社会全体でデジタル化が進み、およそ全てのビジネスコミュニケーションにおいて“ITによる支え”が必要な状況になっている。そうした中でシステム開発、運用の在り方も大きく変わってきている。
システムでは、経営環境変化への迅速かつ柔軟な対応が求められるようになった。必要なときに迅速にリソースを調達、拡張できるクラウドの活用が進み、アジャイル開発が積極的に取り入れられるようになった。システム基盤の構築、運用では、サーバ仮想化やクラウドにおいてインフラをコードで管理する「Infrastructure as Code」の実践が進み、必要なインフラを瞬時に用意できるようになった他、コンテナやマイクロサービスを活用した効率的で可搬性の高い運用も可能になった。
昨今はそうした環境を使って、ユーザー企業がシステム開発、運用を内製化する動きも進みつつあり、各種運用業務の標準化、自動化にも取り組み始めているが、SIerによる支援も含めて、実現はまだまだの印象だ。
こうした中で注目され続けているのがSIerの今後だ。日本では開発、運用をSIerに外注するスタイルが一般的だった。ユーザー企業が内製化によってITの主導権を取り戻そうという動きが進む中、SIerの役割はどう変わっていくのだろうか。
クラウド時代に入り、SIerに求められる役割も変化
その問いに対して、長年にわたって企業を支援し続けてきた日本を代表するSIerであるNECの吉田功一氏(共通SIサービス事業部門 プラットフォームSIサービス統括部)は、「これからのSIerが提供すべきものの一つは、SIではなく『ユーザー企業自身がSIを行うための環境』です」と回答する。
「SIは2000年前後からビジネスとして成り立つようになりましたが、そこで重要になったのが、『さまざまな製品や機能をいかに組み合わせて納品するか』でした。ただ、今ほど柔軟にITリソースを調達、配備できなかった当時は、限られたITリソースの中で、堅牢(けんろう)性や信頼性を高いレベルで確保するために、エンジニアはシステムをモノリシックな構造とし、いかに密結合に作るか、という点が技術的に評価されていました。しかし、2010年以降、クラウドの時代を迎えると、この在り方が大きく変わります。お客さま自身で各種ITサービスを組み合わせ、簡単にシステムを組み立てられるサービスが登場してきました。今、SIerにはそれをどう支援するかが求められています」
実際、NECの顧客企業も内製化を望むケースが増えているという。ただ、吉田氏が指摘するように「自分たちでシステムを組み立てられるようになった」とはいえ、「システムを作るための環境」を築く上では、高度な知識やノウハウが不可欠となる。それが内製化を阻むハードルにもなってきた。
「例えば、クラウドネイティブを実践するには、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)やコンテナ運用などを行うための基盤整備が求められます。そして、それには基盤を構成する各種技術に対する深い知見が不可欠です。ただ重要なのは、本当に求められているのは、基盤そのものではなく、基盤を活用した『ビジネスに集中できる環境』です。快適、柔軟に使ってもらうための運用設計を含めたSI環境の提供が重要であり、これはNECの中でも急成長している分野です。お客さまがビジネス貢献を見据えた開発、運用に集中できるよう、NECのエンジニアもリスキリングに取り組み、新たな知見やノウハウの獲得にチャレンジしています」(吉田氏)
一方で、クラウドネイティブに取り組む顧客企業ばかりではない。顧客企業のシステムのうち、7割程度の機能は作り直さずに構造を残したままのリフトにとどめ、3割程度の機能は作り直してシフトするという。
「約7割の機能は、あえてシフトせず、リフトしたまま維持するという選択肢を採っています。その背景には、システムの心臓部をクラウドネイティブに変えることがリスクにつながる場合があることや、お客さまのリソースだけでクラウドネイティブを運用し続ける難しさなどがあります。ただ、そうしたお客さまもリフトだけを求めているわけではなく、リフトにとどめた機能をそのままにしておくと運用の苦しみが続いてしまうため、既存システムに対する運用効率化に向けた新しいノウハウの提供を求めています。当然、そうしたニーズにもしっかりと応えています」
つまり、クラウドネイティブ技術を使った「顧客自身がSIを行うための環境整備」と「既存システムの運用効率化」という2つのニーズがあるわけだ。NECの場合、そのどちらでも「納品して終了」ではなく、「顧客企業の目的に最適な手段」と「目的達成に集中できる運用設計」を組み合わせて提供しているのだ。
クラウドネイティブ開発のポイント、既存システム効率化のポイント
では、以上2つのニーズに対し、NECは具体的にどのように支援しているのだろうか。
まず、「顧客自身がSIを行うための環境整備」では、クラウドにシフトしたシステムを対象に、DevOpsを支えるCI/CD基盤整備を支援する上で2つのポイントがあるという。
1つ目のポイントは、「CI/CD基盤を構築するための初期開発に時間がかかる」という課題を解決することだ。
「クラウドネイティブ開発はウォーターフォール開発とは異なる点で時間がかかりがちです。具体的には、マイクロサービスアーキテクチャによるアプリケーションの設計、ローコード開発ツールの選定、サーバレスアーキテクチャの採用など、考慮すべき要素が多岐にわたるため、実開発に入る前の初期開発で、長い期間を要することになりがちなのです。DevOpsの実践までたどり着けない企業もあります」
そこで求められるのが「初期開発の時短化」だという。具体的には、クラウドネイティブ開発のための多様な手段を熟知したエンジニアがDevOpsという運用フェーズを見据え、その顧客にとって扱いやすいCI/CD実践基盤を設計、整備することで時短化を実現する。その際、ただ単にDevOps実践基盤を提供するのではなく、「顧客企業の目的にかなう手段と仕組み」を提供することが2つ目のポイントになるという。
「ここで大切なのが、目的に即した『割り切り』と『新しい発想』です。例えば、クラウドでは当たり前と思われているオートスケーリングですが、これは『運用に必要な人手の削減』という目的にかなうものであり、『アプリケーション開発の生産性』『高速なリリース』といった目的にかなうものではありません。従来の発想や先入観にとらわれず、そのお客さまの目的にとって最適な手段を選択し、最適な形で組み合わせることが重要なのです」
一方、クラウドリフトしたシステムや物理/仮想が混在したオンプレミス環境のシステムなど「既存システムの運用効率化」については、「長年SIに取り組んできたNECだからこそ見つけることができた」シナリオが3つあるという。
1つ目のシナリオは「仮想リソース払い出しの自動化」。開発者や事業部門などの要請を受けて仮想サーバを払い出すといった定型業務を、構成管理も含めて自動化する仕組みを築く。2つ目のシナリオは「既知/未知切り分け+対処自動化」。インシデントの自動仕分けや、インシデント管理とのシステム的な紐付け、自動復旧を実現する。3つ目のシナリオは「パッチ管理/適用自動化」。対処作業やワークアラウンドの自動実行、解析ログの自動収集、パッチ対象の管理、適用を自動化する。
運用作業効率化のポイントは、これらを“一連のシナリオ”として自動化することにあるという。個々の作業を個別に自動化するのではなく、仮想サーバの払い出しからその後の安定運用/廃棄まで、一連のプロセス全体を視野に入れ、いかに一貫した仕組みで自動化するかがポイントとなるのだ。
NECでは、設計、開発、設定、運用といったシステムライフサイクル全体の自動化、省力化を実現するオープンソフトウェアスイート「Exastro」を使って、まさにそうした仕組み作りを支援している。Exastroは、長年にわたる数多くのシステム運用の現場経験から吉田氏自身が必要として創り上げ、現場で本当に必要とされる機能を搭載しているのが特徴だ。吉田氏は「長年の実績から言って、この3つのシナリオを自動化するだけで既存システムの運用業務を大幅に効率化できます」と話す。
Exastroは「自動化された運用現場」という理想を押し付けるのでなく、幾つもの日本のシステム運用現場を自動化してきたからこそ分かる、「現場の効率化」を重視したツールだからこそ、スムーズに運用現場に導入でき、長年運用しているシステムの効率化にも、新しい試みでも効果を発揮できる。
自身の技術に磨きをかけ、3つの領域でリスキリングしていく
以上、環境整備と運用効率化という2つのニーズへの支援に加え、NECが3つ目の支援領域として打ち出しているのが、同社が持つ各種コア技術をクラウドサービスとして提供する取り組みだ。メーカー系SIerであるNECは、顔認証や生成AIなど、自社で独自開発しているコア技術にも強みがある。それらを顧客各社にエンジニアが出向いて個別に導入するのではなく、AWS(Amazon Web Services)などのハイパースケーラーのようにSaaS、PaaSの形で提供していく。
事例として、既に「Bio-IDiom Services ID連携」というサービスがある。顔認証、マルチID/マルチサービス管理機能と、運用管理者のための機能や端末管理機能をクラウドサービスで提供する。当然ながら、利用開始までのリードタイムは大幅に短縮できる。
吉田氏は「今はNECの各種コア技術を迅速かつ効率良く届けるために、グローバル共通基盤の仕組みを強化しているところです」と語る。
このように、「顧客自身がSIを行うためのクラウドネイティブな環境整備」「既存システムの運用効率化」「コア技術のサービス提供」という3つの支援領域を俯瞰(ふかん)すると、改めてNECが考える「SI変革」の具体像が見えてくる。特に大きなポイントとなっているのは、支援の全てにおいて、「顧客企業の目的に最適な手段を選ぶ」「目的に最適な組み合わせの環境を整備する」「導入後も快適に使いこなせるよう配慮する」といった具合に、徹底的に顧客目線を重視している点だ。吉田氏はSIerの未来をこう展望する。
「多くのエンジニアを従えて、決められた要件に向かって全員で手を動かす、納品する、といったビジネスは減っていくと思います。今回は3つの領域で支援が求められているという話をしましたが、これらはすなわち、お客さまの真の目的や利便性を見据えて各種技術を提供できるか否か、ということだと思うのです。このためには、エンジニアが高い技術力を身に付け続けることが不可欠ですし、それがSIerとして新たな価値を見いだしていく原動力にもなると思います。NECとしても、“ビジネス価値”を迅速かつ幅広く提供していけるようチャレンジを続けていきたいと考えています」
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