2022年に起こる/起こらない70の技術トレンド、ABI Researchが予測:5GやAI、セキュリティなど20の分野をカバー
ABI Researchは、2022年に起こる、または起こらない70の技術トレンドの予測を公開した。5GやAI、セキュリティ、IoTなどの20の分野をカバーしている。
ABI Researchは2021年12月21日(米国時間)、「70 Technology Trends That Will -- And Will Not -- Shape 2022」と題したホワイトペーパーを公開した。
5Gや人工知能(AI)、デジタルセキュリティ、分散コンピューティング、エッジコンピューティング、IoTなど20の分野にわたって、2022年に起こると予想される35の重要な技術トレンドを挙げた。加えて、ベンダーの宣伝やメディアなどの注目をよそに、実現しないと予想される35の技術トレンドも挙げた。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の防止策、COVID-19のパンデミック(世界的大流行)からエンデミック(特定の地域で普段から繰り返し発生する状態)への移行、世界的な政治的緊張などが、2022年の動向に大きく影響する。例えば、2022年にサプライチェーンの問題は継続し、5Gは企業向けでは引き続き苦戦を強いられ、生産ラインには浸透せず、UWB(超広帯域無線通信)は正確な位置情報を提供するようになり、IoTモジュール市場では中国のベンダーコミュニティーが強さを維持するだろう」と、ABI Researchは述べている。
「5Gコア」「エッジネットワーク」に関する4つのトレンド
(1)エコシステムが分散化し、既存の大手企業(Ericsson、Huawei、Nokia、ZTEなど)の市場支配力が弱まる
オープンなRAN(Radio Access Network)やパブリッククラウド、5Gコアネットワークなど、従来のエコシステムを分散化するトレンドは、製品アーキテクチャが統合設計型からモジュールスタック型へと徐々に進化することを示唆している。EricssonやHuawei Technologies、Nokia、ZTEなどの既存の大手企業が提唱する「オールインワン」アプローチは、最終的にはAltiostarやMavenirなどの新しいサプライヤーが提供する「ベストオブブリード」モジュールソリューションで補完されることになる。
言い換えれば、業界の主要トレンドであるモジュールスタック型は、ソフトウェアベンダーがプラグ互換性のあるコンポーネントやサブシステムを販売し、購入し、組み立てる新たな機会を提供することで、業界構造を変化させる。その結果、非統合設計型ベンダーが、エコシステムの中で支配的な地位を占める統合設計型サプライヤーと競争するようになり、差別化の度合いが希薄化する。統合設計がこれまで競争上必要であったとすれば、将来は、慎重に対処しなければ競争上不利になる可能性がある。勝者となるのは、統合設計型アーキテクチャとソフトウェアベースのモジュールスタック型ソリューションの間でバランスを取るベンダーだろう。バランスを取るベンダーは、問題を解決し、価値を生み出す、きめ細かなビジネスモジュールで効果的に競争できるからだ。
(2)クラウドネイティブな5Gネットワークを構築する通信事業者が、コアネットワーク機能を仮想マシン上のコンテナとして展開し始める
モバイルサービスプロバイダー(MSP)が、コンシューマー市場以外に成長機会を求めて、パブリッククラウドを導入する動きが加速している。この種のコラボレーションで最も興味深いシナリオは、通信サービスプロバイダー(CSP)がパブリッククラウドプロバイダーと提携し、ネットワーク以外のワークロードの運用効率を追求することだ。例えば、AT&TはMicrosoftと提携し、AT&Tのエッジコンピューティング拠点に「Microsoft Azure」のワークロードを導入している。これは、CSPがWebスケールに独自のものを提供できる最初のケースだ。こうした独占的なパートナーシップは、CSPのパートナーとしての可能性を制限する可能性がある。だが、ABI Researchは、2022年中にこうしたパートナーシップが幾つか発表されて、さらには企業の5Gアプリケーションの成功に、Webスケールの巨人が不可欠となると予想している。
パブリッククラウドが、今後のCSPの位置付けにどのような役割を果たすのかは、まだ分からない。しかし、CSPは、何年か先まで利益を生まないかもしれないコミットメントを検討すべきだ。言い換えれば、CSPの戦略は、リスクに対する高い耐性と、クラウドおよび関連する経済モデルに関して知っていることよりもむしろ知らないことから始めるべきだ。成功する戦略は、予測不可能性ではなく、ある程度の予測可能性の上に築かれなければならない。
(3)コアネットワーク向けのパブリッククラウドは、2022年中には普及しない
コアネットワークの領域で業界に地殻変動が起きている。例えば、Microsoftは2021年6月30日、AT&Tのネットワーク・クラウド・プラットフォームのためにAT&Tの知的財産(IP)と人的資本を買収する意向を発表した。これに対し、Verizon Communications(Verizon)は、パブリッククラウドを選択的に利用することを発表した。Verizonは、自社の5Gコアネットワークをホストするために、自社のクラウドインフラを配備する。これは慎重な行動であり、広く適用できる教訓を与えてくれるかもしれない。CSPは、非常に基本的なレベルにおいて、オプション性や収益化の可能性、持続可能な能力が、特にコアネットワークにおける制御と統合から生まれることを理解する必要がある。
今のところ、CSPの戦略的優位性はコアネットワークにあり、特にNGC(5G Next Generation Core)はネットワークスライシングや低遅延アプリケーションなどのエンタープライズアプリケーションの提供を約束するものだ。大まかに言えば、現在を見据えるだけでなく、将来を見据えることができる企業が勝者となる。Verizonのパブリッククラウド戦略は現在を維持するものであり、バランスの取れた判断だといえる。これに対し、AT&Tのパートナーシップは、賭けをヘッジする斬新な戦略を追求することで、間違いなく将来を見据えたものとなっている。しかし、それが十分であるかどうかは、AT&Tや広範なCSPコミュニティーが現在および将来にわたって競合する企業によって決まる。
(4)コアネットワークコンポーネントと多くのクラウドネイティブなネットワーク機能は、ベアメタル上に直接展開されない
「5Gデバイス」「スマートフォン」「ウェアラブル」に関する5つのトレンド
(5)Armはイノベーションを維持するために、ビジネスモデルの変更を余儀なくされる
(6)スマートフォンベンダーの勢力図が変わる。例えばHuaweiは市場からの撤退が近い
(7)パンデミックの影響でウェアラブルとワイヤレスヘッドセットの成長が続く
(8)5Gミリ波スマートフォンの出荷は、2022年には(まだ)本格化しない
(9)スマートフォン製造拠点の中国からの移転は、すぐには進まない
「5G市場」に関する6つのトレンド
(10)中国は5Gエンタープライズ市場をリードする国になる
(11)RIC(RAN Intelligent Controller)とSMO(Service Management and Orchestration)プラットフォームが、新たなアプリケーションとイノベーションの基盤となる
(12)企業がプラットフォームベンダーとしてハイパースケーラーを選ぶようになる
(13)エンタープライズ5Gは2022年の市場で、期待された勢いを見せない
(14)5Gのサプライチェーンの課題は解消されない
(15)アジア太平洋地域では、企業向け5G周波数帯の割り当ての足並みがそろわない
「5Gインフラ」「モバイルネットワークインフラ」に関する5つのトレンド
(16)通信事業者向けインフラベンダーは、Massive MIMOの専門ノウハウにより、利益を維持する
(17)衛星との直接接続による携帯通信サービスが、2022年から離陸する
(18)イーロン・マスク氏が手掛ける衛星ブロードバンド「Starlink」はグローバルプレーヤーにはならない
(19)2022年の家庭向けブロードバンド市場で、LEOの衛星ブロードバンドは大きなユーザー基盤を獲得しない
(20)ミリ波の展開は加速しない
「AI」「機械学習」に関する4つのトレンド
(21)エッジデバイス上の小規模な機械学習技術「TinyML」が普及する
(22)人間の脳などの構造を模したニューロモーフィックチップセットが製品化する
(23)AI規制では、単一の法令や規則への依存は起こらない
(24)新しいAIコンピューティング手法が大規模に導入される
「拡張現実」「仮想現実」に関する2つのトレンド
(25)拡張現実(AR)と仮想現実(VR)でAIの役割と利用が拡大する
(26)AppleによるAR/VRハードウェアの2022年のリリースは望み薄に
「デジタルセキュリティ」に関する5つのトレンド
(27)「ePassport」(ICチップを内蔵した入出国に必要なパスポート)の出荷が回復する
(28)5G向けの安全なAPI管理ソリューションが登場する
(29)代替不能トークン(NFT:Non-Fungible Token)は企業向けブロックチェーンの人気回復につながらない
(30)完全自動化されたセキュリティシステムは、期待されたほど“インテリジェント”にはならない
(31)非接触型チケット陽マイクロコントローラーや同メモリの市場は、チップセット不足で打撃を受ける
「分散コンピューティング」「エッジコンピューティング」に関する2つのトレンド
(32)AIワークロードの要件の厳しさが増し、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)クラスタで、異種コンピュートサーバの混在構成の導入が進む
(33)エッジコンピューティングは急激なブームにはならない
「産業用ロボット」「協調ロボット」に関する3つのトレンド
(34)ロボットプロセッサベンダーが、ハードウェアベースのロボットOSの最適化を推進する
(35)ロボットやドローンが5G対応になる
(36)ロボット工学の専門知識や経験が民主化する
「産業」「製造」に関する4つのトレンド
(37)産業アプリケーションのSaaS化が進展する
(38)デジタルツイン市場が台頭する
(39)5Gは生産ラインには浸透しない
(40)鉱山会社や石油会社では、デジタルソリューションが本社主導で全社的に導入される可能性が低い
「IoTハードウェア」「IoTデバイス」「IoT市場」に関する7つのトレンド
(41)中国のIoTモジュールベンダーの市場シェアは揺るがない
(42)地域活性化策が公益サービス事業者のIoT導入を促進する
(43)持続可能エネルギーのサプライヤーがIoTを積極的に導入する
(44)ソフトウェアが資産の可視化をけん引する
(45)資産の可視化分野では、デバイスのイノベーションはソフトウェア開発の後塵(こうじん)を拝する
(46)公益サービス事業者は新しいインフラに投資しない
(47)IoTデバイスはRFIDには取って代わらない
「IoTネットワーク」「IoTサービス」に関する3つのトレンド
(48)IoT通信サービスでは、大手事業者が今後もリードする
(49)次世代LPWA(Low-Power Wide-Area)ネットワーク、例えばCat-MやNB-IoTの台頭が、軽量M2M(Lightweight M2M:LwM2M)の導入を促進する
(50)LwM2MはMQTT(Message Queueing Telemetry Transport)に取って代わらない
「位置情報技術」に関する2つのトレンド
(51)UWB(超広帯域無線通信)の普及拡大により、精密な位置情報技術が主流になる
(52)5Gポジショニングは代替RTLS(Real-Time Location System)技術に取って代わらない
「メタバース市場」「メタバース技術」に関する2つのトレンド
(53)メタバースではAIとMLがブームになる
(54)メタバースは2022年中には完全な形で実現されない
「スマートシティー」「スマートスペース」に関する4つのトレンド
(55)都市向けスマートセンサーが普及に向かう
(56)都市におけるCOVID-19からの復興では、グリーンソリューションが優先される
(57)循環経済の導入が進んでも、測定可能な成長は見込めない
(58)(ガソリン車などを完全に廃した)新しい都市のコンセプトは、まだ遠い夢でしかない
「スマートホーム」に関する2つのトレンド
(59)スマートホーム規格「Matter」の仕様と対応製品がいよいよ登場する
(60)コンパニオンロボットは主流にはならない
「スマートモビリティ」「自動車」に関する4つのトレンド
(61)自動運転サブスクリプションモデルが転換点に達する
(62)自動車メーカーが半自動運転車の商機開拓を本格化する
(63)新車販売台数は回復しない
(64)Google Automotive Services(GAU)は、宣伝とは異なり、2022年には大規模な導入に至らない
「サプライチェーン管理」「ロジスティクス」に関する4つのトレンド
(65)企業が労働力不足と収益性の問題に自動化で対処する
(66)サプライチェーンのデジタル化による変革が加速する
(67)世界的なサプライチェーンの混乱は終わりが見えない
(68)半導体の供給不足は改善しない
「Wi-Fi」「Bluetooth」「無線接続」に関する2つのトレンド
(69)Wi-Fi 6Eが2022年に6GHz市場を後押しする
(70)「Wi-Fi HaLow」は成功するが、すぐにWi-Fi IoTの主要技術になることはない
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