficeアプリに追加された「アイコンの挿入」「SVG画像(の挿入と編集)」「LaTeXの数式入力」などの機能を紹介し、「Office 2016」にはこれらの機能が提供されないことを説明しました。
- Office 2016の新機能が見当たらない? ライセンスと更新チャネルの話(本連載 第84回)
- Office 2016の新機能が見当たらない、再び――「LaTeX」のメニューはどこにある?(本連載 第89回)
なお、上記の記事での更新チャネル名称は2世代前のものです。記事中の「最新機能提供チャネル/Current Channel」「段階的提供チャネルの初回リリース/First Release for Deferred Channel」「段階的提供チャネル/Deferred Channel」は、それぞれ現在の「最新チャネル/Current Channel」「半期エンタープライズチャネル(プレビュー版)/Enterprise Semi-Annual Channel(Preview)」「半期エンタープライズチャネル/Enterprise Semi-Annual Channel」です。また現在は、「月次エンタープライズチャネル/Monthly Enterprise Channel」も追加されています。
ところで、筆者のメインPCは、Microsoft 365のOfficeアプリ「半期エンタープライズチャネル(プレビュー版)」を実行していますが、評価目的で「Office Professional Plus 2016」と「Office Professional Plus 2019」の「最新チャネル」の環境も維持しています。先日、Office 2016の「Word 2016」を使っていて、以前はできなかった「SVG画像の挿入」ができることに気が付きました(画面2)。上記記事の執筆時には利用できなかった機能が利用できるようになっていたのです。
サブスクリプション製品に追加された新機能はOffice 2019に搭載されて提供
サブスクリプション製品のOfficeアプリに追加されてきた新機能の一部は、Office 2019のリリース時に標準機能として搭載されました。新機能の一覧は以下のページで確認できます。「SVG画像の挿入」はその一つですが、Office 2019およびサブスクリプション製品のOfficeアプリではSVG画像の編集(図形への変換など)など、さらに機能が拡張されたものです(画面3)。
- Office 2019の新機能(Officeのサポート)
「Office 2019の新機能」ページでは、以下の12の新機能が紹介されています。このうちの幾つかはOffice 2016でも利用可能になっているようなのです。例えば、(1)(SVGの挿入のみ)、(3)(画面4)、(9)、(10)はOffice 2016でも利用できることを確認しました。
(1)視覚的なインパクトを加える(アイコンとSVG画像の挿入/編集)
(2)言語の壁を取り除く
(3)LaTeX数式のサポート
(4)[変形]で効果を追加する
(5)探している情報をズームで見つける
(6)デジタルペンを使用してスライドショーを実行する
(7)新しい関数(TEXTJOIN、CONCAT、IFS)
(8)最も重要なインク機能
(9)新しいグラフでデータを視覚化
(10)大きい数値(bigint)データ型
(11)タスクを簡単にリンク
(12)ひと目で分かるタスクの進捗(しんちょく)状況
もう一度、最初の画面1を見てください。Office 2016とOffice 2019のバージョン(2016や2019のバージョンのことではありません)、ビルドは共通になっています。コアのバイナリが共通なだけに、意図せず新機能がOffice 2016にも含まれてしまったのかと想像してしまいます。
ちなみに(1)に関する以下のヘルプを見ると、適用対象にOffice 2016のアプリは含まれていませんが、SVG画像の編集機能はOffice 2016にはないので矛盾しません。ただし、Office 2019アプリでも利用できるこの機能の説明に、「この機能を使用できるのは、WindowsデスクトップクライアントのMicrosoft 365サブスクライバーのみです」という注記があるのは気になります。
- Microsoft Office 365でSVG画像を編集する(Officeのサポート)(注:以前は「Office 2016でSVG画像を挿入する」)
また、(3)に関する以下のヘルプを見ると、適用対象にOffice 2016のOfficeアプリがちゃんと含まれており、こちらも実際と矛盾するものではありませんでした。
- WordでUnicodeMathおよびLaTeXを使用して行形式の数式を入力する(Officeのサポート)
Office 2016とOffice 2019のバイナリはほとんどが共通の上、サポート期間も「2025年10月14日」までと同じです(Office 2019は延長サポートの期間が2年に短縮されています)。そのようなこともあって、線引きというか、境界が曖昧になっている感じがします。適用対象に矛盾がないヘルプは、実は後から実情に合わせたなんて勘繰ってみたりして(根拠のない想像です)。
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2020-2021)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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