クラウド導入企業の失敗から学ぶ4つの教訓:Gartner Insights Pickup(181)
多くの企業では、一元的なITガバナンスがないまま、ビジネス部門レベルでクラウドの導入を進めてきた。インフラ/運用担当部署は、クラウド導入企業の失敗から学ぶことで、クラウドのリスクを軽減し、導入をスピードアップし、コスト削減を最大化できる。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
「クラウドのメリットとリスクは何か」「クラウドリソースの管理とガバナンスのベストプラクティスは何か」「クラウドを最も効果的に導入するには、ITチームをどのように編成すべきか」――。
クラウドは広く普及しているが、インフラとオペレーション(I&O)のリーダーの多くが、クラウドの取り組みを進める中でこれらの問いへの答えを模索している。これらは、クラウドを導入し始めたばかりの企業だけでなく、クラウドの展開を効率化、最適化しようとしている企業にとっても、重要な検討事項だ。
「多くの企業ではクラウドの導入決定は、一元的なITガバナンスがないまま、ビジネス部門のリーダーによって行われた。そのために非効率性が発生し、I&O担当部署は多くのクラウドベンダーを管理しなければならなくなっている」と、Gartnerのアナリストでシニアディレクターのミゲル・アンヘル・ボレガ(Miguel Angel Borrega)氏は指摘する。
「クラウド導入におけるこうした失敗を認識していない企業の80%は、2024年まで、20〜50%余計な費用を支払うことになるだろう」(ボレガ氏)
クラウドインフラに責任を持つI&Oリーダーは、これまでのクラウド導入企業の失敗から教訓を学び、クラウドリスクの軽減、導入のスピードアップ、コスト削減の最大化に応用することで、クラウドの成熟の恩恵を受けられる。
教訓1:全社的なクラウド戦略を進める
多くの企業はクラウドの取り組みを複数行っており、これらはそれぞれ異なる部門が主導している。こうした取り組みが全社的なビジネス目標と整合性が取れていない場合、クラウド展開を効果的に拡大できず、クラウドコンピューティングがビジネス戦略全体に貢献しない。
そこでまず、全社共通のガイドラインを定義したクラウド戦略文書を作成するとよい。この文書により、目標、メリット、リスク、主要な導入基準についての社内の見解を一致させる。これは、部門間での優先順位の食い違いに伴う遅れを防ぐのに役立つ。
I&Oリーダーは、クラウド戦略文書の作成をリードし、クラウドとその社内における役割について明確で具体的な見解を打ち出さなければならない。クラウド導入に伴って組織改革を行う場合は、その理由もこの文書に明記する。また、この文書については、プロジェクトスポンサーの役員からの支持も取り付けるようにする。この文書は、生きた文書でなければならないため、ビジネス要因、ベンダー市場、組織の目標の変化に合わせて更新していく必要がある。
教訓2:クラウドセンターオブエクセレンスを設置し、クラウドアーキテクトの役割を確立する
クラウドセンターオブエクセレンス(クラウドCoE)は、クラウドの導入ロードマップにおけるさまざまな段階の管理とガバナンスを担う。クラウドCoEの設置の遅れは、クラウド導入企業にありがちな失敗だ。クラウドCoEによる評価を経ずに展開したクラウド環境は、不安定な、あるいは信頼性の低いアーキテクチャとなり、再展開が必要になる恐れがある。
クラウドCoEは、社内において3つの主要な責任を負う。
- ガバナンス:クラウドコンピューティングポリシーを策定し、ガバナンスツールを選択する。
- 仲介:ユーザーによるクラウドプロバイダーの選択を支援し、クラウドソリューションのアーキテクチャを設計し、ソーシングチームの契約交渉とベンダー管理に協力する。
- コミュニティー:ベストプラクティスを発見、周知し、クラウドに関する自社の知識レベルを向上させる。
クラウドCoEには、クラウドアーキテクトを置く必要がある。クラウドアーキテクトは、クラウド戦略の定義に加え、主要なステークホルダーとの折衝に責任を持つ。クラウドアーキテクトに最適な候補は、組織内で尊敬を集めていて、ビジネスリーダーやCIO(最高情報責任者)と直接コミュニケーションを取ることができ、指導力も備え、クラウドの可能性を確信している人物だ。また、その人物は、クラウドの技術的スキルとクラウド導入プロジェクトの経験も持っている必要がある。
教訓3:最適なクラウドワークロード候補と最適なクラウドサービスプロバイダーを見極める
クラウドの実装で起こるほとんどの問題は、2つの重要ポイントに関連している。それは、どのワークロードがクラウドに移行するのに最適な候補かを見極めることと、それらのワークロードに基づいて、最適なクラウドサービスプロバイダーを選ぶことだ。
多くの企業は、少数の技術的基準のみに基づいて選んだアプリケーションやワークロードからクラウドに移行し始める。だが、I&Oリーダーは各アプリケーションについて、クラウド移行の技術的な実現性とビジネス価値の両方を検討して包括的な評価をし、どのワークロードならすぐにクラウドに移行してよいかを見極める必要がある。移行する戦略的必要性があるアプリケーションに絞って移行をすると、展開にかかる時間と労力を節約できる。
同様に、パブリッククラウドプロバイダーも、技術力のみに基づいて選んではならない。I&Oリーダーは、場所やビジネス要因も考慮する必要がある。例えば、パブリッククラウドプロバイダーから提供されるクラウドサービスやそのパフォーマンス、コストのレベルが適切ではないときは、その提供リージョンと他のプロバイダーと契約した場合の提供リージョンの間で比較検討をする。パブリッククラウドプロバイダーから提供されるクラウドサービスは、リージョンによって種類、料金、品質が異なることがあるからだ。
教訓4:クラウド利用の成熟度に合わせた管理手法を採用する
自社のクラウド利用の成熟度が高まるとともに、I&Oリーダーは、クラウドリソースのガバナンスと管理を進化させなければならない。クラウドに取り組み始めた企業が陥りやすい落とし穴は、これまでのオンプレミスのガバナンスや管理手続きが、クラウドリソースにも有効と考えてしまうことだ。
新しいリソースを既存のツールやポリシーに統合しようと試みてから、ガバナンスや管理の手法を変更すると、早くから変更した場合よりも時間、労力、費用がより多くかかる。クラウド管理を成功させるには、セルフサービスを可能にすることと、ガバナンスとのバランスを取る必要がある。
出典:4 Lessons Learned From Cloud Infrastructure Adopters(Smarter with Gartner)
筆者 Meghan Rimol
Senior Public Relations Specialist
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