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Windows 11への乗り換えに備えて管理者がいま「やれること」は?企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内(103)

Windowsの次期バージョン「Windows 11」をMicrosoftが正式に発表しました。Windows 11は2021年後半に利用可能になり、2022年前半にかけてWindows Updateを通じて無料アップグレードとして提供される予定です。

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「企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内」のインデックス

企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内

システム要件が厳しくなり、Windows 11にアップグレードできないPCも

 リーク情報などからうわさにはなっていましたが、Microsoftは2021年6月24日(米国時間)、「Windows 10」の次のバージョン「Windows 11」を正式に発表しました。Windows 11は2021年後半に利用可能になり、2022年前半にかけて、Windows Updateや「Windows Update for Business(WUfB)」「Windows Server Update Services(WSUS)」を通じて無料アップグレードとして提供される予定です。

 このアップグレードは、Windows 11互換ハードウェアでWindows 10 バージョン2004以降を実行するデバイスを対象に、現在のWindows 10の機能更新プログラムと同じ方法で行われます。おそらく手動でアップグレードすることもできるはずです。また、同時期にWindows 11をプリインストールしたPCが登場することになるでしょう。

 Windows 10は、2015年7月に「Windowsの最後のバージョン」(Windows 10 is the last version of Windows)として登場しました。いったんWindows 10を導入すれば、特別なハードウェア要件が追加されない限り、無料で、半永久的にWindows 10を利用できると思っていたユーザーや管理者は多かったと思います。

 しかし、そのWindows 10にも終わりが見えてきました。Microsoftは2025年10月14日までに、少なくとも1つのWindows 10半期チャネル(Semi-Annual Channel、SAC)を継続してサポートすることを明らかにしていますが、それ以降はWindows 10(Windows 10長期サービスチャネル《LTSC》を除く)はサポートされなくなります。

 Windows 11では、スタートメニューやユーザーインタフェース(UI)のデザイン、Android向けアプリへの対応などを中心に大幅に刷新される予定ですが、Windows 10とのシステム要件の大きな違いには注意が必要です。Windows 10の最小システム要件は「Windows 7」や「Windows 8.1」とほとんど変わらず、ごく一部のハードウェアを除いて、Windows 10への無料アップグレードが提供されました。しかし、現在使用されているPCの多くでは、Windows 11にアップグレードできない可能性があります。

 以下の表1は、Windows 10とWindows 11の最小システム要件をまとめたものです。

Windows 10 Windows 11
プロセッサ 1GHz以上のプロセッサまたはSystem on a Chip(SoC) 1GHz以上で2コア以上の64bit互換プロセッサまたはSoC
メモリ 32bit版1GB、64bit版2GB 4GB
ストレージ 32bit版16GB、64bit版32GB 64GB以上
ファームウェア BIOSまたはUEFI UEFI、セキュアブート対応
TPM 一部の機能にTPM 1.2またはTPM 2.0が必要(必須ではない) TPM 2.0
グラフィックスカード DirectX 9以上/WDDM 1.0ドライバ DirectX 12互換/WDDM 2.xドライバ
ディスプレイ 800×600ピクセル 9インチ以上、HD解像度(1280×720ピクセル)
その他 一部の機能にインターネット接続が必要、SモードにはMicrosoftアカウントまたはAzure Active Directory(Azure AD)アカウントが必須 HomeエディションにはMicrosoftアカウントとインターネット接続が必須、SモードはHomeエディションのみ
表1 Windows 10とWindows 11のシステム要件。Windows 11の要件は2021年6月の発表時点

 2コア以上の64bitプロセッサが必須になるということは、64bit版のみの提供と思われます。つまり、32bit版からのアップグレードの道はここで絶たれます。メモリやストレージ、画面解像度の要件も厳しくなり、これは小型ノートPCやタブレットデバイスの多くにアップグレードの扉を閉ざすでしょう。UEFIセキュアブートとTPM(トラステッドプラットフォームモジュール)2.0が必須になることも厳しい要件です。現在は多くのPCが対応していますが、TPMは数年前までは企業向けの高価なセキュリティチップであり、導入コスト削減のため非搭載モデルを選択した企業もあると思います。

「PC正常性チェックアプリ」で対応状況を確認

 Microsoftは、Windows 11にアップグレードできるかどうかをチェックできる「PC正常性チェックアプリ」を提供しています(※2021年6月30日に提供を一時停止中、記事末の最新情報《3》を参照)。

 現在利用中のPCがWindows 11に対応しているかどうか判断できない場合は、このアプリでチェックしてみてください。筆者が所有する複数の物理PCのうち、Windows 11にアップグレードできるのは2020年末に導入したデスクトップPCだけでした(画面1)。

画面1
画面1 2020年末に購入したデスクトップPCは、Windows 11に対応

 3年前に導入したノートPCは、スペック上はシステム要件を満たしているにもかかわらず(2コア、4GBメモリ、セキュアブート有効、TPM 2.0搭載で構成証明と記憶域が準備完了状態)、「このPCではWindows 11を実行できません」という結果が表示されました(画面2)。ちなみに、チェックアプリの「Windows 11を導入しています」や、Windows 10のドキュメントに出てくる「Windows 10登場」の原文は、いずれも「Introducing Windows 11」です(“Windows 11の紹介”がより適切)。

画面2
画面2 3年前に購入したノートPCは要件を満たしているにもかかわらず、チェックをパスしなかった

 チェックをパスしなかった理由として考えられるのは、プロセッサのモデルがWindows 11でサポートされる以下の対応一覧表に存在しないことです。なお、システム要件は今後、変更される可能性がありますし、以下の一覧表に対象モデルが新たに追加される可能性もまだあると期待しています。

 Windows 10デバイスがActive DirectoryドメインやAzure ADドメインに参加している場合、チェックアプリは「このPCでの更新プログラムは組織が管理しています」と表示され、Windows 11との互換性をチェックしてくれません。現時点では、管理者が前述したシステム要件やサポートされるプロセッサ一覧などから判断するしかないようです。

画面3
画面3 更新プログラムをWSUSなどで管理している場合、チェックアプリはチェックを行わない

Windows 10とWindows 11の混在環境、管理の課題

 多くの企業や組織では、Windows 11にアップグレードできないPCが大量に出てくる可能性があります。少なくとも「2025年10月14日」まではWindows 10のサポートは継続されるため、それまではWindows 10とWindows 11の混在環境を管理することになるでしょう。

 Windows 11は、Windows 10と同じように毎月、品質更新プログラムが提供されますが、機能更新プログラムについてはWindows 10が半期ごと(年に2回)から、年に1回となる予定です。また、Windows 10のサポート期間は18カ月が基本で、年後半リリースのEnterpriseとEducationは30カ月ですが、Windows 11はHomeとProが24カ月、EnterpriseとEducationが36カ月に延長されます(表2)。

Windows 10 Windows 11
品質更新プログラムのリリースサイクル 毎月 毎月
機能更新プログラムのリリースサイクル 半期に1回(その年の前半と後半) 年に1回(その年の後半)
Home/Proのサポート期間 18カ月 24カ月
Enterprise/Educationのサポート期間 18カ月(前半リリース)、30カ月(後半リリース) 36カ月
表2 Windows 10とWindows 11のライフサイクル。Windows 11のライフサイクルは2021年6月の発表時点。ProはPro for WorkstationsとPro for Educationを含む

 まだ詳細な情報は少ないですが、以下のドキュメントでは企業向けの展開計画について説明されています。例えば、Windows Update for Businessで機能更新プログラムを管理している場合、「機能更新プログラムをいつ受信するかを選択してください」ポリシーによる延期設定はWindows 10の機能更新プログラムに対してのみ適用され、Windows 11へのアップグレードは「ターゲット機能更新プログラムのバージョンを選択する」ポリシーで管理できるようになる予定です。

 繰り返しになりますが、Microsoftは「2025年10月14日」までは、少なくとも1つのWindows 10 SACを継続してサポートすることを明らかにしています。これが、Windows 10の現在のライフサイクルポリシーに従って行われるのかどうかははっきりとしない部分があります。

 旧OSとなるWindows 10に対して今後、機能更新プログラムが提供されることはなくなり、セキュリティ更新プログラムのみが2025年10月14日まで提供されると読み取ることもできます。その場合、Windows 10の現在のバージョンのサポート期限(Windows 10 バージョン「21H1」は2022年12月13日まで、Windows 10 バージョン「20H2」のEnterprise/Educationは2023年5月9日まで)以降、延長サポートフェーズのようなライフサイクルポリシーの変更が必要になるでしょう。

 Windows 11リリース以降もWindows 10の現在のライフサイクルポリシーのまま、Windows 10に新たな機能更新プログラム(例えば、バージョン23H1やバージョン23H2まで)が提供され続けるということは考えにくいことです。Windows 10 バージョン1703がリリースされた際、一部のプロセッサ(Intel Clover Trail)がサポート対象から外れ、Windows 10 バージョン1703以降にアップグレードできないということがあり、Microsoftは対象のPCに対してWindows 10 バージョン1607のサポートを2023年1月まで提供することがありました。

 現時点でWindows 10 SACバージョンのサービス期限に変更はなく、バージョン「21H1」のサポートは「2022年12月13日」までとなっています(画面4)。

画面4
画面4 現在のWindows 10の各バージョンのサポート期限に変更はいまのところはない

 一方、LTSCバージョンについては、次期バージョン「Windows 10 Enterprise LTSC 2022」がリリースされ、サポート期間が従来の10年から5年(延長サポートフェーズなし)に短縮されることが明らかになっています。このOSビルドは「Windows Server 2022」と共通になると思われますが、同じOSビルドの「Windows 10 バージョン21H2」がリリースされるのかどうか情報はありません。

 企業や組織は、Windows 11に向けて、Windows 10の今後の機能更新プログラムリリースも含めて情報収集を行い、移行計画や管理方法を少しずつ検討し始めるとよいでしょう。クライアントPCのセキュアブートとTPMの現在の状態確認や構成(ファームウェアでの有効化など)といった時間のかかる作業(ドメイン環境ではチェックアプリは使えません)は、いますぐにでも開始でき、現在のWindows 10でもセキュリティの強化につながります。

 また、Windows 10のまま運用するものと、Windows 11にアップグレード可能なものを仕分けることができます。今後、新規デバイスを導入する際、スペックをどうするかについては、Windows 11対応であることを最小要件とすべきでしょう。

 本連載は「企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内」ですから、Windows 11というまだまだ詳細が不明な部分が多い新OSよりも、当面はこのタイトルのままWindows 10の管理について取り上げていきます。

最新情報(1)

 MicrosoftはWindows 10 バージョン21H2(SAC)をWindows 10 Enterprise LTSC 2022と合わせて2021年後半にリリースすることを正式に発表しました。


最新情報(2)

 Microsoftは2021年6月28日(米国時間)、Windows Insider Program向けに最初のプレビュービルドの提供を開始しました。このプレビュービルドは、Windows 11の最終的なシステム要件を今後どうすべきか調査するため、プロセッサおよびTPM 2.0を必須要件としていません。


最新情報(3)

 PC正常性チェックアプリの提供が一時削除され、Windows 11登場(Introducing Windows 11)のサイトでは「準備中(COMING SOON)」になりました。アプリの提供は2021年後半の製品リリース前までに再開される予定です。


筆者紹介

山市 良(やまいち りょう)

岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2020-2021)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。


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