生成AIはIT運用にどう使えばいいのか? 現実的な「30%効率化」の方法とは:コードの自動生成だけではない
基幹系など重要度の高いITシステムには24時間365日の運用が必要だが、人材不足やIT環境の複雑化といった理由から手作業での管理、運用は困難な状況だ。日本アイ・ビー・エムはこの課題に対し、生成AIと自動化のソリューションを提案する。
現在の日本企業において少子高齢化、人口減少が中長期的な課題となっている。IT業界も例外ではない。新しい人材が入ってこないだけでなく、人材の流出も激しくなっており、自社システムの維持すら困難な企業もある。また、自社システムを管理していた有識者が高齢化し、知見やノウハウを引き継ぐ前に退職してしまうといった課題もある。
別の視点では、技術の進化のスピードにエンジニアが追随できなくなっているという課題もある。日常の運用業務に追われ、新たなスキルを身に付ける時間をエンジニアが確保できないのだ。
こうした状況を改善するため、日本アイ・ビー・エムは「IT変革のための生成AIでシステム運用の30%効率化を実現へ」と題した講演で、近年期待の高まるAI(人工知能)技術や生成AIによる運用効率化の方法やツールについて紹介した。
IT業務をエンド・ツー・エンドで最適化するAIソリューション
AI技術とIT運用について、日本アイ・ビー・エムの田端真由美氏(コンサルティング事業本部 技術理事)は、次のように話す。
「AIを活用したビジネス変革が注目されていますが、ITを変革する上でもAI技術は不可欠です。人材や有識者の不足をAI技術でカバーすることで、開発スピードの向上、作業工数の削減などの効果が得られる他、有識者の知見も有効活用できます。これによってエンジニアの余力を作り出せば、その余力を新しい技術の取得に当てられるようになります」
日本アイ・ビー・エムが掲げる“IT変革のためのAIソリューション”は「1.AI戦略策定とガバナンス」「2.コード生成のためのAI」「3.テスト自動化のためのAI」「4.IT運用高度化のためのAI」「5.プロジェクト管理のためのAI」という5つのソリューションで構成されている。これによってエンド・ツー・エンドでIT業務のライフサイクル全体を最適化するという。概要は次の通りだ。
1.AI戦略策定とガバナンス
システム開発などITに関する業務(以下、IT業務)は多岐にわたる。“1.AI戦略策定とガバナンス”は「IT業務のどの部分でAIを使うのが効果的か」の判断とロードマップ作成を支援する。また、AI導入のガバナンス策定も支援する。
2.コード生成のためのAI
自社の開発で使う標準的なコードをAIに学習させることで、自社業務に適したコードを自動生成できるようになる。また、コードから仕様書を作成することも可能だ。
3.テスト自動化のためのAI
田端氏によると「テストの自動化は効果を出すのが難しいという声も多い」という。その理由としてテストスクリプトの作成に時間と工数がかかることが挙げられる。だが、AIを活用すれば、開発する機能の要件や仕様情報からテストスクリプトを自動生成できるため、そういった懸念を解消し、テストの自動化の効果を得ることが可能になる。
4.IT運用高度化のためのAI
AIによってIT運用の効率化と自動化を実現する。特にインシデント対応に有効で、過去の対応実績からAIが障害の根本原因や解決策の候補を検索し、関連する設計書や手順書とともに提示する。これによってインシデントに素早く対応できる。また、自動化スクリプトを作成できるため、インシデントレポート作成や復旧作業などの自動化も可能だ。
5.プロジェクト管理のためのAI
プロジェクト管理において、管理者が担う役割は広い。プロジェクトが無事進むようにメンバーに必要な情報を共有しつつ、過去の知見を参考にさまざまな調整をしている。AIを活用することでそうした管理者の作業負荷を軽減できる。プロジェクト管理者の手を煩わすことなくプロジェクトメンバーに指示を伝えたり、レポートを作成するときの評価の方法に、過去の知見を活用したりできるようになる。
田端氏によると、「ソースコードの自動生成」に限ればAIで80%以上を自動化できるという推計があるという。しかし、AI活用はそう簡単な話ではないと同氏は反論する。
「ソースコードを自動生成するためには、AIに学習させる作業やAIが生成したものの確認作業が必要です。日本アイ・ビー・エムはこうした作業も考慮し、具体的なロードマップとともに現実的なAI活用を進めようとしています。まずは開発からテスト、運用までのライフサイクルの効率化を目指し、3年後の2027年には30%、2030年には50%程度の効率化を実現させる予定です」(田端氏)
ヘルプデスク業務からインシデント対応まで運用をAI活用で高度化
「2027年までにITライフサイクル全体の30%をAIによって効率化させる。この取り組みを実現させるために中核的な役割を果たすのが“4.IT運用高度化のためのAI”です」と話すのは、日本アイ・ビー・エムの上野憲一郎氏(テクノロジー事業本部 Principal Automation Technical Specialist)だ。
前述したように“4.IT運用高度化のためのAI”は、AIによってIT運用の効率化と自動化を実現するものだ。実運用で言えば、ヘルプデスクへの問い合わせから、インシデントの分析、対応、復旧作業といった一連の流れを高度化するということだ。上野氏はIT運用のそれぞれのフェーズにおける“4.IT運用高度化のためのAI”の役割を説明する。
1.ヘルプデスクの高度化
チャットbotによる自動応答と定型作業の自動化によってヘルプデスク運用を高度化させる。チャットbotが24時間365日応対するため、オペレーターがいない時間帯でも問い合わせに対応可能だ。例えば、パスワードの再設定作業を自動化しておけば、オペレーターの作業負荷軽減はもちろん、利用者への迅速な対応が可能になる。また手作業による設定ミスも防止できる。
2.インシデント対応の高度化
システムから収集されるメトリックス情報やイベント情報、ログなどの情報をAIで自動収集し、分析させることでインシデント対応を高度化する。例えば、大量のイベント情報が収集された場合、その中からどれが重要なイベント情報で、関連しているのはどれか、どう対応すればよいかをAIに提案させる。複数のダッシュボードを使うのではなく、1つのダッシュボードで統合管理ができることもメリットだ。
3.運用、保守担当者支援の高度化
“2.インシデント対応の高度化”によってAIから提示された対応案が、定型作業ではなく、運用、保守担当者が手作業で対応しなければならないケースもある。そうした場合、具体的な対応方法をAIに推奨させることで、運用、保守担当者の作業負荷を軽減できる。AIは自然言語で過去の障害の内容を分析し、「今回はどのように対応すればよいか、誰が対応するのがよいのか」を判断するという。
4.基盤構築、運用作業の自動化
障害復旧の自動化を支援する。障害復旧作業を手作業で実施すると運用、保守担当者に作業負荷がかかる。また、設定ミスなどが発生する可能性もある。AIで復旧作業のためのスクリプトを自動生成することでそういった懸念を減らせる。
日本アイ・ビー・エムは、既に“4.IT運用高度化のためのAI“を実現するための製品やサービスを提供している。特に注目なのが「watsonx Code Assistant for Red Hat Ansible Lightspeed」だ。
IT運用の高度化には自動化が欠かせない。自動化ツール「Ansible」を使うことで、ネットワーク機器やサーバ、ミドルウェアなどの監視、管理業務を自動化できるが、「Ansible Playbook」という構築手順書を作成する必要がある。watsonx Code Assistant for Red Hat Ansible LightspeedはAnsible Playbookに記述するソースコードを生成AI技術で自動生成できるため、エンジニアによるAnsible Playbook作成業務を自動化できる。
「Ansibleを利用している運用担当者に話を聞くと、『Ansible Playbookの維持が大変』『Ansible Playbookを記述するスキルが足りない』『利用頻度が分からずAnsible Playbookを使った自動化の仕組みを導入できない』などの課題を耳にします。watsonx Code Assistant for Red Hat Ansible Lightspeedの生成AIを活用すれば、Ansibleを最大限活用できます」(上野氏)
上野氏によるとwatsonx Code Assistant for Red Hat Ansible Lightspeedのユースケースは主に3つ。
1つ目は「インシデントの調査、対応」。Ansibleでサーバ状況の確認や、プロセスの死活確認、サーバ再起動などの処理を自動化する。Ansible Playbookに記載するソースコードはwatsonx Code Assistant for Red Hat Ansible Lightspeedに自動生成させればよい。
2つ目は「各種環境の操作」だ。Ansibleを使えば、ミドルウェアの導入や各種設定の実行(ミドルウェアの起動、停止など)の他、仮想サーバやインスタンスの操作ツール「VPC/VSI」(IBM Cloud Virtual Private Cloud/Virtual Server Instance)の作成といったタスクを自動化できる。watsonx Code Assistant for Red Hat Ansible Lightspeedに「やりたいこと」を自然言語で記述するだけで、Ansible Playbookに必要なソースコードを自動生成してくれる。
3つ目は「セキュリティ対応」。セキュリティポリシーの設定、セキュリティパッチの適用などもAnsibleで自動化できる。例えば、watsonx Code Assistant for Red Hat Ansible Lightspeedに「パスワードの有効期限を90日以内に設定してもらいたい」と指示すれば、その設定を反映するために必要なAnsible Playbook用のソースコードを自動生成する。
watsonx Code Assistant for Red Hat Ansible Lightspeed があれば自然言語で記載するだけでソースコードを生成できるため、AnsibleやAnsible Playbookの専門的な知識がなくても、自動化のメリットが得られる。上野氏はwatsonx Code Assistant for Red Hat Ansible Lightspeedの導入効果を次のように説明した。
「自然言語からソースコードを生成することで生産性を向上させられます。また、watsonx Code Assistant for Red Hat Ansible Lightspeedの基盤モデルはAnsibleの認定エキスパートである『Ansible SME』が監修していますのでAnsible Playbookの品質も向上させられます。さらに、Ansible Playbookのスキルの属人化を防ぐ効果もあります」(上野氏)
人材やスキルの不足はビジネスに深刻な影響を与えている。AIによるIT業務の変革は待ったなしの状況だといえる。AI活用に興味がある読者は、IBMのAIソリューションを試してみてはどうだろうか。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2024年6月27日